第5話 図書館②

 ページをめくる。


 ――従来の魔法剣、それは実戦においては魔法の杖と役割は変わらなかった。

 しかし、ルカ・レスレクシオンは当初の目的である魔力切れ対策、及び接近戦の重要性を再び提唱したのだ。


 彼女の作った魔法剣には『魔剣開放』という能力が備わっていた。

 これは剣に込められた魔法を瞬時に引き出すもので、彼女が作った魔法剣は以降、魔剣として呼称する。


 例えば彼女が最初に作った一番の魔剣、炎の短剣『インフェルノ』でその性能を説明しよう。


 ベースの金属はミスリル性であり、軽く高い強度、魔法伝導率に加え腐食に強い金属である。

 それに魔法の杖に必要な機能である魔石を埋め込んでいる。

 これまでは従来通りの魔法剣と変わらない。


 しかし、魔剣と魔法剣の違いは、魔石の周囲に極小の魔法機械を埋め込んでいることだ。


 この魔法機械が術者の魔力に反応して魔石に封じ込められた魔法を解放するのである。

 『インフェルノ』には中級魔法であるヘルファイアが封じられている。


 この極小の魔法機械は詠唱者の代わりに魔石に込められた魔法を発動する機構だと推察される。

 なぜならヘルファイアを習得していないものでも魔法機械を動かすレベルの魔力があれば発動可能なのだ。


 つまり平民でも使える魔法、魔法機械の前身といえる発明品だろう。

 のちに彼女の名声を高めることになる魔法機械はこれの応用だと思えば読者諸君は理解が早いだろう。

 

 ここで読者諸君は疑問に思うかもしれない。

 芸術に無頓着であると有名であったルカ・レスレクシオンの話をなぜ筆者がするのかということを。


 ご存じのとおり私もルカ・レスレクシオンには昔から関心などなかった。


 私のこれまでの研究は戯曲魔法とも呼ばれる、最初の賢者が創ったとされる、様々な舞台にまつわる章や幕を模した『極大魔法』が私の生涯の研究テーマだったからだ。

 

 戯曲魔法について知りたければ筆者が過去に執筆した『美しき戯曲魔法』をぜひ読んでほしい。

 学生でも成人でも楽しめるように執筆したつもりだ。

 社交界で一目置かれたければ熟読は必須だといえる。


 話を戻そう。

 つまり私は芸術の欠片もない、魔法機械や魔剣、そしてそれを作ったルカ・レスレクシオン辺境伯には無関心だったのだ。


 だが、ある遠征をきっかけに父であるレオンハルトとルカ・レスレクシオンは知己となった。

 私は父からルカ・レスレクシオンの魔剣に命を救われたとの話を聞いたのだ。


 それから少し興味を持ち、父ですら死を覚悟した遠征からどうして助かったのか尋ねた。

 そこで前述のとおり魔剣の有用性に気付いたのである。


 芸術作品としては無価値だと思ってた魔剣。しかし、その機能美、魔法機械というのは芸術足りえるのではないだろうか。

 私は興味を持ったのだ。


 だが、貴族とは愚かだ、私が貴族だからあえて言うが、未だに貴族は接近戦の重要性を忘れたままだ。

 せっかくルカ・レスレクシオンが先人の魔法使いの教えをもとに最適解を導き出したというのに。

 相変わらず社交界は魔剣になど無関心である。未だに古い価値観の芸術品としての魔法剣にしか興味をもっていない。


 未だに魔法使いは杖を持つ。だが、私はこの本を執筆するにあたり、貴族の諸君の考えが変わることを望む。


 そして最近、ルカ・レスレクシオンは新たな魔剣の開発をしていると聞く。これは王国の予算がふんだんにつぎ込まれている超大作だというではないか。

 私は興味を持った。どれくらいかというと、来年生まれる我が子よりもルカ・レスレクシオンの二十番の魔剣に興味が尽きないほどだ。


 最低の親ではあるがこれが芸術家の性といえるのかもしれない。

 だが、馬鹿馬鹿馬鹿死ね死ね死ね――



 ……本を閉じる。

 以降のページは落書がひどい。

 誰だよ、図書館の本に落書なんてひどいことする奴がいる。


 それにここまで読んでおいて、いきなり落書とかなんだよ。

 俺に対するいじめか? せっかく続きが読みたくなってきたのに。


 でも、途中だったがいい時間だ。

 本を戻すとその隣に『美しき戯曲魔法』というタイトルの本があった。

 極大魔法は一生縁がないけど、まあ教養は大事だ。


 これを借りるとしよう。

 司書さんから貸し出しの手続きを終え図書館の外に出る。


 月が真上まで昇ったのか図書館の外はかなり明るかった。

 

 今日はここまでってことね。

 俺は本の内容を振り返る。

 機能美か、ラルフ・ローレン君もその機能美とやらに感銘を受けているのだろうな。


 俺も同意見だ。魔法機械は確かにすごい。

 俺はキッチンカー以外にも魔法機械を建設現場で見たことがある。


 石材を平らに加工するのは今は魔法機械の仕事である。

 もっと現場に魔法機械があれば俺達の仕事はずっと楽になる。

 そうだな、俺も将来は魔法機械の研究なんかしてみたい。

 って、俺の頭じゃ無理か。

 こういうのはシャルロットみたいな天才でないとな……。


 でも彼女はレーヴァテイン伯爵家の復興を目指しているようだし。

 いや、伯爵家の事業として建設組合と手を組むとかそういうのでもいいんだ。

 ってなんだよ、さっきから彼女の事ばかり考えてる。いかんいかん。


 俺は図書館を後にして、外に出た。

 帰り道、夜空を見上げる。

 綺麗な満月だな、……って、あれ? 月に穴が開いている?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る