第19話 アリス・クトゥは逃がさない②《アリス・クトゥとの日々⑥》


 アリス・クトゥが唐突に言い放った言葉に僕はただただ困惑した。あまりにも荒唐無稽というか奇奇怪怪というか。ともかくあまりにも非現実に思える言葉で僕は我が耳を疑った。


「は……? え、ちょ、なに?」


「デートよデート。その耳は飾りなのかしら?」


 困惑し言葉をろくに発することの出来ない僕に、アリスは大変ご立腹らしい。


「何よ。頼み方がいけなかったとでもいうの?」 


 しかもよく分からない斜め上遥か上空を横切る解釈をした。そういう問題じゃない。

 更に何を思ったのかアリスはコホンと一つ咳払いをして息を整えた。


「私とデートしていただけませんか……? いや駄目ね。なんで私がモブリオン君ごときにへりくだらなければいけないのかしら」


「凄いやこの子」


 決して頼む側の口上ではない。


「むしろ貴方が土下座して頼むのが筋というものよ。何せ私、美少女ですもの」


 えぇ……しかも僕、土下座確定かよ。


 だいたいその自己評価の高さはどこから来るんだよ。引くわ。いや確かに美少女なのは間違いないんだけどさ。


「……アリスジョークよ」


 石に恥ずかしくなったのかアリスは頬を朱色に染めてうつむいた。

 あ、はい。確かに美少女です。このタイミングでそれはいくらなんでも反則だろ。可憐過ぎて僕は言葉一つ返せなかった。


「こ、こほん……」


 また仕切り直しと言わんばかりに、彼女は咳払いをまさかの言葉に出してした。さてはテンパってるな?


 しかしよほど良い誘い文句を思いついたらしい。

 その行動とは裏腹に彼女の表情は今自身に満ち溢れている。


「モブリオン君、私とデートをしなさい」


 えぇ……。

 最終的に命令形に落ち着いたんですけど。


「えっと、それでいいの……?」


「えぇ完璧だわ」


 ドヤ顔だよ。どうしよう。


「あぁ安心しなさい。リッカさんには黙っておいてあげる」


「え、いやそんなことをしたり顔で言われても困るんですけど。ていうか……アイツとはそういうのじゃないよ」


「ふぅん」


 だからなんだのそのしたり顔は。


「いえ、てっきりお付き合いしているものだと」


「ない。絶対ない。天変地異が起きても絶対あり得ない」


 僕はキチンと弁えたモブだぞ。メインヒロイン様なんかに手を出すわけないだろ。ていうかそんなことしたら世界滅亡しかねなくてゲロ吐くわ。


「そ、そう。そこまで否定することもないと思うけれど。でもーー」


 一拍。


「それなら今は。今だけは私に付き合って貰っても問題ないわよね?」


 彼女は蠱惑的な笑みを浮かべてそんなことを言った。

 なんだよそれ。そんなことを恥ずかしげもなく言えてしまうのはこの上なくズルい。これじゃ断りようがないじゃないか。



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