第20話 リリアの家は俺の家。俺の家は俺の家

 海陽みはるとリリアと成生の三人は電車で移動。

 リリア――というか成生の家に近い駅で降りた。


「ここからの道は分からないので、お願いします! リリア先生」

「任せて下さい。マップは最新の物が記録されていますので、ナビは完璧です」


 そう言うってことは、リリアの頭の中ではナビみたいなモノが動いているのだろうか。普段は成生と帰っているリリア一人で家に行けるのなら、口出しはしないが。


「それでは、出発します」


 そしてリリアが先頭で家に向かって歩き出した。リリアの後ろを、海陽と成生が並んで歩く。

 この辺りは駅を少し離れれば古くからの住宅街。広くない道が入り組んでいる。

 しかしリリアは迷うことなく、家の方向へと歩いている。

 これなら間違えることは無いだろうと、成生は安心した。


「で、ナリオくんもリリアん行くの?」

 海陽が訊いてきた。


「うん。行く」

 というか、自分の家だ。


「そう言えば、リリアとナリオくんは知り合いって言ってたね」

 そういうのは海陽でも覚えてるんだな。


「ナリオくんはリリアん行ったことある?」

「有るよ」

 毎日帰ってるし。


「えーっ! いいなぁ。どんな感じの家? すっごい美人なおうち?」

「どんな家だよ! ……まぁ、普通の家かな?」

「それじゃ分かんないよぉ」

 海陽は口を尖らせた。

 そんなん言われても、他に形容しようが無いし。


「リリアの部屋って見たことある?」

「うん。普通の部屋だね」

 自分の部屋だし、よく分かってる。

 ヘンな物は置いてない。というか、置けない。


「それじゃあ分かんないんだってばぁ!」

 腕をはたかれた。痛い……。


「例えば、ああ見えて部屋はかわいいぬいぐるみであふれてます、とか」

「無いな」

「ああ見えて部屋はデスメタルです、とか」

「無いね」

「……ああ見えて部屋はアニメグッズであふれてたり」

「無いよ。すごくシンプルな部屋」


 そもそもの成生の部屋がシンプルな部屋だった。物はあまり無い。

 それはリリアと同居するようになっても変わらない。リリア用の衣類収納ケースが増えたぐらいだ。部屋のその辺にリリアの下着とか転がってても困るので、成生が用意した。リリアが着けている姿は何度も見ているが、転がっていたら転がっていたで、それは穏やかじゃない気分になる。脱ぎたてでも、洗濯後でも。


「うーん、行ってみないと分かんないか。あとどれぐらい?」

「もうすぐだね」




 そして到着したリリアの家――というか成生の家。

「ここです」

 リリアはそう言うが、海陽は表札を見て首をかしげた。


「ねえ。リリアの名字ってなんだっけ?」

東尾ひがしおです」

「ナリオくんの名字ってなんだっけ?」

元口もとぐち

「ここ、『元口』って書いてるんだけど……え? なんで? えぇ?」

 海陽は口を開けたまま目を丸くして、表札、リリア、成生を何度も見ている。


「だって、ここ俺の家だし」

「リリアの家に来たんだよね?」

「うん。ここで合ってる」

「でもナリオくんの家?」

「そう」

「ひょっとして、リリアとナリオくんって結婚してるの?」

「んな訳ねーだろ!」

 海陽があまりにもアホなことを言いだしたので、つい強く言ってしまった成生。

 人間とアンドロイド以前に、そもそも年齢的に結婚は出来ない。


「まさか、元口と書いてひがしおと読む? 初見殺し?」

「いや……」

 このままでは、いつまで経っても家に入られない。

 成生は海陽に説明した。


 成生もリリアも、親が離れたところで仕事している。

 同じ境遇の二人が出会った。

 そして成生の家で共同生活をしている。その方がメリットが大きいと二人とも感じたのだと。


 そういう公式設定である。学校にも、そう伝えている。

 これを海陽は、

「へぇー。大変なんだね、二人とも」

 怪しむことも無く、あっさり信じた。単純な海陽で良かった。

「だからリリアとナリオくんって、いつも一緒にいるんだね」

「そうなんだよ」

「仲がいいだけだと思ってたよ」


 事情を知ってくれたということで、三人は家の中へ。

 成生はリリアの部屋――というか、成生とリリアの部屋に海陽を連れて行った。


「わぁぁ…………本当にシンプルな部屋」

「だから言っただろう」

「リリアの部屋だけど、ナリオくんのものもあるね」

「うん。まぁ、この部屋はリリアと共用だからね」

「でもベッドは一つ――え? あのベッドで一緒に!?」

「いやいや。さすがにあのベッドはリリア用にして、俺は床で寝てる」

「あー、ビックリした」

 この短い時間でも、海陽の表情はコロコロ変わる。

 多分、思っていることが顔に出てしまって、隠し事が出来ないタイプだ。分かりやすくていいけど。ババ抜きとかすっごく弱そう。


「リリアが一人だと寂しいから、一緒の部屋で寝てくれって言うんだ。だから、そうしてるだけ」

「本当は、ナリオくんもさびしかったんじゃない?」

「それは……有るかもね」


 だからこそ彼女が欲しいと思ってて、リリアと出逢った。

 彼氏彼女というより、もうすでにパートナーの領域に達している気もするが、これで彼氏彼女の練習になっているのだろうかと、たまに思う。


「で、二人は付き合ってるの?」

「付き合っては……無いよ?」

「今の間、なぁーんか怪しいなぁ……」

「さぁて、勉強の準備しないと」


 成生はごまかすように、部屋の隅に有った小さな折りたたみテーブルの脚を広げて、部屋の真ん中に置いた。


「そう言えば、リリアは?」

 海陽に言われて気付いたが、帰ってきてからリリアの姿が消えている。


「着替え、じゃないかな?」

 リリアは普段、この部屋で着替えをしている。成生がいようがお構いなく。

 そして成生の中で見たい気持ちと、見てはいけない気持ちのバトルが始まる。

 さすがに海陽もいる状況じゃ、ここで着替えは出来ないだろう。


 そう言えば、家だとリリアは凄くラフな格好だ。服が少ないせいでもあるが。

 学校では真面目で優秀、品行方正という評価で固まっているリリア。制服だってキッチリしている。

 そんなリリアのラフな姿を海陽が見たら、驚くかもしれない。


「ギャップがあっていい!」

 なんて海陽は言ったりしそうだ。普段は制服姿のリリアしか見ていないから、普段のリリアは新鮮だろうな。


「成生さん、入りますよ」


 ドアの向こう側、廊下からリリアの声が聞こえてきた。やっぱり着替えだったのかな?

「いいよ」

 成生がそう言うと、ドアが開いた。

「!?」


 確かにリリアは着替えていた。

 肩周りを大きく露出した黒いボディスーツ。

 首に白い襟と黒い蝶ネクタイ。

 手首には白いカフス。

 脚はデニール数の低いやや透けな黒スト。

 頭には黒くて長い耳の付いたカチューシャ。

 お尻のところには、白くてもこもこした丸いしっぽ。


 それはどこからどう見ても、バニーガールだった。

 ギャップ有りすぎだろ……。

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