農作業とご近所さん


 「ほら、そんなんじゃ土は柔らかくならないぞ!もっと深く鍬を刺さんかい!」

 早朝から僕は秀影おじさんと一緒に農作業をしていたのだが、しばらく外に出て運動などもまともにしていなかったので力を全くと言っていいほど込めることができず土が全然耕せないのだ。


 「ひぃ、ちょっと、キツイです、これ……。」正直ちょっとどころではなくめちゃくちゃキツイのだがそうは言い出せずに僕はちょっとという言葉で誤魔化す。

 「ふぅむ、分かった。じゃあ耕す仕事じゃないのをお願いしよう。」

 そう言って秀影おじさんは段ボール箱を持ってきた。

 「ここにそこで沢山育ちきっているナスを詰めてご近所さんに配りに行ってくれ。ほれ、自転車の鍵も貸してやるから。」

 僕は自転車の鍵と段ボールを受け取ってナスが栽培されているコーナーへと向かう。


 緑のカーテンという言葉にありがたみを感じたことは今までの僕には無かったのだが今だけは違う。

 ナスを沢山実らせた畑はいい感じに影を作っており、僕にとってはとても作業のしやすい環境だった。

 ナスを沢山段ボールに詰めたところで秀影おじさんから借りた自転車の後ろに付いている荷台に段ボールを括り付けて隣にある家を目指す。

 歩きではないと言っても炎天下の中を荷物を積みながら自転車を漕いでいるのでとても重いし辛い。


 「こっちもこっちで、めちゃくちゃ辛いやん……。」自転車を漕ぎながら愚痴を吐いているうちに1軒目の山田さんの家に着く。

 僕はインターホンを押し、ナスを渡すと山田さんは少し待っててと言ってきゅうりを持ってくる。

「これ、少ないけどお礼やから持ってってな!」と笑顔で言われてしまってはどうしようもないのでナスの山の削れた所にきゅうりを入れ、また次の家へと自転車を漕ぎ出す。

 しばらくして2軒目、3軒目と回って行ったがどこでもお返しを貰い、気づけばナスだけだったダンボール箱は様々な野菜などでいっぱいになっていた。


「な、なんで結局こんな量になってるんだ……?」出発した時と変わらない程様々な野菜が段ボールには入っている。

 しかも行きは下り坂だった道は帰りは上り坂になっており、とてもではないが漕ぐのが大変でこういう時に電動自転車だったらなぁ。と思ったりもする。

 何とか坂を登りきった後は汗だくになりながら実家に向けて自転車を漕ぐ。


 道自体はここから引っ越して東京に移る前と変わらないので迷うことはないが体力が昔よりも明らかに落ちているのを実感する。

 昔は自転車さえあればどこまでも行けるような気がしていたが今ではそんなことは無く、バスで座って移動したいなと思うほどだ。

 実家に息を切らしながら帰ると母親が昼食を作って待っていた。

「秀影おじさんにお昼だって言ってきてくれない?その間に用意しとくから。」


 疲れている体に食卓に置いてあった麦茶を流し込んだ後で僕は畑に向かう。

秀影おじさんを呼ぶとすぐに行くと返事が帰って来て、ついでにそこの荷物を持って言ってくれと近所から貰ったスイカが何個も入っているダンボール箱を持たさせられる。

 母親の元へスイカを持っていくと食後のデザートだと言って氷水に一つだけスイカを漬け始める。


 秀影おじさんが戻ってくると僕達は母親が用意してくれた昼食を食べ、そのまま縁側に移動する。

 スイカを食べようとしていると秀影おじさんはお茶があった方がいいだろうと言って急須を取りに行った。

「そういえば、吉人。最近部活はどうだ?」

 急須にお茶をいれてきた秀影おじさんが僕に尋ねてくる。

「ぼちぼち……だよ。最近はあんまり活動してないだけ。」

 僕は親戚に部活のことを聞かれる度にこう言って嘘をついてきたので今回もいつもと同じ理由で嘘をついた。


「そうか……。まぁ、そのうちバンドの生演奏を聞かせてくれ。俺ももう長くないだろうしな。」

 何とかごまかせたらしく秀影おじさんにはコンサートの予定があれば伝えるとだけ言っておいた。

 その後、午後はまた過酷な土を耕す仕事を延々と夜までやらされ、ヘトヘトになりながら夕飯を食べお風呂にも入り、そのまま気づけば布団で寝ていたようだ。

 起きると母親の筆跡でメモが置いてあった。

「吉人へ 明日早速バンドのメンバーの代表が来るらしいので打ち合わせを午後からお願いしたいらしい。よらしく。」

 どうやらバンドメンバーは愛宕祭は1ヶ月後だと言うのになるべく早めに用意しておきたいようだ。


「はぁ、しょうがない。行くか。」

 既に時計は11:00を回っており、母親と秀影おじさんは畑仕事をしているようで、机の上にはおにぎりが何個か置かれていたのでそれを頬張り、お昼にする。

 バンドメンバーとの打ち合わせは町役場の面会室で行われる予定らしく、少しバスに乗って出なくてはならない。

 机の上におにぎりと共にあったお小遣いですと書かれた紙の下にあるお金を財布に乱雑に詰め込み、バス停から村役場に向かうバスに乗る。


 村役場までは数十分で着いてしまい、少しだけ予定より早くついてしまったので僕は近くで時間を潰すことにした。


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お久しぶりの方はお久しぶりです。ぽてぃと申します。

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