#37 男の子の気苦労
食事の後は、予定していた佐倉さんの買い物に向かった。
佐倉さんが行きたかったお店は同じ商業施設内にあって、佐倉さんが買いたかった物は、水着だった。 それを僕に選んで欲しいそうだ。
佐倉さんが若干興奮気味に言ってたことを脳内で補完しつつ解釈すると、どうも久我山さんに色々言われたことで、対抗意識を燃やしてるらしい。
でも、なぜ久我山さんに対抗意識を燃やすのか理解出来なかった。
ミイナ先輩ほど敵意を持ってる訳じゃないっぽいけど、拳を握って「いつまでも負けてばかりじゃいられないんデス!」と言う姿に、いつの間に勝負してたの?何に負けてたの?と疑問が尽きず、やっぱり僕には女性同士のしがらみとかはよく分からなかった。
そして、女性の水着なんて、流行りも好みも全く分からない僕に聞かれても困るし、華やかな女性物の水着だらけの店内を佐倉さんの様な容姿で目立つ人に連れられてウロウロするのは拷問の様な時間で、何度も「もう、いつものスクール水着でいいでしょ」と言いたかったけど、水着を吟味する佐倉さんの表情が真剣だったから、言うことが出来なかった。
結局、佐倉さんが候補として3つ選び、その中から一番良いと思ったものを選ぶように要求された。
1つ目は、黄色やオレンジの明るい系統のカラーで、ヒラヒラのフリルがカワイイ感じのデザインのワンピース。
2つ目は、ワインレッドのシックで大人っぽいカラーで、シンプルなデザインのワンピース。
3つ目が、ブルーのアダルティなデザインのセクシーなビキニ。
正直言って、「どれでもいーよ」と言うのが本音だけど、それを許してくれそうにない圧を佐倉さんからヒシヒシと感じていたので、ビジュアル的に佐倉さんのイメージに合いそうな2つめのワンピースを指定すると、「し、ししし試着してみますね!」と言って、僕に麦わら帽子を預けてピューって試着ルームに入ってしまった。
ただでさえ居心地が悪い女性だらけの店内に一人取り残され、更に居心地が悪くなった状況で待っていると、しばらくして試着ルームのカーテンから顔だけ出して、「試着しましたけど、見たいですか?」と聞かれたので、「いえ、結構です」と答えると、あからさまにガックリした表情になったので、「少しだけなら」と渋々言い直した。
すると、佐倉さんは少しだけカーテンを開いて、試着した水着を見せてくれた。
しかし、何をどう言えば良いのか、全くわからない。
「かわいいね」って言えばいいの?
「セクシーだね」って言えばいいの?
「似合ってる」が正解?
普段から部室でのスクール水着姿を見慣れていても、女性客だらけの水着のお店の試着コーナーで同級生の女の子が顔を真っ赤にして恥ずかしそうに水着姿を僕にだけ見せているというこの状況が異常すぎて、平常心を完全に失っていた僕は、的外れな言葉を口にした。
「脚、綺麗だね」
な、ナニ言ってるの僕は!?
確かに、スクール水着姿を毎日の様に見てたから、佐倉さんがすね毛1本も無い綺麗な脚なの知ってたし、「綺麗な脚してるんだなぁ」って思うことが度々あったけど、今このタイミングで言う話じゃないでしょ!
テンパリすぎだよ!
案の定、佐倉さんは僕の感想を聞いて、ほっぺを膨らませて「むぅ」って声が聞こえそうな不満な表情をしてからカーテン閉めてしまった。
失敗してしまった。
相変わらず女性の扱いが下手過ぎる。
でも、言い訳させて欲しい。
朝から不意打ちの様に「初デート」だと言われ、映画館ではボロボロに泣いてしまい、食事の後にはヘビィな思いを聞かされ、こんな女性だらけの店内に一人残された挙句に水着姿を見せられた僕の精神が如何ほど摩耗していたかを分かって欲しい。
テンパるのも仕方ないでしょ?
僕は、女の子の水着姿を直視出来ない様な初心な男子高校生なんだよ?
頭を抱えたくなるほど脳内で言い訳していると、試着ルームの中から「次行きます!」と佐倉さんの声が聞こえ、再びカーテンが少しだけ開いた。
佐倉さんは、3つ目のブルーのビキニを着ていた。
相変わらず顔は真っ赤で恥ずかしそうにしてて、両手で胸元を隠しているけど、ヘソが見えてる。
佐倉さんのヘソ見たの、初めてだ。
っていうか、そんなに恥ずかしいのなら、なぜ執拗に僕に見せるんだ。
動揺しつつも先ほどの失敗を繰り返さない為に、何と言うべきか必死に頭の中でグルグルと考えた。
凄く大胆な感じがする。
普通の高校1年生はこんな大胆な水着、着ないと思う。
でも、佐倉さんは久我山さんに負けない為の水着を求めている。
久我山さんの水着姿を見たことは無いけど、あの人のビジュアル的な魅力は、女性的な肉感スタイルと言うか、豊満というかふくよかというか、自己主張が激しいおっぱいだろう。
一方、佐倉さんの場合は、クラスの女子の中では胸はある方だと思うけど、長身な為に全体的にスリムな印象が強く、普段から背筋を伸ばして姿勢が良いので、落ち着いた雰囲気とたまに見せるセクシーな表情が魅力的な人だと思う。 初めてスクール水着姿を見た時は、本当に目のやり場に困ったのも記憶に新しい。
そして、スタイルの良い佐倉さんにビキニは似合ってて、とても様になっていた。
そんな佐倉さんには、アダルティなセクシー路線で勝負するべきだと判断した。
「良いと思います。これならいい勝負になると思います」
「ほ、ホントですか!?」
「ええ、セクシー路線が良いと思います」
「じゃあコレにします!」
漸く佐倉さんも納得してくれたけど、滅茶苦茶疲れた。
もう帰りたくなってきた。
会計を済ませてお店を出て、買ったばかりの荷物を僕が預かると、佐倉さんは何も言わないで僕の右手を繋いで、歩き出した。
そして、疲れ切っている僕とは対照的に、凄くご機嫌だ。
だから、疲れを顔に出さないように、気を付けた。
その後は、ウロウロとアクセサリーや小物なんかのお店を見て周り、1時間もすると佐倉さんも疲れてきた様子だったので、ファーストフードに入り、シェイクを買って休憩をすることにした。
テーブル席に向かい合って座り漸く落ち着くと、「凄く楽しくて時間を忘れちゃうほどだけど、疲れてきましたね」と佐倉さんが言うので、「僕もちょっと疲れた。僕達、基本的にはインドア派だしね。 帰りの電車が混む前に帰ろうか?」と提案すると、「そうですね。買いたかった物も買えたし、帰りましょうか」とすんなり同意してくれ、今日は帰ることになった。
来た時と同じように地下鉄と電車を乗り継いで緑浜駅に帰ると、佐倉さんのお迎えがまだ来ていなかったので、来るまでロータリーで一緒に待つことにした。
流石に地元なので、誰か知り合いに見られると色々と不味いと思い、もう手は繋いでいなかった。
でも、今日1日で随分と佐倉さんとの距離が縮まったと思う。
最近は部活を通して遠慮とかも減って一番仲が良い友達だとは思ってたけど、今日は手を繋いだりして物理的にも距離が縮まっていた。
恋人でも無い友達と手を繋ぐ距離っていうのはいささか疑問を感じるけど、仲良しなのは間違いないので、きっと悪い事ではないだろう、と無理矢理自分を納得させることにした。
佐倉さんのお母さんが運転するお迎えの車が来ると、お母さんは態々車を降りて僕に何度もお礼を言ってくれて、「今度お家に遊びに来て下さいね」とも言ってくれた。
二人とも乗車して、車の中から手をブンブン振る佐倉さんとニコニコ笑顔のお母さんを見送ってから駐輪場に向かい、まだ暑い日差しの中、一人で自転車に乗って帰り、人生で初めてのデートが終わった。
初めてのデートは楽しかったけど、色々と反省も残り、そして疲れた。
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