スリッパ

 これは、Aさんが小学生の頃、実際に体験したお話。

 Aさんの両親は共働きで、小学生の頃からAさんは一人で留守番をすることが当たり前だった。

 Aさんには兄弟などおらず、基本的には母の帰って来る夜まで一人で過ごしていたのだと言う。

 ある日、学校から帰ったAさんが二階にある自分の部屋で宿題をしていると、一階から階段を上ってくる足音が聞えた。

 もしかして、仕事を早く終えた父か母が帰って来たのだろう。

 そう思ったAさんは、特に気にする訳でも無く宿題を続けた。

 足音は階段を上りきり、二階の廊下を歩いて一番奥にあるAさんの部屋の前に近づいて来る。

 近づいて来る足音はAさんの部屋の前で止まった。

 確かにAさんの部屋の前で足音が止まったのだが、ノック音どころかAさんに呼びかける声すら聞こえてこない。

 不思議に思ったAさんは、気になってドアを開けた。


 ドアの前には誰も居なかったのだが、Aさんの部屋の方向に向いていたスリッパが置いてあったと言う。


 この出来事について、Aさんは私にこう語ってくれた。

「きっと、両親のどちらかが一人で留守番をする私が心配で見に来てくれたんです。生霊として、ですけど」


 もしもあなたが、誰も居ないはずの家の中で足音を聞いたのなら、きっとそれは空耳などでは無いのかもしれませんよ……。

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