第15話 勉強会


 ジメジメした梅雨も終わり、もう夏の気配をすぐそこに感じる7月。

 期末試験に向けて全ての部活動が中止となったその日、俺達は五人で図書館に集まっていた。



 俺達とは同じバスケ部で、ある程度面識のある西野は「よろしくお願いしま~す」と、緩い感じで挨拶する。

 けど、ちょっと涼花の視線が気になったのか、すぐに背筋を伸ばして、教科書やらを取り出し始めた。


 一方の瑠美は緊張した面持ちで「よ、よろしくお願いします…」と、おずおずと頭を下げる。西野の付き添いだとはいえ、ちょっと可哀想になってしまう。



 涼花は当初女子二人を警戒するように、彼女たちに微妙に鋭い視線を送っていた。

「本当、威嚇するのはやめてやれよ」と思ったけど、西野が総司に好意を持っていそうで、瑠美はその付き添いなんだな、と悟ると警戒心を解いたようで、優しく接するようになった。

 初対面の時とのギャップからか、1年生二人も少し戸惑い気味だったけど、徐々に「優しい先輩」と思ったのか、仲も良さげに接してるように見えた。


(とりあえず落ち着いたか…)


 俺が少しほっこりしながら見ていると、


「ところで、どんな勉強してるの?」

「そうそう。急にあんなに成績上がるなんて何やったんだよ」

「え…」


 急に幼馴染みの二人に話を振られ、妙に焦ってしまった。


 もちろん本当のことは言えない。


 たぶん本当のことを話しても信じない気がするけど、だからといって、なんて言って誤魔化すのが正解なのか分からない。


 こんな時こそ、タイムリープして中身は大人の、経験豊富な俺ならではの返しが求められるところ。


「え?そ、そうだな…授業真面目に聞いて…あとは予習復習と…」

「いやいや、それ普通じゃん」


 ですよね…


「クソ難しい問題集とかやってるのか?」

「いや、本当にそれだけで…」

「じゃあお姉さんに見てもらってるとか?」

「それもないかな…」


 もうしどろもどろだ…

 何が経験豊富だよ。我ながら使えない…


「は?なに?じゃあ、今まで特になんにもやってなくて、いざちょっと真面目にやったらこの成績だった、ってこと?」

「っ…いや、そういうわけじゃ…」

「へえ、そうなんだ。へー」

「「「「…………」」」」


 今度は俺に冷たい視線を送る涼花に、みんな普通に引いてしまった。


 こいつ、昔から妙なところで対抗意識燃やすんだよな…


「こら、姫宮、言い方」

「ぅ……ごめん…」


 幼稚園からの付き合いで、涼花のこともある程度理解してる総司の一言で、大人しくなった。

 けど、同じ事を言うにしても、俺が言ったら涼花の性格的に、更にヒートアップするのが分かっている、親友ならではのフォローだった。




 その後は特に問題もなく、西野が総司に絡む頻度が高かったなぁ、と思うくらいで、平穏に勉強会は終わろうとしていた。

 そして残念ながら、この男の目には、西野は本当にただの部活の後輩としてしか映っていないようだった。

 そのことに西野自身も気づいていたようで、「くっ…次回こそはっ…!」と闘志を燃やしていた。ドンマイ。



 終わる頃には、瑠美もある程度皆と打ち解けられたようで、西野以外の俺達とも笑顔で話せるほどにはなっていた。


 ま、仲良くなるのは問題ないよな。

 ある程度は親しくなっておかないと、守る守らない以前の話だし。でも、俺と涼花のことは微笑ましく見ているようだったけど、総司とは西野の手前、それほど多く話すこともなかった。

 だけど、少しそういう好意を抱いた視線で見ていたのは間違いなかったと思う。前世での記憶から分かってしまう自分が嫌だ。


 でも、総司のことはよく知っている。


 昔から運動もできて、俺なんかより明るくてみんなに人気があり、しかもイケメン。その上、俺が親友だと思っているだけあって、性格だってもちろんいい。



 だけど、


「一緒にいた橘さん、可愛かったな」


 と、帰り際に俺だけに聞こえるように呟いた総司の一言に、俺はなんとも言えない気持ちになるのだった。





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