第7話 シャルロット・レーヴァテイン②

 ドラゴン! それにあれは、あの黒いウロコは……まさか、嘘でしょ?


 漆黒の災厄。

 憎悪の君。

 

 呪いのドラゴンロード。


 伝説では人類に敵対するとされるドラゴンロードの一体だ。


 本当にいたなんて。

 おじい様のおとぎ話は嘘ではなかった、真実だったのだ。


 でも、おじい様の話とは違う。

 呪いのドラゴンロードは王都の大結界には侵入できないはずで、だからこそ交渉ができる相手だったのに。

 王国は少しの犠牲を払うことで。このドラゴンに対峙していたはず。


 でも、目の前のそれは魔法学院を燃やしてしまった。

 ドラゴンブレスによって。魔法学院は爆発し大きな火柱を上げていた。


 次にドラゴンは先生方の宿舎である搭にドラゴンブレスを放った。

 搭の外壁は耐魔法レンガで造られており、加えて魔法結界が張られているというのに。

 溶けたバターのように。搭は崩れ落ち、次の瞬間、大爆発を起こした。


 嘘、先生方や学院長は? 皆死んだ?


 ドラゴンは見境がない。

 次々とターゲットを変えドラゴンブレスを周囲に放つ。

 

 教室が燃えている。学生寮が燃えている。


 ……どうしよう、皆死んじゃった。

 

 私のいる場所は建物が何もない庭園の真ん中だったの助かった。

 他にも助かった人はいるかもしれない。

 学生寮だって、今すぐ助けに行けば間に合うかもしれない。


 でも、足が動かない。

 こんなときに情けない、何のためにトレーニングしていたのよ。これじゃあ、私は……


 ドラゴンは私を見逃した? いや、さっき目が合った。確実にこちらを認識している。

 ここで死ぬのか……。ごめんなさい。おじい様に怒られる、けど私を残して勝手に死んだ両親に文句の一つもいってやるんだ。


 そうしたら、気が楽になった。足の震えが止まった。

 私は立ち上がる。


 ……でも遅かった。ドラゴンが目の前にいたのだ。

『ほう、よく持ちこたえたものだ、普通の人間なら我の姿を見ただけで理性など無くなるのにな。

 おい、小娘、お前、気に入ったぞ? ちょうどよい、こんなガラクタよりもお前の方が気に入った。お前も我が眷属に招くとしよう。

 お前には、あの小娘と似た雰囲気がある。これは僥倖』


 ドラゴンはその手に持っていたケースを私の前に投げ捨てた。あれは学院長がさっき私に自慢していた宝物。

 ケースが壊れると中身は剣? 剣にしては大きい、ああ、学院長が得意げに話したルカ・レスレクシオンの最後の魔剣か。

 確かにガラクタだ、皮肉ね、価値観が学院長よりも、このドラゴンに一致するなんて。


 学院長は今日はご機嫌だった。今日の私への説教の半分の時間を使って、この魔剣がどれだけ凄いかを語ったのだ。

 この魔剣はベヒモスを倒すために作られたとか、さらにはドラゴンだって倒せるとか自慢げに語っていたっけ。


 目の前にいるこいつはドラゴンじゃなかったの? 

 馬鹿ね、でも、それは私も同じか。死んだら皆同じ、おじい様だってお父様にお母様だって同じ。


 死んだら同じだ!

 逃げなきゃ。そうだ、私はカイルの言葉を思い出した、逃げるが勝ちだっけ、ありがとう。


「ヘイスト!」

 私はヘイストを自分に掛けると、全力で走った。


『逃げられるとおもうなよ小娘。

 だが、殺すわけにもいかんか、難しいものだな……。我の最大限の慈悲を込めた一撃だ、死んでくれるなよ』


 次の瞬間。私はなにか下半身に瞬間的な痛みが走った。

 そして転んだ、同時に周囲の瓦礫が崩れる。

 そうね、ドラゴンブレスから逃げれる訳なんて無かったんだ。

 ドラゴンの声が聞こえる。

『ふん、瓦礫の中に埋もれたか。まあいい、あとでクリスティーナに探させるか。おっと、奴にも死なれては困るのだった。さて、王城には宮廷魔術師とやらがいたはずだがな、奴らは楽しませてくれようか』


 羽ばたく音が聞こえた。

 ドラゴンはいなくなった。

 でも私も限界みたい。足がぴくりとも動かないのよ。

 ……誰か、たす……けて。

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