第3話 なぜか動物に好かれる

「ロキ! こっちにおいで!」

「きゃうん!」


 村の近くにある、静かな森。

 ちょうどお昼時、きらきらした木漏れ日が差し込む。

 ロキがしっぽを振りながら、俺に向かって走ってきた。

 ロキはフェンリルという魔獣だ。魔獣とは魔力が使える獣。俺の家では番犬として飼われていた。

 俺は今年で十歳になった。この世界のことも、いろいろわかってきた。

 まず、俺のフルネームは、タクト・ロードハイム。テール村の鍛冶師ハンス・ロードハイムと、その妻エリシア・ロードハイムの息子だ。


「お兄ちゃん! お昼ごはん持ってきたよ!」


 三歳下の俺の妹、アイリス・ロードハイムだ。

 母親譲りのきれいな亜麻色の髪をおさげにして、元気いっぱいの高い声。スカートをはためかせながら走ってくる。


 今日はロキとアイリスと俺の三人で、森にピクニックに来た。

 この森——ガルダの森は、俺たちの住むテール村の近くにある。

 魔獣も人もいない森で、村の子どもたちの遊び場になっていた。


 俺たちは芝生の上に、布を広げた。 

 座って、アイリスの持ってきた弁当を開ける。


「お、今日は魚のパンか」

「うん! あたしが作ったんだよ!」


 森の川で取れた魚をパンで挟んだ食べ物だ。

 前世の食べ物で言うなら、アンチョビをサンドイッチにしたような感じだ。


「くううん!」


 ロキが魚のパンを持った俺に近づいてくる。

 甘えた鳴き声を出す。


「おお。やっぱりロキはもふもふして気持ちいいな」

 

 ロキは俺にじゃれついてきた。

 ロキの柔らかい毛はもふもふして、ずっと触っていたくなる。


「お兄ちゃんとロキって、すっごく仲いいよね。いっつも一緒にいるし」

「そうかな?」

「そうだよ! お兄ちゃんばっかりずるい!」


 エリシアは頬をぷくっと膨らませた。


「お兄ちゃんってさ、なーんか、生き物に囲まれているんだよね。ロキだけじゃなくて、いっつも鳥さんも猫さんもお兄ちゃんの近くにいるし」


 たしかに俺は、なぜだかわからないが、昔から動物に好かれる。

 普通、人間を見れば逃げる小鳥も、俺の腕に自然に乗って来る。

 今も俺の周りには、森に住む鳥たちがたくさん集まってきた。


「きゃんきゃん!」


 突然、俺の膝の上にいたロキが立ち上がった。

 森の奥をじっと見つめている。


「きゃうん!」


 ロキは急に走り出した。


「あ、待って!」


 俺はロキの跡を追いかける。


「ぐるるるる……!」


 たどり着いた先には、熊が木の下で倒れていた。

 右足から血が流れている。

 熊の近くに矢が落ちている。猟師に弓で狙われたようだ。

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