魔法について

 

 

「ユート、教会に行ってみないか?」


「?」


 エリーの仕事を手伝うようになってから初めての休みの日の朝、昨日の疲れが取れない中でご飯を食べているとエリーからそんな話をされた。


「ユートは多分魔法の適正ってみたことないよな?」


「うん、値段高いし。魔法なんてほとんどの人が使えないしね」

  

 魔法の適正確認というのは、結構豪華なご飯を家族で食べれるくらいの値段なうえに僕が魔法に興味がなかったこともあって今まで教会に行ったことはなかった。


「……そういえばそういうことになっているんだったな…」


「ユート、魔法とは本来そう言うものではなくてだな……」





 


 そこから少しの間、エリーによる『魔法』についての話を聞いて分かったのは『魔法』は平民でも使える人がいるけど体の中に魔法を使うために必要な力が少なすぎて魔法を使うことはできない。

 だから正しく言うとするなら『使える』というレベルの人が少ないだけということらしい。

 僕が言っていた、『ほとんどの人が使えない』というのはそういうことにしておかないと無理やり使おうとして死ぬ可能性があるから騎士団が情報を操作してそういうことになっているとのことだった。


「一応、言っておくと私は使えるぞ」


「え!そうなの!」


 一緒にいるようになって大体ほぼ三年になるがそんなことを聞いたことも見たこともなかった。


「ほらな」


 エリーが手のひらを天井に向けると、そこにトマトぐらいの大きさの水の球が生まれた。


「……すごい」


 僕がその水の球をじっと見つめているとエリーはすぐにそれを消してしまった。


「あぁ…」


「こんなところだ」


「さっきのをすると死んでしまうくらいの魔力量が一般の魔力量だな」


「なるほど……」

 

 今まで興味のかけらもなかったがこれを見ると、教会に適性確認をする人たちが一定数いるのもわかる気がした。


「ユートも男だな、そんなに目をキラキラさせるとは。もっともユートの男らしさは私が一番よく知っているが」


「昼ご飯の後にいつもの馬車に来てもらうように言ってあるからそれで行くぞ」


「うん、わかった」


 そうしていつも通り、朝の間は二人でエリーの魔法を見たりしていちゃつきながら過ごした。






「ありがとうございました」


 御者の人はいつも通り、言わずに一礼だけして去っていく。


「久しぶりだな、マリア」


「あら、エリーじゃない。本当に久しぶりだわ~」


 教会のドアを開けると、奥からちょうどエリーと同じか少し上くらいのシスターが出てきた。

 マリアと呼ばれたその人は僕よりも高い身長で大きな胸を持った母性の強い人だった。


「その子は?」


「紹介しよう、私のユートだ」


 エリーの声ではっとした僕はその紹介に合わせて、最近やっと慣れてきた従者としての振る舞いをその人に向かって行う。


「エリーの従者をさせていただいている、ユートと申します」


「あら~かっこいい子じゃない、私がもらいたいくらいの子だわ~」


 腕を広げて、僕のことを抱きしめようとしたマリアさんと僕の間にエリーが立ちはだかった。


「さっさと魔力測定の機械を持ってこい」


「は~い」


 渋々といった感じでマリアさんは教会の奥にその機会を取りに行くと、僕の方を向いたエリーが何やら怖い顔をしていた。


「なぁユート、家に帰ったら私の良さをいつも以上に教えてやるからな」


「……はい」


 

「はぁこの機械重いのよね~」


 大きな胸を揺らしながら、マリアさんが持ってきた機械は中に五つの星のようなものが入っている水晶玉だった。


「ユート、これに手をかざしてみたらそこでユートの『色』と『強さ』がわかる」


「わかりました」


 エリーの言葉の通りに僕がその水晶に手を近づけると、水晶の中にあったすべての星が紫色に光った。


「……!」


「これは…面倒なことになるかもしれないな……」


 さっきより少し暗い顔でエリーがそうつぶやいた。

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