リンカートグループのお仕事

第41話 新しい朝がきた

 それぞれの思惑渦巻く八神邸にも、平等に時間は過ぎて朝が来る。

 今までに比べて明らかに広い部屋で、しばらく知らない天井を眺めていた航平。

 ベッドに誰かが忍び込むと言うラブコメ展開が起こるでもなく、一人きりの起床に、内心落ち込む。

 鍵の掛かった自室に忍び込まれたら、それどころじゃないはずだが……。


 ささっと、着替えて洗面台に向かいつつ、


「父さんはマジで何を考えてこんな家を建てたんだよ。

 造りが完全に旅館じゃないか……」


 と呟く。

 自室の出入り口の隣に備え付けられた洗面台とトイレ。

 これが各部屋に設置されていると言うのだから、どう考えても今日の日のことを想定して造った気がしてならないのだが、まさか父親が未来予知まで出来るとは思えない航平は、妙な恐怖を感じていた。


「本物の神の一柱に、下手な疑問は時間の無駄よ?

 連中は本当に何でも出来るもの」

「うわっ!!」


 誰もいないはずの部屋で、後方から声を掛けられて驚く航平。

 そこには鼠の使い魔が、肩を竦めて立っていた。


「その様子じゃ、感知能力に目覚めていないようね?

 ワタクシ様クラスの魔力を感知出来ないなんて、見習い以下よ?」


 航平の状態に呆れた様子のステラ。

 彼女曰く、


「ワタクシ様の魔力に抵抗出来てはいるのよね?

 じゃなきゃ、今頃あの世だし……。

 なのに、それが利用できない。

 ……すごく不器用なのかしら?」

「……」


 とのこと。

 不器用呼ばわりにイラッとする航平だが、ステラの異様なモノを見る視線が反論を封じてしまう。


「普通1度知覚したら、多少は無意識レベルで動かせるものなのよ?

 集中させるのは難しいけど……。

 脊髄が死んでるレベルの不器用ね?」


 いっそ、憐れみすら感じるステラの表情。

 だが、霊力等々がよく分からない航平には、反論の余地もなく……。


「……」


 変わらぬ沈黙で不満を示すしかない。

 だが、


「まあそんな航平でも、ワタクシ様のようなとても強い魔王様が、ついているのだから不安になることはないわ」

「……」


 さすがに言い過ぎたと思ったのか、フォローするように自分がいると弁明するステラ。

 その態度から、からかうつもりで罵倒したわけでないと気付いて、更に落ち込む航平。


「その内、自由に力が使えるようになるわよ?

 だから、気を取り直して朝御飯を食べに行きましょ?」


 今にも崩れ落ちそうな航平の肩を叩いて励ますステラ。

 しかし、航平の反応は未だに鈍い。

 父親の騙し討ちとは言え、超常能力に目覚める的なイベントを経験し、それによる痛みも十分に受けたのに肝心の超常能力が身に付かないでは、痛み損でしかないのだから、航平の気落ちも分かろう。


「……そうする。

 ……そう言えば、朝食って?」

「優那が、朝早くから材料を買い出しに行って準備進めていたわ。

 良かったじゃない、美少女の手料理よ?

 ……今の見た目は少年だけどね」


 気を取り直したと言うよりは、考えを放棄したと言うべき航平の問い掛けに、楽しそうに答えるステラ。

 それに、


『誰かが朝御飯を作ってくれてるとだけ感謝しよう……』


 と、美少女の手料理うんねんは考えないことにした航平。

 だが、


「ちょっと気になったんだけど、ステラと優那はいつ知り合ったのさ?

 風呂場の時には、怒って出ていったよね?

 その後、和解したの?」


 と疑問をぶつける。

 目の前の使い魔が、一晩で仲直りする性格とは思えなかったのだ。


「……元々喧嘩なんてしていないわ。

 優那は、航平が寝ている時に接触してきた協力者だもの」

「え……」


 少し迷う素振りを見せながら、優那との関係を打ち明けるステラに、2重の意味で驚く航平。


「初対面でいきなり接触したの?

 と言うかそんな簡単にバラして……」


 と疑問をストレートに訊ねる。

 それがステラの誘導とは知らないままに……。


「大丈夫よ。

 優那には航平をどうこうって考えはないの。

 ただ、桃花と仲良くなってほしいと言う思いだけよ。

 だから、下手な誤解を生まないように、一芝居打つのを助けただけ。

 ……ああいう自己犠牲精神は嫌いじゃないの」


 と、自分達に有利な方向へ誘導する回答を返すステラ。

 打算込みで共闘している風を出して、あたかも自分も航平に対して、特別に強い感情を持たないと思い込ませるための布石。


「そんなものか……」


 対して、優那とステラの密約や思惑を知らない航平は、ステラ達を疑うこともなく、受け入れるのだった。

 魔物相手に警戒心を下げると言う危険を知らないままに……。

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