第22話

 DHOにログインすると、メッセージツールに愛子からの連絡が入っていた。

 大紅葉杯に間に合いそうなら、ニハラチェーダ競馬場の4階スタンドに来て欲しい、とのことだ。


 出走時刻を確認すると、後5分ほどで出走してしまうことが分かった。

 俺は慌ててニハラチェーダ競馬場に移動する。


「4階スタンドって言っても場所が分からねえぞ……」


 競馬場内は多くの人で溢れかえっていた。座席の場所が分からなかったので、俺は愛子に連絡することにした。


『あ、雅くん、間に合ったみたいだね』


「4階スタンドのどこの席を取ればいいんだ?」


『Dの7番が空いていると思うからそこを取って。麗華ももう競馬場について座席は取ったみたいだよ』


「わかった、すぐ向かう」


 そうして俺は指定された座席を確保し、急いで4階スタンドに向かった。


 出走までは3分を切っている。急いで移動すると、ゴール前からはかなり離れた4階スタンドの最前列で麗華と愛子が俺に手を振っているのが見えた。


「間に合った……」


「お疲れー雅くん。ごめんね、空いている席がこの辺しかなかったんだ」


「そりゃ仕方ないだろ。ギリギリになった俺たちが悪いんだし」


 むしろ、俺たちに合わせてくれた愛子には感謝しかない。本当ならばもっと良い席で観戦できたかもしれないのにな。


「そうだ、出走の前にこれまでのレース結果を教えるね」


「それで……三冠ボーナスは?」


 俺が生唾をゴクリと飲んで結果を聞こうとすると、愛子は困ったような表情を見せた。


「ハハハ……残念だけど、ペニークレスカップはバルベアボンドに獲られちゃったんだよね。セニルニシルトダービーはエンジェルが勝ったから、三冠レースは1勝1敗だよ!」


「そこまで都合よくは行かなかったか……」


 もしかしたらこれで三冠制覇かも、などと考えていたのだが、現実はそこまで甘くないらしい。


 9月分のサピロスカップも勝ってくれたことから、俺の所持金はすでに4万Gを超えていた。正直、ウハウハである。


『さあ、長距離三冠対象の最後のレース、GⅠ大紅葉杯は間もなく出走です! ここまで長瀬さんには三冠レース全てをご覧いただきましたが、いよいよ大詰めといったところ。そのあたり、いかがでしょうか?』


『どのレースも各ジョッキーの駆け引きが観られてとても面白かったですね。競馬のゲームがここまで進化したのか、と今でも驚いています』


「あれ、あの元ジョッキーの人まだいたのか?」


「まだって……雅君、一応あの人大スターだからね?」


 まだいた、っていうのは悪い意味で言ったわけではなかったのだが、長瀬ジョッキーのファンだという麗華に白い目を向けられてしまった。


『ぜところで長瀬さん、この大紅葉杯はどの馬が勝つのか予想はされていますか?』


『どうでしょうね。今までデータのない3200メートルでの戦いになりますから。ただ、最後の勝負になるのはやはり1勝1敗と良い勝負を繰り広げてきたバルベアボンドとミヤビエンジェルでしょうか。』


『多くのDHOプレイヤーもこの2頭の勝利を予想しているようです。現在一番人気はバルベアボンドですが、ミヤビエンジェルとの差はほとんどありません……さあ、いよいよファンファーレです!』


 実況の女性アナウンサーのその一言と共に、競馬場内にはファンファーレが流れる。

 今まで見たことも無いほど混みあうスタンドからは、地響きのような歓声が沸き起こった。


「いよいよだな……」


「3200メートルのレースだから、決着までは結構かかるよ。リラックスして感染しないと心臓が持たないよ?」


 愛子はそう言ってクスクスと笑っていた。

 まあ、三冠も掛かっていないしなにより一番緊張しているのはエンジェルに乗っているイオだろう。愛子の言う通り、もう少しリラックスしないとな。


『さあ、各馬続々とゲートインを完了していきます。18番スコルヤエシマがゲートに入りまして態勢が整いました! 勝利するのはバルベアボンドか、ミヤビエンジェルか、はたまた伏兵が2頭を蹴散らすのか!? GⅠ大紅葉杯……スタートしました!』


 ゲートが開くと同時に、観客スタンドは大歓声に包まれた。

 


 



 

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