第18話 親戚のおじさん


 一学期の期末試験も無事終わり、7月の中旬に入る前には成績表を返され、この時代に帰ってきてから初めての夏休みに。


 8月の頭には県の総体も終わった。全国に出るような強豪校でもなかった俺達は、無難にベスト16で敗れ、三年生も引退した。

 キャプテンには、前世の時と同じように総司が選ばれたんだけど、俺は何故か副キャプテンになっていた。


 え?前の時と違うんだけど?



 顧問に俺を押しまくった張本人に理由を訊ねると、


「だって、なんか安心出来るから」

「いやいや、なんでだよ」

「一番気心知れてるし」

「他にちゃんとした奴いるだろ」

「お前だってちゃんとしてるだろ」

「納得できん」

「なんでそんなに嫌がるんだよ。あ、単にめんどくさい、とかはなしな」

「ちっ…」

「舌打ちはよくないな~」


 前世では顧問の指名で、総司の次に上手かった、スモールフォワードの長谷川が副キャプテンになった。普通にいい奴だったし、その時だって誰も反対することなく、話は進んだじゃないか。なのにどうして…


「何か理由があるのか?」

「ん~…なんとなくなんだけど…」

「うん」

「凌真って、落ち着いてて安心出来るんだ」

「はい?」

「なんだか大人っぽくなったよな」


 そりゃ二週目だし、死んだ時は今より3倍は年取ってて、嫁も子供もいたからな。

 でも、そんなこと言えるわけない。


「そ、そうか…?」

「うん。なんか親戚のおじさんみたいだ」


 え?失礼じゃね?


「なんなんだよ、それ」

「悪い悪い。悪い意味じゃないから」

「悪い意味なら怒るけどな」

「まあいいじゃん」


 何がいいのか分かんないよ?ちゃんとおじさんに説明してごらん?


 総司は「とにかく!」と言って、こちらに勢いよく向き直ると、


「頼むよ。俺達、親友だろ?」


 総司にさっきまでのふざけた感じはなく、真面目で、何より優しい目で俺を見ている。


「…分かった。俺の負けだ」

「ああ。よろしくな」

「はあ…。ところでお祭りのことだけど」

「確か俺と凌真、あとお前とセットの姫宮と西野、橘さんと林兄妹だったか」


 こら、セットとか言うんじゃない。しかもちょっとニヤついてるのが更に腹立つ。


「そう。来週の土曜日、2時集合だってさ」

「分かった。楽しみだな」


 前世では涼花と一緒にこのお祭りに行って、そして、その時に告白したんだったな。

 たぶん当時は二人してぎこちない感じだったことだろう。


 でも今は、もう既に付き合っている。


 今回このお祭りで涼花は、西野のフォローをしつつ、俺と共に林を監視するという話になっている。

 でも「楽しみにしててね」と、ちょっと照れくさそうに言ってたっけ。

 まあ、その理由はなんとなく分かってる。



「そういえば、服はどうする?」

「暑いし、ティーシャツに短パンだろ」


 総司はそう即答する。

 うん。この時代、小洒落た格好してる中学生なんて、田舎のこの辺にはいなかった。

 でもこの男は元がいいから、何着てても様になるんだよな。


(世の中不公平だな…)


「俺…母さんに頼んで浴衣着ようかと思うんだけど…」

「え!?浴衣?!どうしてさ!!」

「なんとなくだよ!…で、俺一人は嫌だから、総司も付き合ってくれないか…?」

「え~」

「くっ…!ふ、副キャプテン引き受けたんだからお前も着ろよ!!」

「まじかよ…」

「うんうん」

「…仕方ないな」

「助かる」

「まあ、たまにはいいよ」



 本当はそんなつもりはなかったのに、俺が浴衣を着ようと言い出した理由。


 それは、たぶん当日、涼花は浴衣を着てくるはずだから。





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