第43話 リンカート第2支社
朝からビールを瓶で3本開けたとは、思えないほどの安全運転で、八神美守の車が向かった先は、やや郊外ながら多くのビルが建ち並ぶ一角。
そのビル同士は空中回廊で結ばれ、多くの会社員がそこを通ってそれぞれのビルへと消えていく。
そんなビル達の中でも一際大きいビルの地下へ入っていくワンボックスカー。
「さて、今日から数日世話になる新素材開発部は、ここの6階だから、エレベーターで6階まで行くぞ!」
空いてる駐車スペースへと車を停めた美守が、同乗者に指示をだしつつ、エンジンを止める。
その口振りから、此処がリンカート関連のビルだと察した航平だが、明らかに違和感を感じて、
「此処はどういうビルなのさ?
昨日行ったリンカート本社より立派だけど……」
と訊ねる。
昨日のリンカート本社が昭和を思わせる四角いビルなのに対して、この周辺のビル群は下層が広がった八の字のような曲線的デザインが多い。
そんなビル群の中心部付近に位置して、他より大きなビル。
奇妙な感覚を覚えるのも道理だろう。
「リンカート第2支社。
リンカート本社の支援をメインにしているビルよ」
「支援?」
車を降りつつ、リンカート第2支社の役割を伝える美守に、首を傾げる航平。
本社を支援する会社と言うのは、大抵の人間には聞き慣れないだろう。
「そうよ。
……リンカート本社の目的は知ってる?」
「目的?
……ゲームの運営?」
それに対して、美守がリンカートの目的を問えば、会社なのだから利益追求は必須だろうと、提供するサービスを答える航平。
しかし、
「残念。
リンカート社の目的は、異世界に無理矢理連れ去られる人間を出さないことよ」
「……」
「そのためには、異世界の召喚者達に求められる人材を育成し、その人間を送る。
もちろん本人の同意の元でね」
無理矢理に連れ去られる人間を出さないために、人を送り出すと言う矛盾。
それを営利目的に行っている悪徳企業。
生け贄を出すと言うよりは人身売買と言うべき行為だろうか?
「そういえば、父さんがそんなことを言っていたな……」
「……まあ日頃の斗真様の様子をみるとそういう感想もしょうがないわね。
さて!
人を育て人を送り出すと言っても、そのためには資金がいるわ。
そのお金を稼ぐ部署がこの第2支社を中心としたエリア。
異世界産の素材を調査研究して、地球でも使える方法や生成方法を確立する新素材開発部。
その新素材を他社に売り込む営業部や、自社で新商品開発に取り組む開発部もこの一帯に本部を構えているわ」
人材の育成と派遣は多大なコストが必要となる。
ボランティアでやっていける代物ではないので、会社として利益を出し続ける努力が必要だと、説明する美守。
「そう言ったお金を稼ぐ部署。
特に霊能力者と関わりの深い部署へ、最初は入ってもらおうと思ってる。
それが今日から、しばらく通う予定の新素材開発部よ」
「へぇ……」
「ちなみに、夏休み中はこの辺りのビルがメインの職場になるけど、こちらの方にいる社員は航平達の事情を知らない一般人も多いの。
夏休みを利用して職場体験に来た学生に紛れ込ませるから、そのつもりでね」
……紛れ込ませる。
一般人の職場体験学生もいるのだと、口外に伝えてくる美守。
それに対して、特に気に止めた様子もない航平とは、対照的に女性陣の殆んどが怪訝そうな顔をしている。
折角、八神邸へ入り込んだのに肝心の航平と一緒にいる時間が削がれるのは、面白くないのも当然だろう。
「八神家はあくまでも中立の立場。
各人の努力に期待するってことよ」
そんな周囲の様子を読んだらしい美守の苦笑。
その顔に、愉快犯としか思えない表情の斗真の顔を思い出す羽目になった桃花達。
高い確率で航平と分断されていると、理解したのだ。
「さあ、付いてきて。
……頑張りなさい。
若人達」
妙に年寄り染みた言葉をボソッと呟きながら、社屋へ向かう美守を慌てて追い掛ける航平達。
彼らの波乱の夏休みはこうして幕を開けたのだった。
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