#19 深夜の長文メール



 クラスの親睦会から帰って家で勉強をしていると、次々とメッセージが送られてきた。


 ミイナ先輩からは、『パパがソファー運ぶのOKしてくれたから、明日8時校舎裏の駐車場集合でヨロ』とチャットでメッセージが来ていたので、『了解』のスタンプで返信しておいた。


 瀬田さんからは、『佐倉さんと無事に仲直り出来たみたいで良かったね。』とチャットでメッセージが来ていたので、『イエス!』のスタンプで返信したら、『今日、進藤くんが来る前に佐倉さんが「進藤くんと仲直りしたいから」って言ってて、それでみんなで応援することにしたんだよ。』と更にメッセージが来たので、『グッド!』のスタンプで返信したら、『いい夢見ろよ!』『おやすみZzz』とスタンプで返って来た。


 須賀さんからは、『ナナちゃん、めっちゃ可愛かったでしょ?私がメイクとコーディネートしてあげたんだよ。』とチャットでメッセージが来てたので、『グッド!』のスタンプで返信したら、『ナンパから助けたんだってね?「もう神!尊みが深すぎて涙が止まらないよぉ~」って滅茶苦茶感激してたよ。』と更にメッセージが来たので、『日本語の使い方、可笑しくない?意味がよく分かんないんだけど』と返信すると、『ググれ!』ってスタンプが返って来て、ググってみたけど良く分からなかった。

 何故、ナンパを追い払ったら尊いんだろ。



 勉強をしながら3人を相手に適当にメッセージのやり取りをしていて、ふと、『僕も佐倉さんに何か送った方が良いのだろうか?』と思い浮かんだけど、なんて送ろうか?と考え始めると、青のりのことしか思い浮かばなくて、結局送るのは見送った。



 その後、3時間程勉強をしてから布団で横になって寝る体勢で文庫本を読んでて、「そろそろ寝ようかな」と思い始めた頃に佐倉さんからメールが届いた。

 着信時間を見ると、00:15だった。


 また変な時間に着たな。

 須賀さんに今日の親睦会のことを色々報告してたみたいだし、それでこんな時間になったのかな?

 などと予想しながらメールを開いたら、文字がビッシリの長文で、「え!?何が書いてあるの???」と一瞬読むのが怖くなった。


 それでも、今日の佐倉さんの様子から、メールに対する並々ならぬ拘りを感じていたので、ちゃんと読むことにした。



 ===


メールタイトル:こんばんわ

本文:

 こんな時間にごめんなさい。

 もう寝てるのかな?私は興奮してて寝付けません。今日は、アラタくんとお話出来たことも、アラタくんにタコ焼きを食べさせて貰ったことも、アラタくんが怖い男の人達から守ってくれたことも、アラタくんに謝ることが出来たことも、アラタくんと連絡先を交換出来たことも、アラタくんの素敵な歌声を聴けたのも、凄く凄く素敵な出来事で、高校に入学してから一番幸せな一日でした。

 ううん。中学校の頃と合わせても一番幸せな時間でした。だから興奮してて今日は寝れそうにありません。


 アラタくんが居なかった小学校と中学校はとても寂しかったです。毎日、アラタくんに会いたいと思いながら過ごしてました。

 それと、アラタくんに沢山ありがとうって言いたかったです。

 小学5年でアラタくんが転校してから、ずっと後悔ばかりしてました。

 ちゃんとお礼が言えなかったこと、もう会えないことが、悲しくて辛かったです。

 憶えていますか?授業中に私がお漏らししちゃった時にアラタくんが助けてくれたこと。本当はそのことで「助けてくれて、ありがとう」って言いたかったんです。でも恥ずかしくて言えませんでした。アラタくんが転校して居なくなることが決まってたから、何度も何度も言おうとしたけど、結局最後まで恥ずかしくて言えませんでした。

 それと、あの時に貸してくれたタオルも、綺麗に洗濯してずっと大切に保管しています。今度、お返ししますね。


 私は自分の気持ちを話すのが得意ではありません。

 でも、文字でならちゃんと話せると思います。


 アラタくん、小学校の時に、私のことを助けてくれてありがとう。


 お漏らししちゃった私のことをクラスのみんなには言わずに、私がみんなから揶揄われないように守ってくれたこともルミちゃんから教えて貰いました。(ルミちゃんは須賀ルミちゃんのことです。覚えていますか?同じ緑浜高校なんだよ?もしかしたら既に顔を会わせてるかな?)

 あの頃の私は、地味で根暗で目立たなくて、でもアラタくんはそんな私でもいつも助けてくれてました。

 お漏らしのことだけじゃなくて、他にも沢山助けてくれてました。

 だから、ずっと、ありがとうって伝えたかったんです。

 今更言われても困るかもしれませんが、それでもちゃんと言いたかったんです。

 あの頃からアラタくんは私にとって、ずっと憧れでした。

 ずっとずっと憧れてて、いつかきっとまた会いたいと思って、これまで過ごしてきました。だから、高校で同じクラスになって再会出来て、本当に嬉しかったです。


 それと、入学式の日に突然泣いてしまってごめんなさい。

 言い訳になってしまいますが、アラタくんと再会できたことにビックリし過ぎて、それと感激し過ぎて、自分でもどうしたら良いのか分からなくなってしまい、涙が止まらなくなってしまいました。

 困らせるつもりは無かったんです。でも、またアラタくんを困らせてしまいました。クラスのみんなにも心配かけてしまい、そんな自分が凄く情けなくて、なんとかしないとって気が焦るばかりで、でも結局空回りしてました。

 ルミちゃんにも何度も相談してたけど、ルミちゃんから「自分からちゃんと話しなよ」っていつも怒られてばかりで、だから今日の親睦会(もう昨日になってしまいました;;)では絶対に自分から話して仲直りしたいと思ってました。


 これからは少しづつでも良いので、仲良くしてくれたら嬉しいです。

 アラタくんが転校して居なくなってからの間、話したかったことが沢山ありました。

 今でも本当はもっと色々話したいことがあります。

 小学校の頃のこととか、部活のこととか、勉強のこととか、他にも沢山アラタくんに聞きたいこととかあるけど・・・

 あまり長くなると、迷惑ですよね?

 また困らせちゃうかな・・・

 本当にたまにでも良いので、お喋りしたりメールのやり取りが出来たら嬉しいです。

 またメールしますね。

 おやすみなさい。



 ===




 読んでて恥ずかしくなってしまうような内容だけど、素直に嬉しい。

 そして、僕が入学式の日からしばらくは佐倉さんのことを思い出せなかったことを知らないみたいで、少し安心した。


 でも、正直言って、困った。

 このボリュームのメールに対して、どう返事すればいいのだろうか。

 チャットアプリだと返事に困ったときは、スタンプの返信で簡単に済ませられるけど、メールだとスタンプで返信出来ないから、僕も何か書く必要がある訳で、でもこのメールの内容に対して、なんて返事すれば良いの?

 しかも、これだけ長文だと、返事もそれなりの長い文章で返事しないと、手抜きとか適当だとか思われちゃうよね?

 下手な内容で返事出来ないし文字数も稼ぐ必要があるとなると、どんな返事すればいいのか分からなくて、本気で困った。



 そして、眠い。

 今から返信内容考えて返事してたら、何時になってしまうのだろう。


 これはもう、メール着てたことに気が付かずに寝てて、起きてから気付いて読んだっていうていで返事をするようにした方が良いよね。

 その方のがゆっくり内容考えて返事書けるし。


 という訳で、返事をせずに寝た。





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