第28話戦闘開始

 盗賊と言っても何種類かに分かれる

 食い詰めた村人が略奪に走る場合もあれば、職の無くなったあぶれ者がなる場合もある……

 しかし、彼らは違った。


「団長……本当にやるんですかい?」


 出っ歯でひろひょろとしたいかにも三下と言った容貌の男は、巌のような大男に確認する。

 

「当たり前だ! 相手は騎士や兵を合わせて100は投入してやがる! 対する俺達『ザックナー傭兵団』の総数も100を優に超えている! 防衛は責めるよりも有利なんだよっ!」


 この世界にも『赤い至宝』ことミハイル・トゥハチェフスキー元帥の提唱した。『攻撃三倍の法則』が知られている訳ではないものの、経験則として将や傭兵は倍数以上の兵力差が必要であると理解している。

 あくまでもそれは同程度の戦闘力であればの話……この世界においては、魔力で身体能力を強化できる『聖なる』血脈に連なる者……即ち戦争に参加する『貴族』の総数が勝敗を分けるのだ。


「フン、偵察によれば相手の軍はベーゼヴィヒト公爵。モンスター共との戦争で自由に動かせる兵は少ないと来た。

100人の兵といいつつもその実態は、冒険者や傭兵の混じった混成軍とみて間違いはないだろう……いかに優れた将が率いようも剣となり盾となる兵が弱ければ意味がない……それに名目上のトップは僅か十歳のガキと来た! 如何に優れた将が出てきたとしても重りだがデカすぎる……」


「……」


 出っ歯の男は固唾を呑んで団長の言葉を待つ……


「つまり、戦場にしゃしゃり出てきたクソ餓鬼を小便チビらせて、ママのおっぱい求めて逃げ出させれば俺達の勝利! って事だ」


 団長の強気な言葉に出っ歯の男の不安は拭い去られる……


「ガキをビビらせ逃げ出せた奴に金一封! 捕らえた奴にも金一封だ!!」


 団長の言葉にいつの間にか近くに集まっていた団員達も声を上げて喜ぶ。


「聞くところによれば、公爵のガキは美少年らしい。少女趣味の野郎でも十分楽しめるハズさ……オマケに捕らえれば身代金も取れる! 嗚呼、神よ! 俺は貴方に感謝する! 最高だぜ!」


 この『ザックナー傭兵団』は優秀でもなければ、精強な兵と言う訳でもない。少なくない割合で他の傭兵や兵が攻略した村や街に乗り込んで疲れた味方を殺し、略奪する悪逆非道な傭兵団で、この大陸を横断するように移動しながら悪事を働いてきた。

 無論、人権・人道意識の低いこの世界に置いても兵や貴族、傭兵による略奪行為はままあるものの『ザックナー傭兵団』は、最大の禁忌である味方を殺するため忌み嫌われていた。


「さて、お前達俺達がお貴族様の子供に『本物の戦争』って奴を教育してやろうぜ!」


「「「「「うぉおおおおおおおお!!」」」」」


 耳を劈くような声が辺りに響く。

 傭兵たちは既に勝利を確信していた。

 御飾のトップ……それも10歳の子供が率いる軍に負ける訳がないのだと……しかし、彼らには大きな誤算があった。


 一つは、相手がただの十歳児ではなく肉体的に天才であり転生者のため高い知能があった事。

 二つめは、そんな彼を見て訓練した兵や騎士達は既に能力が足りないから戦争に参加できなかった雑兵ではない事……

 そして三つめはシュルケンが、既に召喚魔法を使える事にある……




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 上空にはシュルケンが使役する飛行系モンスターが飛んでおり、「武装した人間が居れば教えろ」と命令してある。


 これこそが、当公爵家の御家流が最強で万能である理由の一つ『圧倒的な情報収集能力』……


 中世~近世程度の兵器しかないのに、航空戦が存在するこの世界で……鷲獅子グリフォン飛竜ワイヴァーンのような有人戦闘機ではなく、無人航空機ドローンのように小型飛行モンスターを使って情報を収集しつつ、相手の小型飛行モンスターを潰す。


 これこそがこの世界に置ける戦争のセオリー。


 古代世界でも敵の伝書バトを鷹や猛禽類を放って潰すというのは良くあることだが、いやはや見事と言っていい。


 そして今はまだ出来ていないが、ベーゼヴィヒト公爵の御家流はさらにその上を行く……


 『御家流』とは言っているのもののその本質は、魔法の運用方法である。


 放った小型飛行モンスター内の一匹が帰還してくる。

 時差を設けた上で命令をしたモンスターを放つ。

 方角と放ってから帰ってくるまでの時間で、敵の大まかな位置を特定するのがこの世界のやり方だ。

 まるで潜水艦のソーナー手が音を頼りに敵艦の場所を判断するように、モンスターを、風を読んで判断する。


 そしてその情報を管理するのは参謀の役目だ。


「右方向に武装した人間がいるようですが……如何いたしましょう? 賊が戦力を別けて突っ込んで来る意味がない。恐らくは妻子を人質でも取られた農民だろう……警戒しつつ放って置け」


 副将のアルブレヒトは部下に命令を出す。

 将兵クラスともなれば、ベーゼヴィヒト公爵の御家流をある程度伝授されており自身で魔法を使うことも出来るが、あくまでも騎士であるため保有する魔力量は少ない。

 そのため今回は、シュルケンがモンスター召喚の全てを担当していた。

 

「召喚魔法の才が乏しいとは訊いていたが、戦場に置いては質よりも量……そういう意味では召喚魔法の才はずば抜けている……」


 仕えてきた主君やベーゼヴィヒト公爵の分家を含めてもシュルケンの召喚量は優秀で、年齢を加味すれば一番だ。

 中にはキックバードと呼ばれる蹴りを主体とする駆鳥カケドリのようなモンスターの召喚を得意とする人物も存在する。


 不幸な事に今回の出兵には、飛竜ワイヴァーンなどの航空戦力は一匹足りとも存在しないため拠点を見つけるにも骨が折れる。


 暫くすると、同じ方向から小型飛行モンスターが戻ってくる。


「拠点を見つけたようです!」


「兵全員に隊列を組むように命令しろ! 総攻撃をかける!」


 攻め込むのはコチラ守るのは敵であり、要塞化されていると認識して先ず間違いない森に攻め込まなければいけない我が軍は、地理的不利を強いられている。

 しかし、公爵家の権力を使うことで商人や村人から情報を入手しており、大まかな山の見取り図の作成に成功していた。


 攻撃三倍の法則とは言うものの、相手が余程用意周到でなければ奇襲攻撃を仕掛ける側が『自由に攻撃地点を選べ』『補給を断つ』事が出来るという点に置いて有利と言える。


 こうして後に『賊狩りの貴公子』と呼ばれるシュルケン・フォン・ベーゼヴィヒトの初陣であった。

 シュルケン十歳の事である。

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