第17話 協力技?

「何とかなるかもしれないって? どうするんだい?」


 ミカヅキさんは私の話に興味を持ってくれたのか、体をこちらに向けてくる。


 私は近くに転がっていた石を拾って、彼女に渡す。


「これは?」

「それを持ちやすい大きさに加工してください」

「どうして?」

「すぐに分かります!」

「わ、分かったよ」


 彼女は頷くと、すぐに道具を出して石を加工し始めた。


 私はそれを見て、次にクルミさんに話しかける。


「クルミさん。魔法で高くて頑丈な塔とかを出してもらえますか?」

「塔……? できるけど……あ、もしかして」

「分かってくださいました? お願いします!」

「うん」


 彼女は悲しそうだった表情を変えて魔法を使う。


「『土魔法:石の塔ストーンバベル』!」


 彼女が魔法を使うと、高さ20mほどの石の塔がすぐに出来上がる。


 私はネムちゃんに話しかける。


「ネムちゃん! 私に強化魔法をかけてください!」

「強化魔法なのです?」

「そう! ツバキさんの家を掃除した時に使ってくれたでしょう⁉」

「分かったのです! 『強化魔法:身体強化フィジカルブースト』」


 私の体に力がみなぎってきて、視界も遠くを見渡せるようになった気がする。


「できたよ」


 そう言ってミカヅキさんは私に持ちやすくなった数個の石を渡してくる。


 私はそれを受け取り、3人に告げた。


「皆さん! 危ないかもしれないので、少し離れていてください! では行ってきます!」


 私は3人の返事も待たずに勢いよく石の塔を目掛けて走り出す。


 2人は少し困惑こんわくしていた。


「サフィニアは何をするつもりなんだい?」

「分からないのです」

「いいから! すぐに離れるよ! あたしの考えが確かなら……」


 流石クルミさんだ。

 他の2人の背を押して石の塔から少しでも離れようとしてくれていた。


 私は以前、がけを走って登った時のように、クルミさんが作ってくれた石の塔を走って登る。


「そんなことできるの⁉」

「嘘なのです⁉」

「嘘じゃないから! あの子はすごいから! いいから離れる!」


 後ろでは悲鳴ひめいのような声が聞こえるけど、私は登ることに集中した。

 そして、頂上に足を着いた瞬間、石の塔を蹴り壊すほどに強く踏みしめて空に跳ぶ。


 バガァン!!!


 私の下では石の塔が音を立ててくずれた。


 私はすぐに上空を駆け上がり、雲の近くになった辺りで上昇が緩やかになる。

 そして、ネムちゃんにかけて貰った魔法のお陰で上がった視力を使って、北の森の付近に目を凝らす。


「……あれか」


 レーナさん達はすぐに見つかった。

 ゴブリンらしく数だけは多いので見つけること自体は簡単だったから。


 後はレーナさんが戦っている相手に狙いを定め、私は手に持った石を振りかぶる。

 そして、上昇が止まるその瞬間を待って、狙い目掛けて石を投げた。


「いっけえええええええええ!!!!!」


 私の手から放たれた石は目標に向かって真っすぐに飛んでいく。


 レーナさんを助ける。

 そして、この町を……リンドールの町を守ろうと戦っている人全てを守れるように。


******


***レーナ視点***


「まずいね……」


 あたしの前にはゴブリンジェネラル。

 下卑げびた笑い声を上げながら、攻撃を繰り返してくる。


「ゴギャギャギャギャ!」

「しまった!」


 あたしは長時間の戦闘による疲労によって、思わず足がもたつき転ぶ。


「レーナ!」

「あんた!」


 しかし、あたしの代わりに旦那であるタンガンが切られてしまう。


「レーナ……逃げ……ろ」

「タンガン! タンガン!」


 旦那はそのまま転がって意識を失う。

 いけない。

 急いで治療をしなければ、メンバーの白魔法使いを探すけれど、彼は彼でゴブリンと戦っていてこちらに向かってくる余裕はなかった。

 第一、目の前にはゴブリンジェネラルがいる。


「ああ……ここまで……か」


 精一杯やった。

 戦えない子は逃がした。

 でも……まだ……生きたかった。


 あたしは目を閉じて、タンガンを抱き締める。


「ゲギャギャ!」


 ゴブリンジェネラルは叫びながら剣を振り下ろす。


 ボッ!


「……ん?」


 いつまで振り下ろさずにいるのかとゴブリンジェネラルの方を見ると、奴の上半身は消えていた。


「え……」


 そして、次の瞬間、近くでものすごい炸裂音さくれつおんが響く。


 ドッゴオオオオオン!!!


 ドゴン!

 ドゴオオオオオオン!!!!!


「なんだい⁉ なんなんだい⁉ 一体何が起きているんだい⁉」


 あたし達の周囲では、土が吹き飛び、そのついでとばかりにゴブリンだけが吹き飛んでいく。


 まるで隕石でも落ちてきたかのように……。


 あたしは目を凝らして、石が降り注いでくる方、南の上空を見る。


「あれは……天使? いや……」


 なんとなく……見覚えのある様な……でも、遠すぎて白魔法で強化した視力でも見ることはできない。

 でも、あたし達の援護をしてくれている事だけは分かった。


 その隕石はそれから数分おきに降り注ぎ、ゴブリンが集中している場所だけを正確に粉砕ふんさいしていく。


「……ありがとう。感謝するよ」


 あたしは誰にでもなくそう呟いて、タンガンを白魔法使いの元に運ぶ。


******


***領主視点***


「クソ! いいからすり潰せ! いつまで手こずっておる!」


 ワシは攻めずにこちらの様子ばかり窺っているゴブリン達への怒りを部下にぶつける。


「しかし! ここで強引に攻めてはこちらの被害が!」

「だが! 北からもゴブリンジェネラルが来ておるのだぞ! このままでは挟み撃ちを食らう!」

「冒険者達を北に派遣しました! 焦らないでください! もし奴らに隙でもできれば……」

「そう言っている間に北が突破されるわ! 多少の被害はかまわん! いいからやれ!」

「はっ! かしこまりました!」


 部下がそう返事をした瞬間、ゴブリン達の陣地が破裂はれつした。


 バッガアアアアアアアアアアアン!!!!!!!


「……な、なにが起きた⁉」


 敵陣で起きたこととはいえ、あまりの音に極大魔法でも打ち込まれたのかと思ったほどだ。


 だが、その音は敵陣だけで聞こえてくる。


 バッガアアアアアアアアアアアン!!!!!!!

 ズドオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!


 少し待っている間に、ゴブリン達の陣地でのみ謎の爆発が起きていき、ゴブリン達も何が起きているのか慌てていた。


 しかし、そんな時こそが好機だ。

 音がしなくなったことを確認してから命令を下す。


「全軍! 突撃!」

「はっ!」


 残っているのは慌てて散り散りになっているゴブリンだけ。

 正直、後は副官達だけでも問題ないだろう。

 残敵相当に半数、北の援護に半数の兵士を差し向け、先ほどのなにかのことに思いを巡らせる。


「しかし……さっきのはなんだったのだ?」


 ワシがそう呟くと、近くにいた凄腕すごうでの護衛は口を開く。


「南から降ってきたように見えた。味方だろう。確認に行ったらどうだ?」

「なるほど、ここの敵はもう雑魚しか残っておらんな。後は任せる。お前はついてこい」

「はっ!」

「了解」


 副官に後の事を任せ、ワシは凄腕の護衛と数人を連れ南に向かう。


 あのような芸当ができる者がいるのであれば、是非ともかかえねば。


 できる限りの速度を出して、南に向かった。


******


「ふーこれで大体の敵は吹き飛ばしました! 急いで戻りましょう!」


 私は3人にそう言う。

 上空に上がって石を投げつつ、北だけじゃなく西の方にも石を投げ込んでおいた。

 味方には当たらないように気を付けたから、大丈夫だと思う。


 急いで町に行こうと提案ていあんすると、クルミさんに止められた。


「待って!」

「どうかしたんですか?」

「これは……片付けて行かないと多分ばれるんじゃないかな」

「あー……」


 私は、自分が踏み壊した塔の残骸ざんがいを見つめる。


 空高く跳び上がる度に石の塔をクルミさんに作ってもらったので、その回数分だけの残骸があるのだ。

 そして、ここに最後までいたのは私達ということは外の冒険者が覚えているだろう。

 だから私達がすることは……。


「これを今から全力で片付けるですね!」

「そうだよ! あたしは魔法でできるだけ遠くに運ぶから、ミカヅキは細かくして! サフィニアも細かくしてくれると助かる! ネムちゃんは……2人に強化魔法をかけてて!」

「任せたまえ!」

「分かりました!」

「頑張るのです!」


 そうして、私達は石の塔があった痕跡こんせきを全て消し去る。


 私が拳で石を砕き、ミカヅキさんがさらに細かく切り刻み、クルミさんが魔法で森に隠すように振り撒く。

 ネムちゃんの強化魔法にもだいぶ助けられた。


 なんとか証拠隠滅しょうこいんめつもできて、後はここから逃げるだけ。


 町に戻ろうと思った時に、遠くの方で豪華な鎧を着たおじさんと、その人を囲むようにして人達が私達に近付いてくる。


 彼らの目的は私達であるようで、一直線に向かっていた。


 そして、出会い頭に大声で聞いてくる。


「お主達! 先ほどの爆発は何があったか知らぬか⁉」

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