糸目系腹黒強キャラお兄さんの開眼が嫌いな奴っておる?

フタツ

第1話

「こんなかわいらしい人達と旅が出来るなんて、凄く頼もしいよ」


 木製の壁に品のある装飾に彩られた応接室で、長身で甘いマスクの青年は笑顔で私達5人を迎えてくれた。


「私はハイディガー・アウグス・ジェイ・ドルガーと申します。君達の護衛対象となっている。よろしく頼むよ」


 爽やかに微笑む黒髪の青年は一発で私達の心を鷲掴みにした。

 

 私は初めの印象が大事だと思い、精一杯の清楚系な声色を振り絞ってその護衛対象となる青年に挨拶をした。


「民間魔導騎士ギルド”デ・カトリア”から派遣されました。朝倉・Eエリーゼ・あやめと申します。今回のリーダーを務めさせて頂いております。よろしくお願いします」


「はい、よろしく」


 深くお辞儀をしたあやめに対して、”ニッコリ”とした笑顔で応対された。

 護衛対象の男性のその顔を見て、あやめは「よかったー」と安堵する。


 次々に各所から派遣された比較的年齢層の若い傭兵達の自己紹介が行われ、最後の5人目の言葉が終わると、爽やかな青年は私達全員一人ひとりの手を熱く握りしめて激励の言葉を贈る。


「皆さん、私の護衛頼みましたよ!」


「はい!こんなにも歓迎してくれるなんて、とても嬉しいです。私、頑張ります!」


 クライアントに会う前はすごく緊張していたあやめだったが、護衛対象がこんなにも素晴らしい甘いマスクの青年である事を認識すると、恋しそうな位ときめいている自分に気が付き、それを払拭しようと頭を左右に軽く振る。


「おやおや、仲良く出来ているみたいで良かったよ。ハイディガー君」


 今回のクライアントである恰幅の良い黒いフォーマルな服装をした年季を感じさせるおじさんが部屋に入ってきた。


「いえいえ、こんなに素晴らしい護衛がいれば、安全に目的地まで行けますよ」


「そうかそうか、それは良かった。大金を払った甲斐があったよ。ハイディガー君にしか頼めんからなぁ、あの怪物の討伐は」


 大人の社交辞令が始まる。

 護衛一行は、目の前で繰り広げられる社交辞令を優雅にこなすハイディガーに、憧れを抱くものが続出した。


 いつまでも続く成人男性同士の会話に、ハイディガーの隣に立っていた長身で黒いフォーマルな装いの美しい大人の女性が社交辞令に割って入った。


「お話が盛り上がっている所申し訳ございません。ただ、これからの予定も詰まっておりますので、先にそれらを終わらさないと彼らも困惑しております」


 恰幅の良いおじさんがこちらを見やる。


「おおー!これは悪かった。そうだな、お話は夕食の時にまた沢山しようじゃないか」


「はい、楽しみにしております。オーリエ伯爵」


 会話が一段落すると、オーリエ伯爵は満足した様子で応接室から出て行った。

 それと同時にハイディガーがこちらに向き直り微笑みかけると、直ぐ隣の女性に向き直り指示を出した。


一羽かずはさん、先に私の自室に行って準備しておいて下さい。分かりましたか?」


 そう言うとハイディガーは一羽の艶やかな黒い髪を撫でようと手を伸ばす。

 

 その瞬間、一羽の体が”ビクッ”と堪える様に震えたが、何事もないような顔でその手を受け入れる。


 「は、はい、ハイディガー様。では、もう少ししましたら御自室へ皆様と一緒にいらっしゃって下さい。では」


 一羽がテキパキとした仕草で応接室から出ていく。

 青年は一羽を見送ると、私達全員が目に入る位置まで距離を取り、その笑顔で開かれない目をこちらに向ける。


「じゃあ、皆さん。私に何か質問とかありますか?何でも答えますよ」


 彼はその大きな手を後ろに組んで、楽しむ様な口調で話しかけてくる。

 5人が顔を見合わせて誰が一番に質問をするか牽制し合った。


「はいはい!ハイディガーさんって彼女さんとかいるんですか?さっきの綺麗な女性の人だったりします?主人とメイドの禁断の恋…!!!はあぁぁぅ…燃えます!」


 オレンジ色のもっさりとした髪の女性が、抜け駆けで質問を仕掛け、そして勝手に自己完結した。


「あはは、彼女とは縁が長くてね、仲の良い友人に近いかな。私に彼女も妻もいないよ、こう見えて結構わがままだからね」


「いやぁ~ん。わがままにされた~い!!!」


 暴走する芋っぽい女性をたしなめる為に、顔面に術式をぶち込み喋れなくする。”ン゛ー!”と抗議を送ってくるが、それを遮るように生傷を顔につけた幼さの残る男性がハイディガーに質問を投げかけた。


「バーナムが失礼しました。私から質問なのですが、ハイディガー様はどのような魔法をお持ちなのですか?強い魔獣を倒せるなら、道中の護衛の必要性ってあるのかなと思いまして」


「そうだね、それはもっともだ。いい質問をするねヘルツ君」


 短髪の男性がハイディガーに褒められて少し照れる。


「私の魔法はね、とても強力なんだ。どんな魔獣でも怪異でも怪獣でも存在しているものは全て倒す事が出来るんだ」


 青年は穏やかな口調で話を続ける。


「でもね、私にはその力をコントロール出来ないんだ。だから一度使うと過剰にやり過ぎちゃってね、目的地に着く前に魔力が尽きてしまうんだよ」


青年が笑顔でヘルツに目を向ける。


「だから、君たちの力が必要なんだよ。分かりましたか?」


「はい!ありがとうございます!」


 ヘルツは一礼して後ろに下がる。


「他に質問はあるかな」


 ハイディガーが私達を見渡すと、背の高いがっしりとした男性が言葉を放った。


「これまでにどれだけの相手を倒してきた?本当にお前に奴が倒せるのか?実際に行って、はい倒せませんでしたって事になったら全員死ぬぞ」


 ハイディガーがそのニッコリとした顔をより強める。


「そうですね。それに関しては信じて頂くしかありません。それに貴方達は、それを承知で大金を受け取って依頼を受けたんですよね」


 青年は”ツカツカ”と靴を鳴らしながら、私達の周りを歩き出す。


「今更そんな事言われると…、私困ってしまいます。ねぇ、ガドー君」


 ハイディガーがカドーの目の前で立ち止まり、硬直した時間が流れる。


「あ、いや、べ、別に責めている訳ではない。すまなかった」


「はいっ♪納得して頂けたなら結構です」


 ガドーが少し”シュン”とした表情で後ろに下がる。


「じゃあ質問はこれくらいでいいかな?…そこのお嬢様?貴女は何か質問はありませんか?」


 ハイディガーが、深く被ったフードから長い青色の髪をはみ出した女性に声を掛ける。

 その女性は一瞬体を”ブルブル”と震わせたと思うと尻餅をついて音を漏らした。


「あぁ、いやあぁ、あうあ、あいい、あひゃあう、ごへんなはひ…、ご、ごへぇ…」


「すみません!ちょっとユナイトさんは極度の人見知りで慣れるのに少し時間がかかるんです!」


 ハイディガーの笑顔が少しひきつる。しかし彼は優しい言葉でユナイトを包み込んだ。


「そ、そうなんだね。出発までそんなに時間は無いから頑張ろうね」


「うひゃう、はひ、ふひ、ごへぇ…、ご、ごへんなはひ、ひひゃう」


「大丈夫だよ~。みんなユナイトちゃんが大好きだよ~」


 ユナイトをどうにか宥めると、自分の足で立てるようになるまで立ち直った。


「それじゃあそろそろ私の部屋に行こうか。一羽さんが準備してくれているはずだからね」


 そう言うと、ハイディガーは扉を開けて私達5人をエスコートしてくれる。

 扉から出るとそこには赤を基調とした絨毯が廊下に真っ直ぐ広げられており、壁の装飾と相まってすごく気品を感じられるような空間となっていた。


 護衛一行はハイディガーに連れられて、階段を一度昇って向かって右奥の部屋の前まで案内された。


 「どうぞ」というハイディガーの言葉と共に開かれた扉の中に入ると、正面にあるソファーと右側にある宴会が開けれそうな大きい木製の机といくつかの本棚、そして大量の光が降り注ぐ一つだけの大きな窓があるシンプルで少し薄暗い部屋だった。


 ”バタン”と後ろで扉が静かに音を立てる。


 ハイディガーは”ツカツカ”と音を鳴らして私達の横を歩き、服を無造作に脱ぎ捨ててそれを一羽が拾う。


「それじゃあ、次は私から貴方達に質問です」


 ハイディガーは、目の前のソファーに勢いよく深く腰を掛けて右足を乗せ、その膝に大きく頬杖をついてその閉じられた左目に薄くギラついた光が差し込んだ。


「お前らぁ、使えんのか?」


 ハイディガーの突然の豹変に、全ての幻想が砕け散った。

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