48 焼却

「うん?モニターの魔法・・・ジャンヌか。」


 唐突に自分の部屋で巨大なスクリーンが映し出された。心臓に悪い映画みたいだ。


「少し遅いですね。遊び過ぎでは?」


「いいんじゃない?故郷だし、多めに見たら。」


「かしこまりました。」


 会議後、俺の側にはミネルヴァ、フレイヤ、ゾラ、レイレが囲むように身を寄せ合っていた。

 おしくらまんじゅうと言っても差し支えないのであろう。


「いいタイミングですね。」


「そうだね。ジャンヌは可愛いワンちゃんだから、アレイスター様に獲物の収穫を見てもらいたいんだよ。」


「狩に出掛けた気分のようなもんか。」


「モニター越しではありますが、王国の状態が鮮明に映されておりますね。」


 我ながら心が痛まないものだ。立派な善人でも無いし、それもそうか。

 もう引き返せないレベルまで来てんだな。後はモニターだからか。


 王国は既に多くの死体と街の至る所へ血が塗りたくられている。そんな血濡れのジャンヌがモニター越しで何か演説をしていた。


 そんな彼女の近くには元マスターの勇者が囚われており、瀕死どころか、いつ死んでもおかしくないくらいボロボロな状態である。


「公開処刑って必要なのかな。」


「必要ではあります。

 しかし、やる必要がない理由も作れます。」


 なるほどな。どっちが手っ取り早く効果的か。あくまでも俺の気持ち次第ね。

 今現在は見ていて気分が悪くない。

 だから問題ないと判断されたのだろう。


 最も効果的なのは俺自身が手を下す事だ。恐怖の象徴として君臨した方が効果がある。

 しかし、俺にそんな度胸は1ミリもありません。チキンなんで。


「この場合、見えない何かに恐怖するように作っているのかな。」


「流石の洞察力です。お見事です。

 アレイスター様自身を1人の王として、我々という存在を従えている。生かすも殺すも王次第、国すらも。」


「それだけでは無いよ。このやり方は私たちに手を出すとどうなるのか。という見せしめにもなってるよ。」


 完全に悪役の手口じゃないか。知らない間に重罪の片棒を担がされている気分だよ。


「あ、死んだ。」


 ゾラの呑気さとは打って変わり、俺はその光景に少しヒヤリとした。


「大丈夫。」


 フレイヤは更に優しく抱きしめてくる。

 暖かい。ヒヤリと冷えた俺の肝を温めてくれる。


「ありがとう。」


「私たちもおります。」


 ミネルヴァ、レイレ、ゾラが一斉に抱きしめてきた。

『思念』として繋がっていたからか、逆に俺の感情にも敏感になったのだろう。


「皆んなもありがとう。解っているとも。もう引き返せない。

 けど、後悔は無い。

 だから、この欲望と野望を持って世界を更新するしかない。」


 我ながら大きく出たもんだ。

 しかし、夢や目標は叶えられないぐらい大きい方が丁度いい。前と同じように堕落していくより、今の方が確実に輝いている。


「俺は進むよ。」


 王国の崩落をキッカケに、また一つ成長した気がする。止まっていた時計の針が再び動き出す。


 ジャンヌによる王国殲滅から数日が経った。


「神よ。只今戻りました。」


「神はやめい。」


「では、アレイスター様。」


 ガチで言ってるからな。元聖女だからか、神を信仰する癖は残っているようだ。


「遅いよ。」


「・・・・・申し訳ありません。」


 フレイヤさん。手厳しいのね。


「ええ、少々遊びが過ぎます。

 未だ軍備に不安定が残る最中、人数を割いております。アレイスター様のお手付きであるのに。」


 虐めなの?新入りイビリは止めてあげて!


「アレイスター様。これはただ責めている訳ではありません。本気を出せば、我々LR3人ほどで国を滅ぼす事ができます。

 あくまで、我々のようにアレイスター様からの施しがあればですが。」


 詰まるところ、LRという条件が付いたとしても俺の施し次第では余裕で滅ぼせると。

 けど、今回の王国は酷く弱らせたのと、LRがいないのが確認できたからこその大胆な作戦だっだのだろう。

 しかし、そんな衰弱相手に何時間をかけてんだ。とキレている訳ですか。


「だけど今回は特別に数百人ほど人員を割いた訳だ。

 流石にLRレベルとはいかないが、もうちと早めに終わらせてもいい筈だぜ。」


 まさかのレイレとゾラまでも。

 何か最初の2人より説得力あるから余計に何も言えない。普段が馬鹿なだけに。


「まあ何だ、お疲れ様、ジャンヌ。後でご褒美をあげるよ。」


「!!あ、ありがとうございます!!」


 一瞬で元気になったな。

 ま、俺だけでもいい上司でありたいし。


「甘やかし過ぎないでね。」


「フレイヤたちが手厳しいからね。」


「これは手痛いね。」


 余裕なお姉さん。大好きです。


「アレイスター様。失礼致します。」


 ヴィーザルがやってきた。ノック無しに。


「共和国で只今内戦が始まりました。

 ロキとウトガルザがそれぞれ国内で暗躍しているようです。ロキが反乱軍側、ウトガルザが正規軍側で指揮を取っております。」


 はい?


「何してんだアイツら・・・・・それに内乱とは悲しい限りだよ。」


 戦争より内乱は無益である。例えどちらが勝とうとも未来は破滅である。


「一般人を巻き込むとは。なりふり構わない状況になったということかな?

 まあ、反乱軍も一般人が多い筈だ。正規軍もお堅い集団だし。あの2人が動かしやすい展開になったということか?」


 ロキはこの事を読み切って手を出さなかった?


 共和国軍が何もできずに撤退し、無力さを民衆にアピール。

 そして、反感を持った勢力が強くなる。片や正規軍は兵や将を失い士気が低下している。


「ウトガルザが指揮を取るのは意外だな。」


「アレはただの詐欺師だよ。

 でもね、ただの詐欺師だからこそ、堅い集団をアゴで使うのは上手い。」


「元々優秀な軍師的存在でもある上、人を見定めてコントロールする術に長けている。

 ロキのような狡猾な思考とは異なったタイプだな。ただ。」


 まるでゲームをしているようだ。どっちが勝てるのか?

 戦略ゲーム、将棋、チェス、囲碁のように共和国という土台を使って戦っている。


「ここは残酷にお手並み拝見といこうかな。」


 少し振り切ったからか、こんな話を聞いても余裕が生まれた。





































 サイハテ帝国 ソヨ


「参ったわね。あの『エデン』相当強いわね。あのレベルだとLRかしら?」


「はい。シヴァもそう査定しております。」


 ソヨの部屋でアマハが警護していた。

 いつものように警護という話し相手を務めていた。


「そう。シヴァがね。ウチにも運良くLRが2人も居るけど・・・・・」


 LRを引くという事は運が良いか、異界人を殺し続けてガチャで引き当てたか。


 ソヨは運、カリスマ、頭脳、身体能力を兼ね添えている。元の世界でも優秀なお嬢様であった。


「はあ。また殺さないといけないのね。」


「・・・そうなります。お嬢の安寧のため。」


「これで何人目よ。いや、かしら。

 ほんと、人殺しにも慣れる自分に嫌気が差すわ。でも、今度は一筋縄ではいかない。評議国と連携しても相当厳しい事になる。」


「調査しただけでもあのフレイヤと王国を滅ぼした女性」


「あれはジャンヌ・ダルク。」


「!・・・お会いした事が?」


「ええ。勇者ヤスヒコ君とお話した事が何回かね。そんな事より気になるのが、どうやって彼の陣営に引き寄せたのかしら。」


「調べましょうか?」


「死ぬわよ。止めておきなさい。」


「評議国の彼らにも報告しないとね。」


 彼女は羽ペンを使い、今回の件の考察を記録する。書き終えた手紙はアマハへ。


「これ出しておいて。」


「かしこまりました。」


「次に狙われる可能性があるのはこの帝国だから、早めに手を打たないとね。」


「・・・・・・お見事です。」




























『桜花楼獄』


「うーーーん。渋い。渋いぞ。」


「獄長・・・・私も渋いぞー!」


「アタシもーーー!ガオ〜〜!」


「うるさいぞ地獄犬コンビめ。」


「ウルガもっと苦しめたい〜〜。」


「オリガは気持ち良くなりたい〜〜。」


「はあ。お前たちは本当に元姫様のなのか?

 ウルガに関しては法国の第二王姫、オリガに関してはエルフの姫様と。歪み過ぎでは?」


「知らないよ。それに他のお姫さんも楽しそうにここで貪ってるじゃん。」


「それな〜。」


「本当にそうだよ。困ったことにね。ここを相当気にいってしまったようだしね。

 ま、従業員が増えるのは良い事だ。アレイスター様へ献上する事も可能だし。」


「え!?アレイスター様へ献上されるの!!私行く行く!!」


「え〜!狡い!オリガも行く!」


 ハーデスはこの世界で初めて苦労を覚える。地獄の番人として寛いでいた時とは違う。

 今彼女にも立派な部下が付くようになった。


「ただ、アレイスター様のために動いていると思うと興奮が止まらない。凄く嬉しい。

 そして、ご褒美をいただける時は夢のようで気持ち良い。そう思えば、これくらいは些事なこと。」


 ハーデスは急にヘラヘラと笑い出すのであった。

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