第34話 成生トレイン

 乗る時は怖い感じがした車も、車内は普通に会話で盛り上がる。


「ねえナリオくん。これから行くところって、どんな場所なの? お姉さんがラボって言ってたけど」

「私や照日さんの親が働いている所の関連施設です。今は研究が一段落したので、今回使わせて貰えることになりました」

 海陽みはるの質問に、成生の隣に座るリリアが答える。


「へー。研究って、プールでなんの研究してるの?」

「機械です。プールは防水機能や水中での動作確認で使用します」

「そうなんだ」

 海陽は訊いてはみたが、あまり興味なさそうな感じがする。


「それでですね。機密情報が多いので、みなさんコレを着けて貰えますか?」

 リリアが取りだしたのは、目玉と眉毛が付いたアイマスクだった。

 バラエティー番組なんかで見るけど、実際に着けることになるとは……。




 みんながアイマスクを着けると、車内はしんと静まり返った。アイマスクで周りが見えないけど、多分みんな真顔だろう。

 このまま、本当に地獄へ連れて行かれる気がしてきた。


   ☆


 しばらく車が走った後、どこかで停まったようだ。アイマスクをしているので、視界が全く無くて全然分からない。


「施設に到着です」

 運転していた女性が言うと、車を降りたようだ。ドアを閉めた音が広い空間に響く。その音からすると、どこか広い屋内にいるようだ。

 その後、スライドドアが開く音が聞こえた。


「どうすればいいですか?」

 成生が訊くと、

「まず、車から降りて下さい」

 リリアの声が聞こえてきた。リリアはアイマスクを着けていないのだろうか。それも分からない。


「まずは成生さんから」

 その直後、手首をつかまれた。この感触は……リリアだ。その手に引っ張られて、車を降りる。やっぱりアイマスク着けてないのかな?


「成生さん、ここで待ってて下さいね」

 そうリリアが言うと、車の方に戻っていく気配を感じた。

 何も見えないし、次に何をしたらいいのか分からない。

 成生はじーっと待つしかなかった。



 しばらくして、

「これからプールへ案内しますが、皆様がバラバラにならないようにロープで結びます」

 今度は、ここまで案内してきた女性の声が聞こえてきた。

 その後、腰の周りにロープが巻き付けられるのを感じる。女性が結んでいるのだろう。


 ロープで結ばれたようだが、本当に他の人と繋がっているかは分からない。

 このまま二度と帰れなくなったらどうしようと思うが、メイドロボや彼女型アンドロイドを研究しているラボなんて公表できるはずがない。これも仕方ないだろう。


 準備が終わるのを待っていると、小さな手がお尻を触ってきたのを感じた。


 ……痴漢がいる?

 それとも、実はそういうプレイのお店……? あとで高額な料金請求されたらどうしよう。


 なんて考えていると、

「これ……ナリオくん?」

 後ろから海陽の不安そうな声がした。どうやら海陽が成生のお尻をなで回していたらしい。


「そうだよ」

 そう答えると、

「よかったぁ」

 海陽は安堵の声に変わった。


「ねえ。怖いから、このままナリオくんの身体つかんでてもいい?」

「いいけど、そこお尻だよ」

 成生がそう言うと、

「ひゃあ!!」

 海陽の驚いた声がした。表情が目に浮かぶ。

「ごごごごめん」

 今度は動揺した声。

「かわりにわたしのおしり、さわって!」

「それは出来ないよ」


 本音を言えば、許可してくれるのなら海陽のお尻を触りたい。合法だし、触っていいって言うんだから。

 だが、今の状態でそれをしたら人としての何かを失いそうだし、見えている時に触りたいので、今はやめておく。


「海陽さん。手をもうちょっと上に持ってきて」

「上?」

 成生の身体を触る小さな手が、お尻の辺りから身体に沿って少しずつ上に進む。

 身体がゾクゾクとしてきた。海陽に身体をまさぐられていると思うと、ちょっと興奮してくる。

 いや、ダメだ。そういうプレイをしているんじゃない。でも妄想は――ちょっとぐらいならいいよね。


 海陽の手が腰の辺りに来たところで、

「そこ。そこが腰だから」

「うん。わかった」

 小さな手が、左右の腰をつかんだ。

「これで安心だね」

 海陽の嬉しそうな声がした。


「ねえ、海陽。私も腰つかんでいい?」

 後ろの方からこいぬの声がした。海陽の後ろにいるのだろう。

「いいよ」


「それじゃあ、私はトカちゃんの腰だね」

 さらに後ろからゆうの声がした。


「るーはゆうお姉ちゃんの腰だねー」

 その後ろから照日の声がする。


「では、私が照日さんの腰を」

 そして最後にリリアの声がした。


 照日やリリアもアイマスクしてロープで繋がれているのだろうか。確かめるスベは無い。

 そしてこの並びということは、成生が一番前である。

 成生トレインの完成だ!

 行き先は天国か、地獄か。それはまだ分からない。行くなら天国がいい。


「元口成生様」

 前の方から案内の女性の声がした。

「はい」

「私が手を引っ張りますので、ついてきて下さい」

 その直後、成生の左手に手が重なった。そして細い指が、成生の指と指の間に滑り込んできて、手を握られる。

 なりおは思わず握り返してしまったが、


(これって、いわゆる恋人繋ぎなのでは?)


 と思う。

 リリアともしたことが無いのに。

 でも、これいいな。凄く密着度があって。いつかリリアとしてみたい。


 そんな成生の手を包む女性の手は、あったかいというよりも、少し熱かった。なんだか人とは違う感じがしてきた。


(もしかして、この人はアンドロイド……?)


 そう思った時、手をくいっと引っ張られる感覚がした。

 成生は女性の案内に従って歩くが、一つ疑問が浮かぶ。


(もしアンドロイドだとしてだ。さっき運転してたけど、運転免許は……)

 そこは考えたら負けだと思った。

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