第6話

「いやあ惜しかったね麗華」


 レースを終えた麗華と合流し、愛子は労いの言葉を掛けた。すでに麗華はレースの時に着ていた勝負服から赤いドレスに着替えている。


「2番人気だから、人気通りではあるんだけどね……。馬主さんにも調教師さんにも申し訳ないなあ」


「良い内容だったから次頑張ればいいんだよー」


「そうだぞ麗華。俺も見ていてめちゃめちゃ力が入ったぞ。早く麗華にうちの馬も乗って欲しいよ」


 俺もワールドカップや野球の試合などを見に行ったことはあるが、あんなに楽しいと思えたのは初めてだった。


「へえ、雅君でもそういう気持ちあるのね……うん! 切り替えて次に活かすよ!」


 よし、と気合を入れなおすように麗華はそう言った。


  



  ◇◇◇



「生まれたあ!」


 時刻は午前11時過ぎ。待ちに待った2度目の生産を控え、俺は麗華と愛子と共に雅ファームに戻っていたのだが、ようやく仔馬の誕生を迎えることが出来たのだった。

 生まれたのはミヤビエンジェルと同じく牝馬だった。


「顔の周りが若干白っぽい毛だな」


「お父さん譲りの芦毛だね。産毛が抜けていくと段々白っぽい色に変わっていくのがゲームでも再現されてるんだよ」


「へえ……不思議な毛色だな……」


 あまり馬について詳しくない俺に、愛子はそう解説してくれた。どんどん色が変わるなんて人間の白髪みたいだな、なんて考えてしまう。


「ところで名前はどうするの?」


「そうか、名前だな……。アイスグレイ産駒だから……グレイ、ミヤビグレイ……ミヤビグレイスにしようかな」


「雅君の牧場は冠名がミヤビなんだね。分かりやすくて良い名前だと思うよ」


 愛子はそう言って生まれたての仔馬を観察している。

 誰かさんみたいに安直なネーミングセンスとは言わなかったな。


「そういえば、1歳馬は?」


「ああ、今日の朝来たら奥の馬房に移動になってたんだ」


 そうして、俺は愛子を案内する。

 

「この子がミヤビエンジェルか……。ちょっとスキル使ってみてもいい?」


「スキル……? どんなスキルだ?」


「競走馬の潜在能力を見る能力で、1歳以上の馬に使えるんだ。調教師として通算5000勝すると必ずもらえるからトップランカーはみんな使ってるよ」


 5000勝って……途方もない数字に感じられるのは俺だけか?


「普通、仔馬の内に能力って判断できないんだ。馬券ポイントで交換できるアイテムの中にはそういう効果の消耗アイテムもあるんだけどね」


 その後、断る理由もないのでスキルを使ってもらう。

 すると、スキルを使った愛子は目を大きく見開き、驚きの声を上げた。


「これ、ジョナサン産駒だよね……?」


「そうだけど、何かあったか?」


「そのジョナサンよりも圧倒的にステータスが優れてるんだよ。ほら、見てごらん」


 愛子はそうして馬房のボードを操作する。スキルの効果で、本来『?』表示になるはずのステータスはすべて見えるようになっていた。


馬名:ミヤビエンジェル

馬場適性:芝◎・ダート◎

距離適性:2400~3200

スピード:A+

パワー:A

根 性:A+

精神力:A+

健 康:S


 ミヤビエンジェルは馬場適性や距離適性は変わらないものの、スピードなどに関してはかなり優れていることが分かった。


「ミヤビエンジェル、結構活躍できそうか?」


「G1戦線の主力になると思うよ。健康もSランクだから、20回以上出走できると思うし、間違いなく雅ファームの稼ぎ頭になるよ」


「よっしゃあ!」


 一流の調教師である愛子からも太鼓判を押され、俺は天に舞い上がるような気持だった。


「あと6時間で入厩できるようになるけど、私の厩舎に予約してくれる?」


「もちろん。予約ってどうやるんだ?」


 俺はそこから予約機能について教えてもらった。リアルが忙しい人や時間の都合が合わない人に向けられた機能らしい。

 入厩の予約をして調教師が了承すれば、自動的に入厩してくれるそうだ。他にもレースの予約が出来るらしいし、オーナーブリーダーとして活躍していけば、種付けの予約もできるようになるようだ。


「よし、これでオッケーだね」


「そういえば雅君。種付けは忘れないようにしなさいよ? 今やっておけば、バイト終わりにもう1頭産まれるよ」


「あ、そうだった」


 麗華にそう言われて、俺は再びタスクミーティアの馬房に向かった。

 種牡馬選びも慣れてきた。赤字で表示される種牡馬から選べば良いだけだからな。


「あ、もうこの子これが最後の繁殖みたいだよ」


 種牡馬を選んでいると、横にいた麗華が急にそんなことを言い始めた。回数制限があるのか?


「え? そんなのどこで分かるの?」


「ほら、ここに残り繁殖回数が書いてるでしょ? 現役を引退したての牝馬なら10回くらいできるって聞いたことがあるけど、チュートリアル用の牝馬だから回数が少なかったのかもね」


「そうか……なんだか寂しくなるな」


「まあ、たくさん稼いだら新しい繁殖牝馬を導入しようよ。別れもあれば出会いもあるっていうじゃない?」


 麗華は意外と前向きだった。俺としては初めて出会った繁殖牝馬だから思い入れもあるのだが、まあ麗華の言う通り新たな出会いを楽しみにしておくか。


「最後だからちょっと奮発しようかな……1500Gくらいの種牡馬で」


「それ、奮発っていうの……?」


 麗華に若干呆れられてしまったが、1500Gは換金しようとすると750円相当である。昼ごはん代がゲームのデータに消えるなると慎重にもなるだろう?


「なんか……他のプレイヤーが可哀そうになるほど簡単な種牡馬選びだね」


 俺が種牡馬を選んでいる姿を見て、愛子はそんなことを漏らしたが他のプレイヤーと交流も無いのでよくわからない。これが俺の基準だからな。


「お、こいつはどうだ?」


 俺はある種牡馬を選んで二人に見せた。


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