第32話 シナリオを乗り越えて③
そいつはまるで産声を上げるかのように咆哮した。
『Nyaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』
顕現せしは混沌の王。災禍の顕主。這い寄る者。
そいつは触手の塊だった。深淵より溢れ出す数多の触手達は複雑に絡み淀み渦巻き鬩ぎ合い。最終的には人の形を成していった。体躯は軽く見積もったところ人の何倍もあるだろう。
簡単に言えば巨大な人形の触手。
それがアリス・クトゥを依代にして顕現した邪神だった。
あまりにも歪で不気味な風貌に気後れしつつも、僕は数少ない転生得点である鑑定眼を使用した。
邪神ニャルラトホテプ:Lv.59
わぁお、レベル高っ。
ラスボスに至らないまでも、それに匹敵するレベルの高さだ。
これヤバイな。ほんとヤバイんじゃないの。ていうかヤバイな。
不味い。想定の上を行くレベル値で思考がゲシュタルト崩壊しかけている。
「うわほんとに異星の神にゃ。世界が滅びかけてるわけだけどモブ、どうするつもりにゃ?」
そんなこと言われましても。
「ま、やるだけやってみますよっと」
かの有名な宇宙海賊も駄目な時には『笑ってごまかすさ』と言っているわけだし。まぁ仮に駄目でもどこぞの主人公がどうにかしてくれるだろう。主人公様は現状クソ雑魚だけど。多分、都合良く覚醒してくれるはず。
「ちょっと。ちょっとあんなヤバイのが出るとか聞いてないんですけど」
「いや異星の神が出るとは言ったじゃん?」
「それは聞いてたけどっ!! アタシが言いたいのはあんな気持ち悪いのが出て来てんのってこと!!」
そんなこと言われましても。
実際、原作ゲームではあの邪神は出現しない。なにせ出現する前に依代たるアリスが自決して事が終了してしまうからだ。
しかし今回はその一歩先の事象と言える。アリスがもし自決をしなかったら? というイフだ。いくら原作知識を有する僕でも見たこともない邪神の姿形など分かるはずもない。
「ていうかアリスちゃん取り込まれちゃったけど、このまま倒したら怪我とかしちゃわない?」
「大丈夫多分問題ない。多分」
「多分ってアンタ、そんな雑な……」
リッカの癖に中々に鋭い指摘をするな。
異星の神が顕現するにはいくつかパターンが存在する。
直接本体が顕現する例もあれば今回見たいに依代を使う例も存在し様々だ。
幸い今回は依代タイプ。例外は存在するものの、顕現した本体を倒せば依代にされた人間は解放される。
その戦闘で傷つくこともないので、つまりは倒せばいいわけだ。
「まぁとりあえず駆けつけ一杯的な感じで」
「それ絶対に使い方を間違えていると思うにゃー」
「うっさいぞ」
やかましい猫を無視して僕はわざとらしく人差し指を天に掲げる。
僕が邪神に対し選択した戦略は先手必勝の一手だ。
リッカもクラリスも原作シナリオの進行度のわりにはかなり強い状態だ。リッカに関しては僕に(勝手に)ついてきたせいで、高難易度の迷宮に挑んだことによるものだ。
クラリスは知らん。なんでだろね?
ともかく強い分に損はない。
それらのお陰か本来であれば現段階で使用出来ないような上級技が使用できるわけだ。
「じゃソレイユ。手筈通りによろ」
この空間に入る前に戦闘方針については協議しておいた。後はそれを手筈通りに実行するだけだ。
しかし何故かリッカは不満顔だった。なんで?
「むー、また呼び方変わってるー。まぁモブ君にそんなこと期待しても無駄だよね。だってモブ君だもん」
リッカは僕を見て深々とため息を吐いた。あんまり吐かないほうがいいぞ。幸せが逃げるとか言うし。
彼女は僕の思考を読み取ったのか更にため息を一つ。当然のごとく勝手に思考を読むな。
「流石に二回もため息を吐くのは酷くない? さしもの僕も傷つくんですけど」
「はいはい。じゃあ、ちょっと本気出しちゃうぞーーー!!!」
リッカは背伸びやら屈伸をした後、勢い良く右手を邪神に向けて突き出した。
次の瞬間、太陽が落ちた。
迷宮内に突如出現した太陽のごとき超高熱火球。それは問答無用で邪神を飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます