第2話  生まれ変わりの人生、リア充してます

20年近くの月日が流れ、ここは東京都ニュータウン都市の西中岡市。

クリスマス直後の12月26日の朝。もう年末だ。

雪こそはまだ降らないものの、まさに冬本番を迎えようとしていた。

綺麗で近代的な街並み、大手住宅メーカーが建てたであろう美しい住宅が立ち並び、

大規模なマンションも林立している。

緑も適度にあしらわれた美しく整えられた街路は車も人も快適に通行している。

住宅地の中の少しばかりの遊具とベンチがありホッとするような小さな公園。

そんな新興住宅地を冬の優しい朝日が包み込んで輝いていた。

その小さな公園からすぐ近くのエリアの「田中」の表札がある住宅の玄関が開き、ある青年が出てきた。

彼の名は市立西中岡大学一年生の田中弘樹。

カジュアルな服装に肩掛けカバンにテニスラケットを手にしていた。

と同時に何かを言い忘れたかのように振り返り、

「あ、母さん。今日は夕御飯はいらないよ。サークルの後に街づくり市民会議があって、ついでに懇親会があるからね。少し遅くなる。行ってきます!」

そう言うと小走りで住宅地の道を駆け出していった。

「んもう、弘樹ったら相変わらず忙しいんだから。たまには家でゆっくりしたらいいのに」

母親が少々あきれたように軽くため息をつく。しかしその表情は軽く笑みをたたえた。

「ハハハ、忙しい事はいい事さ。若いうちは色々用事があって忙しい位がちょうどいいんだよ」

出勤準備を終え、笑いながらネクタイをいじる父親。市内の郵便局に勤めている。

「あ、お兄ちゃん待ってよ~。私も一緒に駅まで行くんだから」

バタバタと二階から降りてきたブレザー制服姿のショートボブ女子高生が玄関に向かって突進する。

「春奈!慌てないで。駅に着けば弘樹はいるんだから。気をつけなさい」

「分かっているよ~。でもお兄ちゃんは足早いから。行ってきます!」

玄関から飛び出す。

「まったく・・」

「春奈にとっては自慢の兄だからね。自慢なのは自分たち夫婦にとってもだろ?」

「そうね。そうだよね」

夫婦は窓の外を見てつぶやいた。


全力疾走する高校二年、田中春奈。手にはバドミントンラケットとリュックを背負っていた。

運動部女子らしく大きなストライドが力強い。

すぐに一人の黒髪の好青年風のイケメン、田中弘樹を見つけると絶叫した。

「お兄ちゃん!待ってよ!私も一緒に駅まで行くよ!」

小走りに街路を駆ける青年が振り向く。

「おっ春奈か。そんなに急がなくても大丈夫だってば・・・」

ハアハアと息を切らす。

「でも駅までは一緒に行きたい!いいでしょ?」

「まあ、春奈がそういうなら」

「やった~」

ガッツポーズが自然に出る。

「まあ、ゆっくり駅まで行くか」

二人で横並びに歩き出す。その時だった。

「おっ、弘樹君に春奈ちゃん。通学かい?」

ほうきを持った近所のおばさんが声をかけてきた。

「はい!おはようございます!清々しい朝ですね」

「おはようございます。佐藤さん。この前は野菜ありがとうございました」

「いいんだよ、実家の農家からおすそ分けしてもらっただけだよ」

「とても美味しかったです。早速料理に使いました」

近所さんとも会話が弾む。

「では二人とも頑張ってね」

「はい!」「では失礼します」

兄妹で他愛のない話をしながら駅を目指す。

しばらく住宅地を進むとこじんまりとした駅が見えてきた。

堀境田駅。ニュータウン住人が都市部へ行く玄関口だ。

西口と東口があり、双方とも小奇麗に整備された駅前広場はニュータウンにふさわしい近代的な駅である。

駅西口にはチェーンのファミレスや居酒屋、スーパーなどがあった。ちょっとした市街地であった。

二人はコンパクトな駅東口広場に入る。東口にはマンションやアパートそして住宅地が立ち並ぶ。通勤通学客だろうか。沢山の人が改札口に吸い込まれていく。

「ん?」

駅前広場の片隅に缶コーヒーの空き缶が落ちていた。

弘樹はさっとそれを拾った。

「お兄ちゃん、エライ!」

春奈が思わず拍手する。

「当然のことをしたまでだよ」

偉ぶることもない好青年が弘樹であった。

駅に進むと駅の横にあるコンビニから一人の短髪の好青年が出てきた。

「おう、雅敏君ではないか。早いな。お前もこれから大学か」

「おはよう弘樹君。まだ僕らは一年だ。少しでも早く通学して学校で準備をしないと」

梅田雅敏。弘樹の中学校時代からの同級生であり、親友だ。中高とソフトテニス部で一緒に活動している。大学でも一緒だ。

「おはようございます。梅田先輩」

「春奈ちゃんも一緒か。小中高とバドミントンで頑張ってたよな。兄貴もすごかったが春茶ちゃんも中々だったよな」

「いえいえ、私なんか特に・・」

照れながらも両手をブンブンと振って軽く否定する。

「さあ、行こう。一駅間とはいえ、西中岡駅から少し歩く。時間かかるぞ」

三人は改札へと入っていった。

「まもなくホームに列車が参ります。次は西中岡へ停車します」

駅員のアナウンスが騒々しく響く。

弘樹は先程拾った空き缶をホームに設置してある缶入れに投入した。

すぐに列車がホームに進入し列車に乗客が吸い込まれて動き出してゆく。

「雅敏君、来年早々だ。成人式の後、中学校同窓会だな。準備は大詰めになるぞ」

「ああ、早いな。開催まで半月ちょっとだ。幹事として抜かりなくやってるが副幹事の美帆子ちゃんの頑張りもあったし何より弘樹君のバックアップがあったから万全だ」

「僕は大したことしてないよ。一緒に頑張って同窓会を成功させような」

「お兄ちゃんは中高と生徒会長だったからね~。そりゃ無視できない存在だよ」

「おいおい、だから大したことないぜ。皆が支えてくれたから会長もしっかり務めることができた。お礼を言いたいのはこっちの方さ」

「よろしく頼むぜ。相棒!」

三人の若者は吊革につかまりながら歓談する。

しばらくして列車は西中岡駅に到着した。改札を出る。

「じゃあな。僕たちは北口だ。春奈は南口だろ。お互い勉強頑張ろうな」

「もうお別れか~。また家でね。懇親会があまり遅くなるようだったら連絡入れてね」

「大丈夫だよ。またな」

春奈は南口に向かって歩き出す。

「春奈ちゃん、いい子だね。自慢の兄貴を持って幸せだな。そりゃ同じ高校に進学しちゃうわけだ」

「おいおい・・」

北口を出る。先ほどの堀境田駅とは桁違いに大きな駅前広場と人の群れであった。

西中岡駅。ニュータウン地区のみならず西中岡市全体の中心地だ。北口には大規模なショッピングモールが駅のすぐそばにあり、少し歩けば「市立西中岡大学」が街のシンボルとして鎮座しているのだ。

駅前では警察官らが地域のボランティアらと共にのぼり旗をもって見守りをしていた。

「年末地域安全運動に協力をお願いします!」

ボランティアの高齢の男性と目が合い、挨拶をした。

「田中弘樹君だよね?お疲れ様だね。今日、よろしくお願いするよ」

「あ、自治会長の須藤さん。こちらこそよろしく。会議と懇親会楽しみですね」

握手を交わす二人。見守る雅敏。

「お!誰かと思えば懐かしいな。田中君ではないか?」

警察官らの一人、若手刑事らしき人が話しかけてきた。

「杉田警部?お久しぶりです!」

杉田というガタイの良い眼鏡の若手刑事は弘樹を発見するなり満面の笑顔を浮かべた。

「えっ弘樹君は警察とも知り合いなのか・・・・」

雅敏はただ驚愕の表情を浮かべて茫然としていた。










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