第31話 村瀬カフェへようこそ!!

 照日とは、成生やリリアと同じ部屋で寝ることになった。

 リリアはベッドを照日に譲ろうとしたが、照日は「ベッドはリリアお姉さまが使って!」と言うので、成生の横に布団を敷いて寝ることになった。




 翌日。

 成生が目覚めると、目の前に照日の顔があった。すでに起きている照日と目が合う。


「!?」

 成生の布団に潜り込んでいる照日で眠気が吹き飛んで、一気に目が覚めた。


「おはよっ。なりお兄ちゃん」

 ひそひそ声で言う照日。ちょっと楽しそうである。


「起きなかったら、もーっとキモチヨク起きちゃう方法で起こそうと思ったんだけど、残念だったねー」


 照日はにこやかに言うが、絶対にあぶない奴。ヘタしたらアウトなヤツだ。


「お兄ちゃんははげしいのが好き? じっくりされるのが好き? 今後の起こしかたの参考にするねっ」

 この言動からも、その起こし方は間違いなくアウトなヤツだ。照日にされているのがバレたら、間違いなく捕まるだろう。


 この日から、成生は寝坊をしなくなった。

 ――しなくなったというか、出来なくなった。




 起きて朝食終了後。

 成生とリリアが学校に行く準備をしていると照日が、

「るーも学校行きたぁーい!!」

 と言い出した。

 子どもか! 見た目子どもだけどさぁ……。


 リリアが、

「照日さん。手続きを終えてからです。もう少しお待ち下さい」

 と説得し、手続きが終わるまではお留守番ということになった。

 照日を家に残して、成生とリリアは学校へ。




 そして放課後。

 成生とリリアが学校から帰ってくると、とんでもない風景が目に飛び込んできた。


「お帰りなさいませっ!! ご主人様! お嬢様!」


 そこには、メイド姿の照日がいた。

 笑顔で深々とお辞儀をする。


「村瀬カフェへようこそ!!」

「…………」


 突然の出来事に何も言えなかった成生。

 家の中を改めて見回したが、ここは見慣れた成生の家。決してメイド喫茶ではない。

 だが、目の前にかわいらしいメイドが存在していた。


「え? なに? どういうこと?」

 メイド姿の照日に戸惑っている成生と、

「まぁ、素敵なコスチュームですね、照日さん」

 冷静に照日を誉めるリリア。対極的だった。


「るーね、前にコスチュームいっぱいもってるって言ってたでしょ? だから、毎日変えてみようかなって。――なに? なりお兄ちゃんはもっとセクシーなコスがよかったの?」

「いや、その、それは……」


 見てみたい気はするけど、照日みたいな小さな子にセクシーなのは、アウトくさいような予感がする。


「んもう、お兄ちゃんはえっちだなぁ。ま、お兄ちゃんは鬼ヨワだけど、むっつりだって知ってるから、どういうのが好きか反応みたいんだけどねー」

 と言って、どこか嬉しそうな照日。その反応を見て、どうするつもりなのか。やっぱり罠にハメたいのか。


「私も着てみたいです」

 メイド姿の照日を眺めていたリリアが言いだした。

「え? リリアお姉さま、メイド服もってないの? 確率的に出やすいのに」

「メイド服は無いですね」

「えー、なりお兄ちゃんのケチー! もっとマワしてよー」

「いやだ!! 俺はまだ闇バイトしたくない!!」


 そう言えば、リリアのコスチュームはどれぐらい有るのだろうか。10連ガチャなんて、やったのは最初だけだ。それからは毎日1回無料を続けているはず。それに関してはリリアに任せている。バニーのようにたまに見せてくれる時も有るが、今コスチュームがどれぐらい有るのかは知らない。


「じゃあ、なりお兄ちゃんがマワしたくなるように、毎日違うコスチューム着るね。ついでに好みもわかるかもしれないし」

「そう……」


 そういうのはリリアに求めていたが、ガチャでいいモノは出なかったみたいだし、今は一緒に学校へ行っている。

 リリアでは実現出来なかったことを、照日がやってくれる。ありがたいことだ。照日が学校へ通い始めるまでの短い間だが、帰宅がちょっと楽しみになる。

 でも、本当にガチャ回したくなったら、どうしよう。




 次の日。

 学校から帰ってきて玄関を開けると、


「なりお兄ちゃーん! リリアお姉さまー! おかえりー!」


 ポンポンを高く掲げて振る照日。

 今日はチアコスだった。


「どう? セクシー?」

「これは……」


 照日のカラーと言える赤白のチアコス。

 トップスは丈が短く、おへそが見えている。

 そしてノースリーブなので、腕を上げるとつるんとしたきれいな腋は丸見え。

 スコートはミニ。スラリとした脚が見えている。


「いいね!」

「なりお兄ちゃん、すっごくうれしそう……。ろしゅつが多いのは、好きみたい」

「そうじゃなくて、照日ちゃんかわいいなぁ、って」

「ほんとぉ? えっちな目で見てた気がするけど」

 照日は成生に疑いの目を向ける。本当のことなのに……。えっちな目で見ちゃったのも、本当のことだけど。


 それ以上に、

(普段見ないようなコスチュームって、破壊力高いなぁ)

 と思ったのも事実。

 リリアに着てもらいたいけど、ガチャで出るのかな? 回したいけど、課金したら負けだ。


「これで応援してもらうと、頑張れそうだね。元気出る」

「ほんと? じゃあ、いっぱい応援しちゃおっかなー」


「それなら、私も成生さんの為に着たいですね」

 リリアがそう言い出した。

「うーん……」

 照日は見下ろして自分のチアコスを眺める。

「リリアお姉さまがこれ着ると、下乳出ちゃいそう」


 ――下乳。

 あの伝説の……。

 そんなの、確実に別の場所が元気になっちゃう。


 うん。ガチャを回さないと。

 これはコスを着たいというリリアのため。決して下乳を見たい訳じゃないんだからね!


「成生さん、下乳ってなんですか? 私のデータには有りません」

 リリアの突発的な質問に、成生は現実へ戻される。お陰で冷静になれた。


「あ、うん……。それは沈む上弦の月。昇る下弦の月……」

「……? よく分かりません」

「簡単に言えばロマン、かな?」

「……やっぱり、よく分かりません」

「そのうち、分かる時が来るさ」

 来るかなぁ……。来ねぇんだろうなぁ。




 次の日。

 成生とリリアが学校から帰ってきて玄関を開けると、

「おにぃ……ちゃぁんっ!!」


 たっぷりと溜めて甘えた声を出す照日は、ゆったりしたジャンパースカートにブラウスというコーデ。

 そして背中には赤いランドセルを装備していた。

 その背の小ささも合わさって、照日はどう見ても小学生にしか見えなかった。


 玄関のドアを閉めると、照日は成生の目をジッと見つめて、

「だぁーいすきー!!」

 と笑顔を見せた。


 ――いや、そんな趣味は無い。

 無いはずだが、なんだこのときめき。

 鼓動が早くなっているのは、自分でも分かる。心臓がうるさい。

 このままだと、照日みたいな子に目覚めてしまいそうだ。

 成生は思わず目を逸らした。


「あれれぇ~? お兄ちゃんどうしたのー? るーにほれちゃったー? 顔真っ赤だよー?」

 照日はニヤニヤしながら、下から成生の顔をのぞき込んでくる。

 あんまり見ないでほしいのだが。


「なりお兄ちゃんって鬼ヨワだから、女の子に攻められるのは弱いよねぇ?」

「……」

 否定は出来ない。

 リリアはあまり攻めてくるタイプじゃないので、成生はそういうのは慣れていない。そもそも今までの人生で近付いてこようとする女の子自体いなかったので、近付いてきただけでもどきどきする。


「このまま、なりお兄ちゃんを取っちゃおっかなー。お兄ちゃんからかうと面白いし」

「駄目です」

 ちょっと不機嫌そうに早口で言うリリア。ハッキリ分かるぐらい感情を出すのも珍しい。

「えー、だってデートにすら、まだ行ってないんでしょ?」


 そう言うと、照日は成生の頬を両手で挟み、成生の顔を照日の方へしっかりと向けて引き寄せた。

 成生のすぐ目の前には、照日の顔がある。こんなに近いのは、初めてかもしれない。成生の布団に潜り込んでくる時でも、こんなには近く無い。


 そして照日は、

「照日とだったらー、キモチイイこと、いっぱいできるよ?」

 と言ってニッと笑った。

「どうする?」

 照日の唇が艶めかしく動く。もうちょっと近付いたら、触れてしまいそうだ。


 距離の近い照日から、甘い香りが漂ってくる。

 成生は頭がボーッとしてきた。なんだか、何も考えられなくなっていく。

 このまま、身を任せていいのだろうか……。


 と思っていたら、なにやらすぐ横から圧力を感じた。

 多分、リリアだ。リリアからの圧力だ。照日に両手で抑えられて顔を向けられないので分からないが、その方向にはリリアがいる。

 見たいけど、怖いから見たく無い気もする。すごく、熱を感じる。


(ああ、どうすればいいんだ。誰か助けて!)


 そう思った時、玄関ドアが勢いよく開いた。


「なっちゃんが呼んでいる気がしたから、来たぞぉ!」

 桜音おと姉ちゃんだった。


 玄関で顔を近付けている成生と照日。その横で二人をにらみつけるリリア。


「……」


 桜音は黙って成生に近付くと、頬を挟んでいた照日の手を下ろし、身体ごと自分の方へ向けさせると、両肩をつかんだ。


「なっちゃん。女の子連れ込みたいのは分かるけど、小学生はいかん!! しかも修羅場!!」

「照日ちゃんはリリアさんと同じ歳だよ!」

「じゃあ、なんだい? このランドセル姿は」

「これは……コスプレだよ」

「似合いすぎてて、カワイイな! 連れて帰りたい!」

「捕まるよ?」

「リリアと同じ年齢なんだろう? じゃあ合法だ」

「とにかく、ダメだから!」


 ややこしくはなったが、姉ちゃんのお陰で助かった。

 チラッとリリアを見ると、いつもの感じがした。

 でも、機嫌を損ねたのは間違いない。

 おわびを考えないと。


 ――どうしよう。

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