第11話 意外と小さいリンカート本社ビル

 どちらかと言えば、田舎に分類される水ノ瓶市。

 その中心地であり、都会に片足を突っ込んだくらいの規模の水ノ瓶駅近隣。

 その駅近郊の5階建てビルに、フルダイブ型ゲームの最大シェアを誇るリンカート本社が入っていると言うのは、意外と知られていない。

 斗真が言うには、


「だって、うちは基本的に縁故採用だし、自然と少数精鋭になってしまうんだよ?

 大きいビルが在ってもしょうがないだろ?」


 とのこと。

 そんなビルの地下駐車場へ入っていく軽自動車が1台。

 まさか、その自動車にリンカート社の会長一家が乗っているとは思うまい。


「さ、それじゃあ~。

 会長室に行こうか」

「そうね」

「……」


 運転席から降りて、あっさりビルへ入っていく斗真と、それを気にもしない真幸に、首を傾げながら付いていくのは、2人の子供である航平。


「なあ、一応父さんは大手ゲーム会社の会長何だろう?

 それが軽自動車って、庶民的過ぎないか?」


 堪えかねて、エレベーター待ちのタイミングで訊ねる航平だが、


「え?

 だって、軽自動車の方が運転楽なんだよ~?

 小回りも効くし……」

「いや、リンカート社って言ったら、凄い大会社じゃん。

 普通に、出勤する時は運転手付きのリムジンとか……」


 相変わらずのらりくらりの斗真。

 はっきりと問い質そうと思った航平が、良くある大会社のイメージを語るが、


「いやいや、ただでさえ特殊な家系に属する人間って、少ないのよ?

 運転手なんて、余剰な人材浪費は出来ないよ~」

「かと言って、一般人を雇用するのも問題になるわね」

「……」


 両親揃って、そんな回答を出されては沈黙するしかない。

 言うことは一理あるのだ。

 だが、


「せめて軽自動車はないんじゃ……」

「え?

 僕、普段は電車よ?」

「……」


 今度こそ、沈黙するしかない航平。

 八神斗真は庶民的過ぎる会長だった。

 父親がどうやって出勤しているかも知らなかったのでしょうがないとも言えるが……。


 チン!


「お、乗った乗った」


 硬直状態の航平を尻目に、エレベーターへ促す斗真。

 3人が乗ると、すぐに5階のボタンを押して閉める。


「さて、航平。

 何処の部署に行ってみたい?」

「え?

 普通は何処其処で働けって言われるもんじゃ……」

「少なくともうちの会社ではないな~。

 だって、何処でも大歓迎で迎えてくれるだろうし……」


 上に向かうエレベーター内では、何処で働きたいかと訊ねる斗真。

 普通は先に働く場所を指定するだろ?

 と言う疑問にも斗真は肩を竦めるだけ。


「……従業員の大半が身内なのよ。

 加えて、航ちゃんは強い霊力もあるから、大歓迎でしょうね」

「そういえば、父さんが会長で叔父さんが部長の会社だっけ……。

 て、霊力?

 ゲームとかに出てくるやつ?」


 従業員が身内と言う言葉に納得したが、直後、おっとりした母からは不似合いな言葉に驚く航平。

 霊力と言えば、魔力とか神通力とかに並んで、中二心を擽る言葉だが、


「そんな便利なものじゃないと思うけど?

 まあ、使えない僕の感覚だけど……」


 あっさり首を振る斗真。


「それはそうでしょうね。

 神力なんて完全上位互換の能力があるんだもの」

「いや、ちょっと待って!

 そんなにバンバンと、パワーワード出されても……」

「……」


 さすがに、制止を掛ける航平。

 その様子に顔を見合わせる夫婦。


 チン!

 

 丁度、タイミング良くエレベーターが5階へ辿り着く。


「じゃあ、簡単にレクチャーしてもらおうかな?

 真幸さんに……」

「そうね……。

 良さげな仕事とかある?」

「まっかせて!

 これが、結構、真幸さん向けの案件だと思うよ?」


 エレベーターを降りつつ、鞄から書類を取り出して渡す斗真。

 それを受け取った真幸は、


「目的、アンダンタム大聖堂破壊。

 最終勧告済み……。

 いきなり殺っちゃって良いのね?」

「うん。

 先日の内に決裂している案件だし大丈夫。

 あ、戻ってきたら会長室まで来てね?

 辞令を用意しておくから……」


『決裂に大聖堂破壊?

 何か物騒な会話だけど……。

 さすがにこの母さんが、危ないことをするとも思えないし、大丈夫だよな?』


 両親の会話に不安を感じつつ、日頃の母親の言動を根拠に否定する航平。


「あ、真幸さんは昔使っていたアバターそのまま使えるよ。

 航平は、初期調整のを準備してあるけど……」

「実戦積ませてからの方が効率的でしょ?

 それをそのまま使うわ」


『アバター?

 それに実戦って……』


「さて、航ちゃん。

 私達は1つ下の階に戻るわよ」

「え?

 ちょっと?」


 急な予定変更を知らせる母親に困惑の航平だが、真幸は構うことなく、引き摺って行くのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る