第7話 ノスタルじい

 リリアが彼女としてやること、成生が彼氏としてやることは、二人で探すことにした。

 成生もリリアも答えが分からないのだから、仕方ない。それを学ぶ為にリリアはやってきたのだ。

 これから二人で学んでいく。

 この家で。


 ――あれ? いきなり同棲?


 今更気付いたけど、なんだろう。この色々と過程をすっ飛ばしている感。

 かと言って、リリアに帰る家は無い。ここを出て行けば、リリアは路頭に迷うだろう。

 その前に、外に出られるような服が無い。

 服は買いに行けばいいかもしれないが、その服を買いに行くための服が無い。

 そもそも女の子の服なんて、どこに買いに行けばいいのか?


 姉ちゃんに服を借りられたらいいのだろうが、姉ちゃんは服を全部持っていったので、この家には無いと思う。その前に、入るのか?

 困ったモノだ。


「どうしよう、リリアの服」

「10連ガチャなら、出てくる可能性がありますよ? しかも普通に買うよりも安く」

「期待出来ねえ」


 SSRがスクール水着のガチャとか。

 もっと使える実用的なコスチュームが出てほしい。

 いやぁ、そりゃ別の意味でえるかもしれないけれども、今欲しいのはそういうモノじゃない。


 ということは他のSSRも、ああいう感じのコスチュームが……?


 余裕が出てきたら回してみよう。

「……てか、今10連ガチャ回せるの?」

「えっと……石が足りないですね」

「詫び石配る案件、起きないかなぁ……」


 いきなり課金したら負けだと思う。課金は最後の手段だ。


「今なら1日1回無料ですよ?」

「完全にスマホゲーの世界だなぁ。更新は何時?」

「12時ですね。お昼の」

 変な時間じゃ無いなら、早起きとかしなくていいな。スマホゲーは早朝に変わるのが多いから。

 学校から帰ってきたら、何かコスチュームが増えているかもしれない。

 その辺はリリアに任せて、なにか出たらいいな! ぐらいの気持ちでいよう。



 服の問題がいったん片付いたところで、リリアのことをもっと知りたいと思った。

 リリアはどこまで人間と一緒なのだろう。

 この機会に訊いてみよう。

 まずは……。


「リリアさん、食事ってするの?」

「出来ますよ? しなくても問題はありませんが。食べなかったら不自然だと、食べる機能を付けたようです」

「ヘンなところにこだわり持ってるんだな」

「より人間に近付けるのを、目標にしていますから」

「そうなんだ」


 こうやって話してても、アンドロイドとは思えないが。それだけ開発者が凄いんだろう。


「あと……お風呂は入るよね? 当然」

 車だって洗車をする。アンドロイドだからって身体を洗わないということは無いだろう。

「入ります。一緒に入りますか?」

「いやいやいやいや……」


 リリアは分かって言っているのか、分からずに言っているのか、よく分からない。

 分かって言っているのなら、期待に応えてあげなきゃ。

 分からずに言っているのなら……どうしよう。それで一緒に入ったら、無知な子を騙しているみたいで悪い気がするし。

 とりあえず、自然に話の方向性を変えたい。


「さすがに水を被ったら壊れるってことは無いんだね」

「防水は完璧です。それに深くないですから、お風呂ぐらいなら私でも大丈夫ですよ」

「というと?」

「私の身体には、水に浮く要素がありません。なので水に入れば沈みます。身体の一部は浮く素材みたいですけど。プールや海に入ったことは無いので、どこが浮くのか分かりません。開発担当さんいわく、こだわって造ったそうです」


 どこが浮くんだ……?

 一ヶ所思い付く場所は有る。有るが、口には出せない。

 それはおっ――。


「なので海とかプールだと、完全にカナヅチですね」

 だったら、さっき出たスクール水着はどこで使えばいいのだろうか。リリアに着せて楽しむぐらいしか……それでもいいけど。


 沈むと呼吸も出来なくなる。……ん? 呼吸?


「リリアさんって呼吸するの?」

「成生さんと同じように呼吸はしますが、体内冷却の為に吸気、排気を行っています。パソコン等と同じだと考えていただければいいですね。なので、吸気排気が出来なくなると、熱でダメになる可能性が有りますね」

「呼吸の動作は人間と同じか」

 目的は違っても、やってることは変わらない。

「面倒臭いな」

「いかに人間に近付けられるかが、技術者の腕の見せ所ですから」

「じゃあ、泳げないけど海底を歩いてどこまでもーなんてのも、出来ないんだね」

「そうですね。さすがにみんな泳げないのは問題と思ったのか、最近は水に浮いて泳げる機能を付けるように、研究開発はしているみたいです」

「リリアさんも、いつかは泳げるようになるといいね」

「そうですね。そうなったら一緒に海かプールに行きましょう」

「ああ」

 でも、その時のリリアの水着どうしよう。

 スクール水着? それはヤバい。いや、ヤバいかどうかはまだ実物を見ていないから分からない。やっぱりスクール水着は一回着てもらおう。

 確認の為だ。これは確認の為だ。

 ま、海に行くのはまだまだ先の話だろうから、今は置いておこう。


 あと訊くこと。

 排泄……は失礼だろう。いくらアンドロイドでも。

 さっきのお風呂でもかなり攻めた質問だったが、いきなり女の子に「おしっこするの?」とか、ヘンタイ以外何者でもない。

 では失礼にならない質問と言うと……。


「リリアって寝るの?」

 三大欲求の睡眠欲なら、大丈夫だろう。食欲だって訊いたし。

 残る一つの性欲は……もう少し関係が進んでからでいいだろう。アダルトなビデオの冒頭インタビューじゃないんだから、今訊くことじゃない。


「スリープタイムは重要です。私の体内には発電装置が有りますが、消費に追いつくほどの発電量は有りません。休憩やスリープで回復が必要です。人間で言えば体力ですね。成生さんもずっと稼働は出来ないでしょう?」

「まぁ、そうだね……」

 と言ったところで成生は気付いた。

「あ、リリアさんの寝る場所……」


 姉ちゃんのベッドは持っていってるので、無い。

 両親の部屋は入れない。


 つまり、

「寝る場所が俺のベッドしかない!」

 のである。

 ベットは一つなのに、寝る人は二人。

「ちょっと確認してみるか」

 成生とリリアは成生の部屋に向かった。




 成生の部屋に来た二人。

 目の前には成生のシングルベッドがある。

 どう見ても、大きさ的に一人しか寝ることが出来ない。

 ここにリリアと二人で寝る! となっても困るが。


「俺は別の部屋で寝る。リリアさんは俺のベッドを使うといい」

「それはダメです。ここは成生さんのベッドです。成生さんが使うべきです」

「リリアさんを床とかで寝かせられないから」

「だったら、一緒に寝ましょう。このベッドで」

「……え?」

 まさかの提案だったが、まだ何も分かっていない二人が初日からベッドインというのも、どうかと思った。だから困ると思ったのに。

 多分、リリアはそういう意味で言ってるのでは無いと思う。リリアは分かっていない。きっと。

 とりあえず、二人ベッドインは避けたい。


「ほら、二人だとベッドが壊れる可能性があるし。そんなにいいベッドじゃないからね」

「すみません。私が重いんですね……」

 リリアはうつむいた。老人もリリアは少し重めと語っていたが、リリア本人もそれは気にしてはいるような感じだった。

「そんなことは……ない、と思うよ……? 多分?」

 確かに箱に入ったリリアは重かったけど、今それは言うべきじゃない。そんなことを言ったら、取り返しが付かないことになる。


「成生さんは、私の重さを知っていますか?」


 成生は黙って首を左右に振った。

 だって、正確な重さは知らないから。


「でしたら、私を抱いて下さい」

「抱くうっ!?」


 抱くうっ!?

 抱くっ!?

 抱くーっ!?

 抱くーっ!?


 頭の中で何度も響く言葉。

 おかしいな。変な方向に進まないルートを選んでいたはずなのに、なぜか話が変な方向に進み始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る