第23話 天然と養殖

 リリアの家でありながら成生の家でもある――いや、成生の家にリリアが住んでいるのだが、ココで追加の勉強会が終わった。


 すでに外は真っ暗。

 成生は海陽みはるを駅まで送ることにした。地図アプリのナビ機能を使えば一人でも帰られるだろうが、それはかわいそうだ。成生にとっては歩き慣れた道を行って帰って来るだけなので、苦では無い。


「私も行きます」

 とリリアが言うが、

「その姿じゃ、ムリだよ」

 と、成生はリリアを止めた。


 さすがにバニーガール姿のリリアを外に出す訳にはいかない。色んな意味で注目の的となってしまうだろう。

「だから、待ってて」

「はい。いってらっしゃい、成生さん。海陽さんも、また来て下さいね」

「うん。また来るね!」




 外に出ると、空気がじめっとしていて湿度の高さを感じた。空は曇り。月明かりも無い。だが街灯などが有るので、夜道は真っ暗では無い。

 成生と海陽は並んで駅へ向かって歩き出した。


「なんか、リリアとナリオくんのさっきのやりとり、夫婦みたいだね」

「ぶっ!!」

 海陽がヘンなこと言いだすから、成生は思わず吹き出した。

「ほんとに付き合ってないの?」

「無いよ」

「信頼しあってるのかなぁ……。そんな空気がしてた」

「そう?」

「だって、勉強もリリアにほとんど任せっぱなしだったし」

「それは……」


 リリアのバニー姿が目に入ると、穏やかじゃない気持ちになるから。


「リリアが丁寧に教えるから、俺はやること無かったんだ」

「おかげで、今回はがんばれそうな気がする。リリアの教えかたがじょうずだったし」

「それは良かった。俺はあんまり役に立ってない気がするけど」

「ううん。最初にナリオくんが『助けてあげようよ』って言ってくれたから、リリアもこうやって教えてくれたんだと思う。あれがなかったら、わたし死んでた」

「そっか……」

 あまり実感は無い。

「わたしって頭悪すぎだから、トカちゃんとかモンちゃんにあきらめられたんだけど……」


 トカちゃんとモンちゃんとは、海陽がよく一緒にいる人たちだ。トカちゃんは十勝とかちさん。モンちゃんは門出かどでさんで、三人は仲がいい。


「冷たいな、二人とも」

「わたしが悪いからしかたないよ。だけど、リリアとナリオくんが見捨てずに救ってくれた。ありがとう、ナリオくん」

「ホントになんもしてないんだけどなぁ……」


 そばにいたぐらいで。でも、そう言われると照れくさい。


「今回思ったけど、わたしとリリアは違うけど、わたしとナリオくんって似てると思う」

「え? どこが?」

 似ている部分が思い当たらない。

「困ってる人をほっとけないとこ」

「困ってるっていうか、元気の無い海陽さんは海陽さんらしくないと思って……」

「そこっ!」

「どこ!?」

 海陽に強く指摘されても、何が言いたいのか分からない。

「わたしが困ってると思って、ここまで付き合ってくれたんでしょ? やることないって、さっき言ってたのに」

「それは、まぁ……」


 そう言われると、リリアが教えていたのに海陽の勉強に付き合っていた。ほっといて別のことをしていてもよかったのに。

 リリアが心配というよりも、海陽が心配で最後まで付き合った。

 だからって、自分が海陽と似ているとは思わない。


「それだったら最初に声をかけて、最後まで勉強教えたリリアの方が似てる気がするけど」

「全然。リリアとわたしじゃあ、頭のデキが違うし」


(俺も海陽さんほど頭はじゃないと思うけどな)

 それは口に出さず、そっと思う。


「リリアもわたしもヘンなこと言ったりやったりするときあるけど、なんか違うんだよ。リリアは天然で、わたしは養殖」

「その例えが一番分からない」


 海陽は多分、リリアは天然だけど、自分は違うと言いたいんだろう。

 でもリリアはアンドロイドだから、天然養殖で言えばリリアが養殖だろう。作られたモノのはずだ。

 いやぁ、作ってるのかなぁ、アレ。

 養殖の天然物? 天然の養殖物?

 頭が混乱してきたところで、駅が見えてきた。




「それじゃあナリオくん、また月曜ねっ!」

「ああ」

 改札を抜けた海陽は、振り返って笑顔になる。成生が見た中で、一番いい笑顔だった。

 そして大きく手を振ると、ホームへ向かっていった。成生は姿が見えなくなるまで見届ける。


「うーん。やっぱり、元気な方が海陽さんらしいな」

 軽いステップで帰って行く海陽を見て、成生はつぶやいた。

 机で死んでた時とは違う。あれはもう、何やっても反応無いんじゃないかというレベルだった。


 例えばえっちなこととか――する勇気は無いけど。


 海陽の元気な姿を見ると、こっちもやる気が出てくる。これから自分の試験勉強を頑張らないと。


「さて、帰ったら俺もリリア先生に教えてもらおっかな。海陽さんに負けてられないや。誘惑には負けないぞ!」

 と、勇んで家に帰った成生だったが、小さなテーブルでの距離感、近いリリアから漂ってくるいい香り、そして豊満ボディが目立つバニーガール姿では、勉強には集中出来なかった。

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