世界を闇に染めあげた吸血鬼の女王は、次に異世界(日本)を征服すべく降臨したが、全然うまくいかないんじゃけど!

舟木 長介

第1話「世界を統べた夜の女王は、派手にバカ」



「うおおおおおおおおおおお!!! 死ねぇえええぇぇえ!!」



勇者の渾身の一振りが吸血鬼の女王・ヴァルミリオン・ルナ・ノクターナの身体を両断する。


吸血鬼ルナの作り物のように洗練された身体はタロウ・モモの誕生が如く、パッカリと割れた。


「やったか!?」



過去にこの言葉を言って実際にやった者はいない。


「ふふふふふ……」


不気味な笑いと共に、吸血鬼の断面から血と黒い霧が迸り左右に分かれた身体が修復されていく。


銀の髪と赤い瞳を持つ『美女』をそのまま出力したような吸血鬼は、何事もなかったかのように復活を遂げた。


「ば、馬鹿な……!」


「なっはっはっは!! 勇者と言ってもこの程度か!」


そう言って吸血鬼が勇者に向けて手をかざす。


「消え失せぃ!」


「み゛っ!?」


吸血鬼の手のひらから漆黒の魔力がほとばしり、勇者は後方にあった山や都市ごと塵も残さず消滅した。



「ふん、他愛ない」


衝撃によって舞う土埃を払うルナ。


「お見事です、ルナ様」


いつの間にかメイド服を着た二本角を持つ鬼の少女が、吸血鬼の傍に控えていた。


「マリラか。ま、当然じゃろ。普通に楽勝過ぎて逆に『え、これで終わり? ホンマ?』と一瞬心配になったレベルじゃわい」


「ですね」


「そして勇者を倒した今……! ついにこの世界は我の物となったわけじゃ! 真の支配者がここに誕生したわけじゃ!!」


「ですね」


「ロボットかな? まあ良い……我は今、気分がいい。さっそく祝杯を挙げるのじゃ! ちゃんとパーティの準備してるか? 人間の血もたっぷりと用意しろ、とびきりの美少女のヤツじゃぞ!」


高笑いを浮かべ、これから行われる凱旋パーティにわっくわくのルナ。


そんなルナにマリラは言う。



「ありません」



「ひょ?」



ルナは理解が追い付かず変な声が出てしまう。


「ありません……というのは、何がないのじゃ?」


「人間の血がありません」


「!? な、なんで!? 準備しといてって昨日言ったじゃろ!? 明日は勇者倒す日だって我、前から言っといたぞ!」


遠足の日の朝にお弁当がないと知った小学生の如く慌てるルナ。



「準備はしていたのですが」


「まさか、お前ら先にパーティ用のご馳走全部食ったのか!? よくない! 主を差し置いてそういうのはよくないぞ!!」


「そんな卑しい者はおりません」


「ホントか~?」


「ルナ様じゃないんだから」


「!? お、おい今なんか我のこと……! え!?」


ルナは、急に自分の従者にディスられてびっくりしてしまった。



マリラは話を続ける。


「人間の血がないのは、ルナ様が先ほど勇者を攻撃した際、後方の要塞都市ごと吹き飛ばしてしまったためです。あそこは人類が築いた最後の砦でしたので」


「あれ? また我なにかしちゃいました?」


「人体実験で勇者を造ってるようなところなので、別になくてもいいんじゃないですか?」


「あ……そういう感じ? まあ、全部わかったうえで吹き飛ばしたんじゃけどね? これマジだからな?」


バレバレな言い訳をするルナ。


「そんじゃまあ。血はまた別のとこからご用意してくれ。今日が難しいならパーティは明日でもええんじゃぞ? 我、寛大だし」



「無理です」



「即答やめろぉ! すぐ無理とか言わんで! 明後日でも許すから!」


大声で嘆くルナ。


しかし、マリラは無慈悲に続ける。


「1か月後でも100年後でも無理です」


「え?」


「というか一生無理です。人間の血液はありません」


「ちょ、ちょっと待て! 一生!? どういうことじゃ!?」


「先ほどルナ様が吹き飛ばした要塞都市と勇者が最後の人間だからです」


「ほぇ?」


強大な力を持つが、それに反比例するようにあんまり知能はよろしくない世界の支配者は、


なんか安っぽい萌えキャラみたいな声出す。



「かなり昔から人間の間ではモンスターブームが来ていて、人口の99.99%が魔族との混血になっているのはご存じですね」


「え? あ~……うん知ってる知ってる」


ルナは知らないのに見栄を張って知っているフリをする癖がある。


「ようするに、耳とか4つあった方がモテる的なアレじゃろ? 確かにデザイン的にいいもんな!」


ルナは適当に言っているようだが、的を得た発言である。ケモ耳と人耳は両方あった方がいい。


人耳の所在を隠すために横髪が不自然になってしまうくらいなら、進化論にも反逆するべきだ。



マリラはルナの知ったかを適当に聞き流して、話を続ける。


「とにかく、純血にこだわって魔族と混血を根絶やしにしようとしていたのは、もうさっきの勇者とそれを造った者たちだけです」


「ふむ……確かに突っかかてくるのあいつだけじゃたけども……ん? 待てよ、じゃああれか? そんな、みんな我を差し置いて、番い作ってたのか? 手つないだりとか!?」


「混血が生まれているのだから、手をつなぐどころじゃないです」


「じゃあ足も!?」


「ちょっと黙ってください」


吸血鬼は究極の生命体であるため、えっちなことをする必要がない。


なので力だけ無駄にあって、性知識は持ち合わせていないのだ。


「というか、部下たちがなんか知らんうちに、よろしくやってたのもアレじゃけど……都市は丸ごとなくなって、勇者もいなくなって……あれ、我のご飯は?」


「そこにないならないですね」




「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!!!???」




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