第5話 神社探索

 「早く入ってみましょう」


 とんでもない美少女がウズウズとしているので、早速入ってみようか。


 「では、まずは軽く一礼しましょう」


 「はい」


 天女あまめちゃんは生まれたばかりなので、こういった作法はわからないだろから、先に僕がお手本を見せよう。左足から踏み出し、鳥居をくぐった。

 

 体がすべて境内に入った瞬間、僕は周囲の変化に驚いた。

 

 まるで深い山の中にいるよな錯覚を感じた。ただただ静かで、清涼な空気が辺りを満たしている。

 

 鳥居をくぐる前まではかすかに聞こえた街中の喧騒がまるで聞こえない。自分の呼吸の音だけが聞こえる。空気も今まで感じたことがないほど澄んでいる。呼吸をするたびに体が浄化されていくような気がする。

 

 静寂と清澄。

 

 この空間を例えるならまさにそれだ。

 

 思わず身震いする。ここが本当の神域だということを肌で感じた。

 

 天女ちゃんも僕と同じ様に感じたらしく、真顔で声も出さず、ただただ、ここの空気に圧倒されていた。 

 

 一呼吸して神社全体をを見回してみる。南北に長い境内は100メートル位はあると思う。参道を中心として、中程の右には手水舎てみずや、その反対側には社務所のような建物、一番奥に社殿がある。

 

 また何より目を引くのは手水舎の近くに、注連縄が巻かれてあるめちゃくちゃ大きな木だ。高さは周りの木々と同じくらいだが、幹がものすごい太い。テレビで見た樹齢千年を超える木のようだ。その木は梢を広く伸ばし辺りに大きな影を作り、常緑樹なのか、冬なのに青々とした葉を付けている。


 「不思議なところですね。あの大きな木は何でしょう。とても神聖は感じがします」


 『あの御神木は超越神社にとってとても重要です。この神社の要と言ってもいいでしょう』


 ただの木でないのは分かる。もしかするとこの世界のものではないのかも。なぜならば青白いオーラのようなものが見えるから。


 最初はわからなかったが、よく見ると木全体が薄いオーラのようなもので覆われている。なんだか水晶さんが放つ、淡い光に似てますね。


 『御神木の下まで行ってください』


 水晶さんの指示通りに御神木の下まで向かうことにする。


 「天女ちゃん、参道の真ん中は歩いたらダメだよ。神様の通り道だからね。歩くなら右側か左側にしましょう」


 「はい、分かりました」


 僕たちは参道の左側を歩いた。


 「でもカミヒトさんは神様なんだから、真ん中を歩いていいんじゃないですか?」


 「そうだねえ……」


 そう言われてみれば、そうなんだけど、未だ自分が神になったなんて信じられない。いきなりそんな偉ぶれませんよ。


 御神木の所まで来たところで水晶さんにまた文字が浮かんだ。

 

 『これよりチュートリアルを始めます』

 

 チュートリアルあるの?ずいぶん親切ですね。

 

 『まずこちらの御神木に手を触れてください』

 

 言われたとおりに右手で御神木に触れてみる。

 

 「おっ!?」

 

 御神木から手を伝って体になにやらエネルギーのようなものが流れてくる。そのエネルギーはまるで体内を循環するように駆け巡るような感じがした。体中がこそばゆい。最初は異物感があったが、段々と体に馴染み自身とこのエネルギーが一体化していくのが感じられた。そしてしばらくすると完全に融合したようだ。

 

 『これで神術を使える準備が整いました。今、カミヒト様の体に流れてきたのが神正氣しんせいきです。神正氣は神術の源となります』

 

 御神木から流れてきたこの神秘的な力が神正氣というらしい。体にエネルギーが充満しているのを感じる。これが神としての力か……。

 

 『神術は神正氣さえ十分にあれば、どのような現象でも起こすことができます。しかし、カミヒト様の性格、思想、道徳観、道義心、または遺伝的性質等によって得手不得手があります』

 

 「その得手不得手ってやつはどうやったら分かるんですか?」

 

 『基本的には得意な現象を起こす神術は、神正氣の消費の効率がよく、苦手なものは効率が悪くなります。またカミヒト様が忌避するような現象はそもそも神術として発動しません」

 

 「要は燃費がいいか悪いかなんですね。それから人を殺したり、操ったりするような僕が嫌悪する行いはできないっていう認識でいいんですね?」

 

 『その通りです。それでは始めに結界を張ってみましょう。できるだけ具体的に結界をイメージしてみてください』

 

 ふむ、もう実践か。結界といってもピンとこないな。ゲームなんかであるバリア的なものを思い浮かべればいいかな。全方位対応型で半透明な六角形の面がいくつも合わさって半円を形作っているような、サイバーチックな形を思い浮かべた。

 

 するとブォンという音と共にイメージした通りの結界が出てきた。簡単に出てきたので驚く。もっと練習が必要だと思っていた。

 

 結界の中は暖かく、外の冷気は感じない。大きさは二人であれば余裕があるくらい。詰めれば三、四人くらいは入れそうだ。

 

 まさか自分がこのような不思議な力を使えるようになるとは。テンションが上がってきたぞ。

 

 「わあ~!かっこいいですね!」

 

 『その結界は物理的な衝撃、非物質的な力や魔法を弾くことができます』

 

 「やっぱり異世界には魔法ってあるんですか?」

 

 『あります』

 

 ほう、魔法がありますか。これにはさすがの僕でも更にテンションが上がりますよ。よし、異世界行ったらたくさん覚よう。

 

 『カミヒト様は使えません』

 

 えっ?うそ?なんで使えないの!?なんでだよ水晶さん。

 

 「わ、私は使えますか!?」 

 

 『神術はあらゆる点で魔法より優れています。魔法が使えなくても問題ありません』

 

 そういうことなら問題なし。なんか大層な力を頂いてちゃって今すぐ女神様にお礼を言いたいです。

 

 『天女様は魔法を使えます』


 「本当ですか!?やったあ!」


 天女ちゃんも異世界に行くつもりなの?君の目的は完璧な美少女になる事じゃなかったっけ?


 『こちらの世界でも異世界でも危険はたくさんあります。いざという時はすぐに結界を出せるように練習しましょう』

 

 異世界は危険なのか、嫌だなあ。魔物とか居たりするのかな。文明が地球の中世程度だったり。……日本にもいるんだろうなあ。悪霊とか怨霊とか悪い妖怪とか。

 

 『はい、こちらの世界には悪霊やそれに類する存在が居ます』

 

 ……やっぱり悪霊っているだね。 

 

 『います』

 

 さっきまで上がっていたテンションがみるみる萎んでいくのがわかる。やっぱり神様やりたくないな。

 

 「でも、稀にしかいないですよね?」

 

 『カミヒト様が思っているよりも身近に存在します』

 

 嘘でしょ。マジ勘弁してください。いや、ホントに苦手なんすよ。もう本当にどうしよう、今日はお風呂に入れないかも。


 『安心してください。この超越神社全体には悪しき物を弾く結界が張ってあります。悪霊や怨霊の類いは侵入できません。カミヒト様の結界も同様の効果があります』

 

 よし!ずっと結界張ったまま過ごそう!

 

 『神術は神正氣を源として発動します。長時間の継続的な展開は推奨しません』

 

 「……じゃあ、どうすればいいんですか?」

 

 『ここに居る限りは安全です。それでは住居に案内します』

 

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