第25話

「そうだ、エンジェルの出走前に見て欲しいものがあるんだよね」


 そう言うと愛子は少し離れた馬房に俺たちを連れ出した。


「ミーティアか。ってことはこいつのステータスが?」


「うん。今後の出走レースも相談したかったし、ちょうど良かったよ」


 そうして愛子が見せてくれたミーティアのステータスを見て、俺は目を見開いた。




馬 名:ミヤビミーティア

馬場適性:芝◎・ダート×

距離適性:2000~2400

スピード:S

パワー:S

根 性:S

精神力:C

健 康:A



「スピード、パワー、根性がオールS!?」


「今回はカーマインスワンプの良いところをしっかり受け継いだみたいだね。その分性格は問題がありそうだけど」


「精神力C、か……。今回は精神力以外にボーナスが入ったって感じなのかもな」


 エンジェルとグレイスは種牡馬のステータスよりも良くなっていたので、ミーティアも全般的にステータスボーナスが入ると考えていたんだが違うらしい。スキルの効果にも波があるんだろうか……。


「ねえねえ、さっきから純ちゃんが言ってるボーナスって何?」


 俺と愛子が話し合っていると、イオが首をかしげてそう尋ねてきた。


「あれ? 愛子、スキルの話は言ってないのか?」


「当たり前でしょ。一応三人だけの秘密だったんだから……」


「えー? 三人だけの秘密ってずるい! ウチも仲間に混ぜてよ!」


 愛子の話を聞いてイオはぷくっと頬を膨らませていた。

 今更イオを仲間外れにする気はないが……スキルが特殊すぎるからなあ。


「条件がある。今後の騎乗依頼は何よりも俺の生産馬を優先してもらう」


「それに加えて雅君のスキルのことは絶対に他人に話さないってのも追加だね。それでもいいならイオにも秘密を話してあげる。どう?」


「うん、いいよ?」


 イオは二つ返事で了承した。お前、もう少し考えることを覚えたほうが良いぞ? 


 そうして、俺は『繁殖強化』について説明した。

 イオはかなり驚いていたが、結果的に雅ファームの生産馬の主戦騎手に内定したということに喜んでいた。


「じゃあ、これからはみんなで雅ファームを発展させていこー!」


「おう。ところでミーティアはいつの新馬戦に出走させるんだ?」


「12時半のレースかな。でも、精神力Cだと勝ちあがるのに苦労すると思うから過度な期待は禁物だよ?」


 精神力ってそんなに重要なステータスなのか……。

 

「お前、良い子に走れよ?」


 そう言ってミーティアの頭を撫でようとした時、事件は起こる。俺の右手にミーティアが嚙みついて馬房側に引っ張ったのだ。


「痛い! 痛くないはずだけど痛い気がする!」


「ゲームなんだからそんなわけないでしょ……まったく」


 愛子は呆れたようにそう言うと、ミーティアを軽くいなした。ミーティアはすぐに俺の手から口を離し、何事もなかったかのように馬房に置いてあった牧草を食べ始めた。


「くそ……こいつ、なんだか憎たらしくなってきた」


「動物相手にムキになってどうするの。でも性格に問題があるのはこれで分かったでしょ? 新馬戦、麗華とイオどっちが乗る?」


「ウチが乗ってもいいけど、意外とこういう馬に乗るのが一番練習になるんだよね。ってことで麗華、ミーティアの主戦頑張って」


 イオは半ば押し付けるようにそう言った。

 ただ、トップジョッキーのイオにそう言われてしまえば麗華は嫌がることもできないようだった。


「じゃあミーティアの予定はそんなところだね。さて、まだ早いけど競馬場に行こうか」


「そうだな。麗華、頑張れよ」


 そうして、俺は愛子とイオと共に競馬場へと向かうことにした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る