ショートホラー集

花水 遥

本物の霊能力者

 私は本物の霊能力者にあった事がある。

 『本物』などとわざわざ付けると、誤解を生んでしまう事があると思うので、私は本物の霊能力者に出会っただけで、偽物の霊能力者には未だ出会った事が無い。

 しかし、よく心霊番組等を見ていると本当なのか? とへそ曲がりな私は疑ってしまうのだ。

 そんな、疑り深い私が「この人は本当に霊が見えている」と信じてしまった出来事を今回はお話したい。

 その方は占い師として活動されている女性で、知っている人も居るかもしれないので、G県という事以外は伏せさせて頂く。

 私がその占い師の方(ここでは仮にHさんとさせて頂く)を知ったのは、顔の広い知人の紹介だった。

 なんでも、その人もHさんに占って貰った際に話していない悩みなどを言い当てられ、悪い霊が近づいているという助言も頂いたそうだ。

 基本的に人間不信である私は、占い師という職業の方は巧みな話術を使い、あたかも見通したかのように話すものだとばかり思っていた。

 しかし、何も情報を引き出さずに言い当てられるのだと言う知人の話を聞いた私は、面白い、会ってみたいと思い。早速Hさんの連絡先を教えてもらい、占いを予約した。

 Hさんのお店は、二度の山道を超えた先にある住宅街の中に佇んでいた。

 占いと言えば、今までは飲み屋街で開いている店やビルの中に出店している印象が強かったので、紹介されなければ辿り着く事はおろか、存在を知る事すら無かっただろう。

 Hさんは常に笑顔で、物事をハッキリ言う女性だった。

 占いが始まり、私は知人にHさんが霊能力者だと聞いていたが、同時にあまり吹聴していないとも聞いていた為、直接「霊や人の過去が見えると聞いたのですが、本当ですか?」と聞くのは躊躇い、丁度悩んでいた仕事について相談した。

 あまり会話をしていないにも関わらず、私の人間性や性格などを言い当てたHさんに関心しつつ、私が本題を切り出そうとしたところ、Hさんが私の家族についての話を話題に上げた。

 Hさんは、私は両親の愛情を受け、恵まれた幼少期を過ごしていたとのことで、父よりも母の方が好きなのだと言った。

 正直、私はこんなものかと内心がっかりしつつ、当たっていると演技をした。

 私の両親は幼い頃に離婚しているし、父は家族の中でも私の唯一の理解者だったのだ。

 反対に母は精神が病みやすい女性で、息子の私にかなり依存しており、そんな母親が内心恐ろしく、連絡を絶っていた。

 まぁ、過度な期待をし過ぎただけで、Hさんは占い師として相当な人だろう。と、勝手に上から目線な感想を脳裏に浮かべた時、Hさんの言った一言が衝撃的だった。


「お母さんの誕生日ぐらい、祝ってあげなさい」


 その言葉を聞いた瞬間、私は気付いた。

これは私ではなく、母の視点で話しているのだと。

Hさんの目は私の目ではなく、私の少し左横を見ていたと分かった瞬間。私は全身に鳥肌が立ってしまった。

ずっと、母は居たのだ。生霊として私の隣に。

もちろん、私はHさんに母と連絡を絶っている事も、誕生日ですら無視している親不孝な人間であるなど一言も言っていない。

Hさんは、母を通じて私を見ていたのだから、私の視点と異なる事は当然であり、Hさんが霊能力者である証拠だった。

最後に、Hさんが「お母さんから生まれてくると選んだのは貴方なのだから、お母さんに感謝しなさい。貴方がお母さんを気味悪がっている事、お母さんには伝わってるよ」

その言葉は、きっとこの先の私の人生で忘れられない言葉になるだろう。


私は親不孝者だが、いつか母に「ありがとう」と言える人間になろうと思った。

その点も含めて、私はHさんに感謝と同時に恐怖を感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る