第7話 猫耳に尻尾

 自分の気持ちを整理するように呟くと冨岡はこう思い立った。

 鏡の向こう側を探索してみよう。そうすればあの鏡が何なのか分かるかもしれない。

 

「そうと決まればまずは準備だ。何が起こるかわからないから食料と水を多めに持って行って・・・・・・あとは護身用に何かあったほうがいいかな。向こう側で日本円が使えるかどうかもわからないから、即座に換金できる何かがあったほうがいいかもしれない。金とか?」


 鏡の向こう側を探索するため冨岡は何が必要かを考える。

 買い物をするためには一度街へ出向かなければならない。買い漏らしがあれば往復三時間弱が積み重なる。買い物リストを作ることは重要だった。

 あらかた必要なものを挙げた冨岡は思い立ったら即行動の精神で軽自動車に乗り街へ向かう。


 買い物を終えた冨岡は軽自動車から荷物を下ろし、大きめのリュックに必要なものを可能な限り詰め込んだ。

 ペットボトルミネラルウォーターが二本で二百五十円。おにぎりが五つで六百円。菓子パンが二つで二百五十円。保存食セットが七日分で二万円。糖分補給用の飴が一袋二百円。チョコレートが五つで五百円。後で確認するためのデジタルカメラが十万円。護身用のスタンガンが二万五千円。いつでも火を起こせるオイルライターが五千円。もしも何かあった時換金するために純金の指輪十五万円。合計三十万千八百円。

 通常であればかなりの出費だが今の富岡にとって値段など問題ではない。何も気にすることなく鏡の向こう側を探索できる。


「よし、じゃあ行ってみるか!」


 自分に言い聞かせ冨岡は鏡の前に立った。

 何が待っているのかは分からない。けれど冨岡は恐怖よりも高揚感を感じていた。

 もしかすると彼は新しい出会いが待っていることを予感していたのかもしれない。


「せーの!」


 背中に感じるリュックの重みに負けぬよう強く踏み込み冨岡は鏡の中に飛び込んだ。

 

 こちら側の状況を知っていたからかもう光で目が眩むことはない。再び冨岡は西洋風の路地裏に立っていた。

 前回と全く同じ場所である。


「いやぁ、やっぱり日本だとは思えないんだよなぁ。もしかしてこれ小説とかでよくある異世界転移ってやつ? そんなわけないよな」


 冗談のつもりでそう呟いた冨岡だが、すぐにそれが正解だと理解した。

 周辺を見渡すと右手の方は行き止まりになっており、木造建築の後ろ側が見えている。左手の方はどこか開けた場所に繋がっているらしく陽の光が強い。

 何気なくそちらの方へ歩いて行く冨岡。路地裏を抜けると左右に大通りが伸びていた。

 木造の屋台や店が建ち並び、多くの人が行き交っている。その光景は漫画やアニメで見る中世ヨーロッパ風の異世界そのものだった。

 しかし、すぐにそこが異世界であるとは納得できない。


「え、映画か何かの撮影・・・・・・? いや、カメラもないし、やけに生活感がある」


 冨岡はそう呟きながら路地裏への入口に立ち、目の前を観察する。

 すると、ちょうど目の前を体の大きな男が横切った。よく見ると頭には猫耳のようなものがついており、臀部からは黒い尻尾が生えている。


「猫耳に尻尾!?」

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