第3章 走りだした邦画研究部

#22 佐倉さんの困りごと



 GWが終わると、総務委員会では邦画研究部の正式認可が決定し、無事に認可証が発行された。


 発行された翌日の放課後。

 総務委員会より部長であるミイナ先輩が総務委員室へ呼び出され、簡単な授与式が行われた。

 式と言っても、総務委員長から部長へ手渡すだけなんだけど、つまり、久我山さんとミイナ先輩とが直接対面することになった。


 僕も一応総務委員会書記として立ち会った。

 その場に居たのは、久我山さん、ミイナ先輩、会計役の2年女子の先輩、そして僕。


 ミイナ先輩は時間通りに委員会室にやって来たけど、最初から態度が悪かった。

 会計役からの部費に関する説明や久我山さんからの部活運営の注意点などの話を興味無さそうにしてて、思わず僕から「あまり印象悪いと認可撤回されちゃいますよ」と耳打ちすると、唇を尖らせ不満そうな表情をしながらも、大人しく話を聞く態度に改め、無事に認可証も受け取ることが出来た。


 ミイナ先輩が退室した後も総務委員の仕事を片付けようと残って居ると、久我山さんからは「峰岸さんは相変わらずね。 でも進藤くんが付いてるならもう大丈夫かな?」と言われた。

 その言い方に引っ掛かったので、「ミイナ先輩って過去に何か問題でも起こしたんですか?」と訊ねると、「本人の態度が原因で去年色々あったみたいだよ。でも私も詳しくは知らないし、本人に聞いた方が早いかな」と教えてくれた。

 会計役の先輩からも「あの子って、男子には人気あるけど女子には嫌われるタイプだからね」と教えてくれた。


 それで何となく察することが出来た。


 ミイナ先輩は、普段は猫被ってあざとく振舞うことが多い。 僕の前では毒舌吐きまくって素の姿を見せてるけど、そういう姿は他人の前では見せない。

 要は、男子には可愛く甘える様な態度を取ってて、女子からはそういう姿があざとく見えて敵意を向けられたりしてたのだろう。


 初対面の日に僕に対して、『私が仲良くしてても誰にも文句言われないよね』と言ったことがあった。

 その他にも、僕が2年の教室へミイナ先輩を訪ねに行くことを、嫌がる素振りを何度もしていた。


 つまり、ミイナ先輩はその容姿と普段の態度が原因で1年の頃から(特に女子の間で)浮いてしまってて、2年になった今もその状況が続いているのだろう。

 だから、男子である僕と仲良くすることでの他人の目を気にしたり、2年の教室に僕がやってきて、そんな状況を知られることを嫌がっていたのだろう。


 でも、それを知ったところで、1年である僕にはどうすることも出来ない。

 部活関係のトラブルなら総務委員会の立場を利用して、問題へ介入することが可能だろうけど、それだってミイナ先輩は望まない可能性もあるし、結局は僕がミイナ先輩の為に何か行動することはただのお節介でしかなく、そして男の僕では引っ掻き回して問題を更に酷くして、解決なんて出来ないとも思えた。


 だから、あくまで先輩後輩として、そして友達として他人の目を気にせずにミイナ先輩との交友を続けることが、僕の役目だと思う。




 ◇




 正式な部として邦画研究部が認可されると、部室の準備も本格的に始めた。


 遮光カーテンの製作は、ミイナ先輩と二人で手芸部に相談に行くと、材料はコチラで準備することを条件に請け負ってくれることになったので、お礼と一緒に用意した材料も渡して、改めてお礼とお願いをした。

 そして手芸部は翌週には依頼していた遮光カーテンを完成させてくれて、何度もお礼を言って受け取った。


 部室の窓枠にもマジックテープを貼り付けて実際に完成した遮光カーテンを設置すると、光の漏れは気にならない程度で、僕もミイナ先輩も満足した。


 スクリーンの方は、手芸店で白い布を購入して、それを画鋲で壁に貼った。


 プロジェクターは、PC用のコンパクトで比較的安価な物を家電ショップで探して購入した。


 部室の表に掲示する部活名のカンバンは、ミイナ先輩がデコデコにデコレートした物を作り、既に掲示してある。


 これらの部室の準備に掛かった費用は年末に決済して総務委員会に報告出来る様に、全て僕の方でノートに記録してレシートなどもそのノートに貼り付けておいた。




 こうして本格的に邦画研究部が始動した。


 僕は総務委員会の仕事もあるので、放課後は部活のある火曜日と木曜日に部室へ行くことに決めていた。ただ、ミイナ先輩は、なんだかんだと毎日部室に居る様だ。


 因みに、お昼ご飯も毎日では無いけど、僕もミイナ先輩から誘われると部室で食べる事が多くなった。



 けれども、正直に言うと、部活立ち上げの準備に色々動き回ったり、二人で相談したりする時間は凄く楽しかったけど、いざ準備が整い通常の部活動がスタートすると、DVDで映画見て二人で雑談してるだけなので、物足りなさを感じていた。




 ◇




 クラスの方では、GWの間に佐倉さんが部活に遊びに来たり、毎日の様にメールのやり取りを続けていたお陰で、教室でもなんとか会話は出来る様になっていた。


 特に、佐倉さんはアニメや漫画などが好きらしくて、本人も自分のことをオタクだと言ってて、アニメや漫画の話題になると、楽しそうに話してくれた。


 因みに、そういう話題のお喋りの時は清楚で綺麗な見た目とのギャップを感じるけど、本人は普段オタクであることは意識して隠してる訳では無く、共通の話題でお喋り出来る人が周りにいないから、自分からはオタク趣味の話題を出していないそうだ。


 そう言いつつも、僕に対しては好きなアニメや好きな声優さんの話になると滅茶苦茶饒舌で、毎回その度に圧倒されるけど、情緒不安定になられて泣き出したりするよりは全然マシなので、そういう時は好き放題喋って貰う様にしていた。



 そんな風に佐倉さんと交流が持てるようになると、あることが気になりだした。


 教室での休憩時間に、頻繁に佐倉さんを訪ねて来るイケメン男子の存在。


 教室の入り口や廊下で二人で仲良さそうに話している姿を度々見かける様になってて、なんとなく気になり瀬田さんに「あのイケメン男子って誰なんだろ」と聞いてみた。



「5組の山路やまじくんだね。 佐倉さんと同じ中学らしいから中学からの友達なんだろうね。4月の頃からしょっちゅう佐倉さんに会いに来てはお喋りしてたよ」


 GW前は佐倉さんと僕は全く交流無かったし、なるべく近寄らない様にしてたので、そのイケメン男子の存在は知らなかった。


「へー、東中(緑浜東中学)なんだ。 小学校の頃、あんな子居なかったし中学からの友達なのかな」


「どうなんだろうね。 でも、付き合ってはいないらしいよ」


「あーそういえば佐倉さんは告白されても全部断ってるらしいね。別のクラスの友達が教えてくれた」


「すっごいモテるのにね。なんか勿体ないよね」


 瀬田さんはそう言うと、ニヤニヤと嫌らしい笑みを僕に向けた。


「本人は恋愛に興味ないんじゃないの?」とトボけると、「二人の場合は、焦らずのんびりペースが良いんだろうけどね」と一人で意味あり気に納得していた。


『二人の場合って、その二人はダレとダレだよ!』とツッコミたかったけど、それは地雷だと思えたので、何も言わずにスルーした。





 その後も山路なにがしというイケメン男子は頻繁に3組の教室にやって来ては、佐倉さんを捕まえて話しかけていた。


 佐倉さんも友達だからなのか楽しそうに話し相手をしている時もあったけど、次第に山路某と会話しながらも僕の方をチラチラ気にしては、困った表情をしていることが頻繁にあることに気が付いた。


 佐倉さんの山路某に対するそういう態度に気づくと、もしかしたら佐倉さんは山路某のことが迷惑なのかな?僕に助けてを求めているのかな?と心配になって、直接本人に聞いてみた。


 佐倉さんが言うには、「中学からの友達だし仲良くしてくれてるのは嬉しいけど、あまりにも頻繁に来るから困ってる」との事だった。

 しかも、前に少し話してた、他の部活に誘われているというのも、この山路某からの勧誘だった。


 どうやらこの山路某は、この学校ではレベル違いで美形の佐倉さんを4月の頃から「一緒に演劇部に入ろう」としつこく誘っていたらしく、GW明けて直ぐに山路本人が演劇部に入部すると、更に勧誘がしつこくなり、スマホのチャットでもしつこくて、それが原因で今はメッセージに既読が付かない様にチャットアプリはほとんど開かないそうだ。

 僕とのやり取りにメールを指定しているのも、どうやらそれらが関係してたらしい。


 ここまで聞いて、念のために演劇部への入部の意思があるのか確認すると、「演劇を見る方なら興味あるけど、舞台の上(人前)で演技するなんてとてもじゃないけど無理です。頼まれても絶対にやりたくない」とのこと。


 因みに、ここまでの話を最初は「アラタくんに迷惑かかるから」と言ってなかなか話してくれ無かったけど、僕が「自分で解決できるの?」と一言訊ねると、佐倉さんは観念して正直に話してくれた。






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