第6幕 嘲笑う目

葬式前日の7月1日。

俺は係長に事情を話し、今日の残業は無しにしてもらった。

相変わらずニヤニヤしてたが……。



今日の外回りが終わり、会社に戻って帰る準備をしていると

「いやー。本当に最近調子がいいね、小田君。」

「やっぱいいことあったでしょ?」


「そんなことないですよ。」


「そうか?俺はてっきり嫌いな女とその男を殺して、スッキリしたのかと思ったよ。」

「明日の葬式ってまさかその女のか?」

俺は凍りついた。

なんで係長が知ってるんだ。

まさかあの警察が?

いや、わざわざ無関係の係長のところまで行くのか?

俺に疑惑の目を向ける人、ニヤニヤしてる人。

まさかこの人達もそう思ってるのか?

俺は頭が真っ白になり、木原の方を見た。

笑っていた。

悪魔の様な笑みで。


俺は小さい声で「嘘だ。」と言った。


「はー?聞こえないよー。」

スカンクが煽ってきた。


「俺は人殺しなんてしてません。」


「嘘をつくな!」

「鏡で見てみろ。人殺しの目をしてるぞ。」

実際そうなのかもしれない。

怒りが込み上げてくる。

だが、ここで一悶着あれば俺はクビだ。

懲戒免職にでもなったら、転職も難しくなる。

堪えるしかない。


「すみません。急ぎますのでお先に失礼します。」


「おーい。逃げんのか?頼むから俺は殺さないでくれよー。」

スカンクの口撃は続いてるが、無視して会社から出た。


早くタバコでも吸って、一息つきたい。

イライラしながらエレベーターを待っていると

「おい。ちょっと待てよ。」

振り返ると木原だった。

臭男と同じようなニヤニヤした顔で。

よく考えてみたら臭男や他の社員の笑みはこういうことだったのか。


「あの人にも困ったもんだよな。」

「あっさりネタバラししちゃってさ。」


「なんで………こんなことしたんだ?」


「は?別にいいじゃねぇかよ。」

「ガキみたいなこと言ってんじゃねぇよ。」

「別に言わないでくれなんて頼まれてもないしな。」

ショックだった。

親身になってくれてた木原の本性がこんなだったなんて。


「なんでこんなことした?」

「面白いからだよ!」

「よく言うだろ?人の不幸は蜜の味ってな!」

絶句した。

もう何を言っていいかわからない。


「お前は別れてたことを隠してたつもりだろうが、はっきり言ってバレバレだ。」

「急に調子崩したもんな。」

気づいていたのか……。


「最高だったぜ!」

「最近調子こいてたお前が一気に落胆した顔は。」

「人は人の上に成り立つっていうだろ。」

「そう!お前は俺の踏み台だ。」

その瞬間怒りが頂点に達し、俺は木原を殴ろうとした。

だが、体格差もあり学生時代ラグビー部だった木原に、強烈なカウンターを食らう羽目になった。


「踏み台のくせに調子に乗るなよ。」

「早く実家帰って親にでも慰めてもらうんだな。」

「それか元カノの代わりにママのおっぱいでもしゃぶってな。」

木原は笑いながら会社に戻る。

頬が痛い。

血の味がする。

どこか切ったんだろう。

早く帰ろう。

ここには居たくない。

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