28 本能

「俺は・・・・・俺の世界を創りたい・・・・それが前からの願い。」


 本能的に出た言葉だ。


「そのために私たちを全員消すってこと?」


「それは・・・いや、そうなる。」


「貴方、今までの異界人より、とびきり頭がぶっ飛んでるわ。」


「解ってる。俺だって何言ってんのか自分でも解らない。

 けど、心の底に仕舞っていたものが今更浮き出るなんて・・・・俺自身、フレイヤたちと一緒に居れて嬉しい。ただそれだけで良かった。

 でも、どこかでは満たされていなかった。この力もそう俺に小さな声で囁いていた。」


 この力が急激に伸び始めてからか、何かが常に囁くように聞こえる。

 その度に召喚をせねば。という気持ちに駆り立てられる。


 前回も召喚を打診された時、俺は確かに実行しようとした。

 だけど、たまたま踏み止まれた。

 理由は解らない。力自体が単純に制御レベルで弱かったからか。


 しかし真実を知った今、また同じように止まれるか?


「解らない・・・・・俺がしたかったこと。」


「貴方のしたい事はただの自己満足よ。

 人をどうやって創り変えてるのかは解らない。

 けど、自分の思想を押し付けるのは悪質ね。」


「・・・・・解ってる・・・・解ってるからこそ何も言えない。

 けど、どこかで気持ち良くなる自分がいた。自分の理想に近付いたと。」


 正しく、人間は思い通りになると気持ちが良くなる。


「この世界を終わらせたいの?それなら賛成よ。

 ただし、世界そのものを壊してもらわないと。2度と還らないように。

 ただ創り帰るのなら私は断固として許さない。」


「許さないならどうする?」


 フレイヤ率いるメンバーは戦闘態勢を取る。

 アマハはソヨを後ろへ隠し、守りの体勢へ。


「やめてくれ。」


「・・・・解ったよ。」


 フレイヤたちは戦闘態勢を解除する。

 不服そうではあるが、大人しくしていた。


「この世界で後悔ないように俺は進みたい。好きな事をしたい。

 けど、好きな事だけをするのって難しいな。

 ならさ、好きな事をできる世界に変えてしまえばいい。」


「血迷ったわね。」


「いや、迷ってない。ソヨさんのお陰で何がしたかったのかが、少しだけ分かった。

 おかしい事かもしれない。

 でも、俺は俺でありたい。ワガママなのは解ってる。

 これでも前の世界では努力してきたし。だからこそ、今度こそは好きな事をしたい。」


「全てを壊してでも?」


「ああ。俺は壊して再び創り直す。

 別に全世界が俺色に染まればいい。なんて事までは頭が回らない。

 けど、そうしないと好きな世の中にならないのら・・・俺は1から創り直す。

 今ハッキリと解ったのはそれだけ。」


 何だろう。少しスッキリした。

 この世界に何故送られたのか?はともかく。今、成すべき事は何か?


 それが解っただけでもヨシ。


「そう。解った。ならこの話はなかったことにしましょ。」


 ソヨは機嫌悪そうにその場を立ち去って行った。


「ヘルメ、フレイヤ。見送ってやってくれ。

 それと帝国へ着くまで何もするな。」


「かしこまりました。」


「・・後は任せて、ゆっくりと休んで。」


 フレイヤはどことなく心配してくれた。
















































 ソヨ アマハ


 2人は何事も無く、無事に魔道車へ乗り帝国に戻っていた。


「今すぐ帝国へ戻り、評議国へ密書を送る。」


「かしこまりました。」


「けど、その前に。」


「「!!」」


 2人しかいない空間に、いつの間にかフレイヤが魔道車内へと現れていた。


「いつの間に!」


 アマハは狭い中ではあるが臨戦態勢を取る。


「アマハ!」


 しかし、ソヨはフレイヤに殺気を感じないためかアマハを制止させる。


「・・・・・・」


 警戒は緩めずアマハはフレイヤを睨む。


「ありがとう。さっきの話はね。同盟自体に興味がなくてね。

 でも、目の前な国を潰す事に関しては興味がある。だからその話をしにきたんだ。」


「どうやってきたのかしら?」


「そんなのはどうでもいいだろ?

 今したいのは、その向かい側の国を潰したいのか、放置したいのか?」


「・・・・・何を」


「何もいらない。ただ黙って見ていれば良い。それだけ。

 余計な口出しや手出しをしない。それだけで向かいの国は滅ぶ。どう?」


「先ほどの王様の話を聞いた上で、はいそうです。って答えると思うの?

 それにその国を占領したら今度は私たちが危険じゃなくて?」


「そう。じゃあ、向かいの国の王に話を持っていくとしよう。」


「!!キサマっ!」


「黙ってろ。雑魚。」


 フレイヤがひと睨みすると、アマハは動けなくなる。


「なっ!?・・・なん、で!」


「私と君の戦闘力の差が本能で語られているんだよ。これ以上、踏み込めば死ぬって。」


 蛇に睨まれた蛙である。


「・・・・・・・嫌な人。」


「それはどうも。君にも大切な人は居るだろ?

 実は私もなんだ。

 そんな大切な人へのプレゼントは用意したいだろ?ま、国自体は全部バラバラに崩すから、占領なんてしないけどね。」


フレイヤは悪質な笑みを浮かべる。













































 アレイスター


「はあ・・・・・色々と疲れた。」


「お疲れ様でございます。」


 ミリス、カイネ、アテネが側に居てくれる。

 温かいお茶をミリスが用意し、俺はそれをいただいていた。


「落ち着くな。」


 ハーブティーっぽい。自家製の割には意外と凝った味がする。

 要はそれぐらい精神的に疲れた。


「それは何よりです。」


「今までやってきたことに後悔はなかったし。これからもきっと。

 また同じように繰り返すのだけは勘弁だ。」


 前世のように、酷く退屈で狭く苦しい世界はもう本当にご勘弁していただきたい。


「決断していただきありがとうございます。

 早速ではございますが。」


 へ?


 アテネから改まって、謎のお話が言い渡される。


「帝国の向かい側にある『レッドテイル』王国へ攻め込もうかと。」


「本当に早速だね。で、どれくらいでいけそうなの?」


「少数精鋭であれば、到着までを考慮して3日あれば行けるかと。

 ただ、フレイヤや我々LR勢であれば1日で辿り着けます。

 むしろ、今回の戦いはその方が良いかと。」


「けど、僕らSSRの中でその速度についていけるのはゾラとスカーレットだけ。」


「我々は論外であります・・・・・」


 カイネのテンションが萎え萎えモードに。


「お、落ち着いてくれ。カイネたちオリビエチームは防御や守りが得意だ。

 ミリスたちもそうだけど、それぞれに向き不向きがあるだろ。

 何事も適材適所だよ。俺もそうだろ?」


「それを言われると何も言い返せません。」


「き、気まずいです。」


 おっと、余計に困らせてしまった。

 こういった自虐ネタは時に効果的だからな。うん?あれ?俺の方が能力低い筈だが。


「うんん!アレイスター様。」


 あ、アテネさん。何かオーラが黒い。


「ですが、この案を実行するにはLRの存在が必要不可欠です。」


 うん?つまり、多くいれば最悪時間が掛かっても大丈夫ってこと?だからか。


「・・・・・LRが足りない・・・か。でも何で・・・・」


「ここの護衛が不在になる可能性があり、大変危険な状態になるためです。

 SSRが束になってもLRを1人足止めするのが限界です。

 LRはLRが相手をするのが適切です。」


「力不足とはいかないが、ただ手薄になってしまうと。

 それにLRが仮に攻め込んできた場合、俺が囚われやすい。うーーん。そう聞くと、最初の案が1番良い。けど。」


「時間を掛けるのも危険です。」


 どっちもリスキーなのね。


「となるのとやはり。」


 召喚しかない。


 頭数を増やして、より安全性を確保する。召喚した人たちは人件費0円みたいなもんだ。

 

 ただ、なんか召喚するように操られているようだ。俺の心や感情とは関係なく。


「ただ、いくつ集まったんだ?」


「ヘルメが帰還したため、その数を確認しております。確か・・・14個ほどあります。」


「多くね!?」


 流石に驚く。なんか展開というか用意が良いというか。

 つか、何で皆んな放置してんだ?


「アレイスター様以外それを取り扱う者が居ないからかと。

 それに売り払っても使えないので金になりません。現に公国にあったのも、行き場を失い放置されておりました。」


 カイネはかつて公国の作戦指揮官だからか。

 なら、その道具の行き先もよくわかる筈だ。


「なら転がっても仕方ないのか?」


 何となく納得した。ことにした。


「普通の方からすればハズレアイテムですが、アレイスター様にとっては最高のアイテムです。」


 マジで陰謀論唱えそう。最高とか、最善とかね。


「ほうほう。それは・・・・良いことだ。」


 おっと、しかしだ。気になる話がある。

 何にせよLRの存在って、国家レベルで危険なんだろ。


 ガチャでしか召喚しできない上、かなりの低確率らしい。

 俺も珍しいガチャを引いたが、LRは一体も出なかった。


 つまり、LRを制する者は世界を制すると言っても過言ではない?

 LRを稀にしか確認されない中、俺の存在は如何に危険でかつ、世界の的にされるのか。


 最後まで話さずとも解る。


「あまりLRの存在を外部に漏れるのもまずいな。」


 やっぱ召喚は控えた方が・・・・


「はい。ですが一国を滅ぼせば、その情報は漏れないかと。100%とはいきませんが。

 ただ、アレイスター様の存在だけでも隠し通してみせます。」


 あかん。何が何でも召喚させる気満々だ。

 そんな俺に否定する頭脳など有りはしない。

 実際、全て無かった事にすれば確証は空想上だ。

 仮に相手が妄想してくれるなら、それはそれでやりようがある。


「・・・・・・・それは1番だな。

 自分で言うのも何だが、俺が直に狙われるのはまずい。殆ど無力だし、ワンパンで鎮められる。」


 やるしかない。召喚を。

 どんどん召喚するように追い込まれている気がするが、腹を括るか。


「なるようになれ。」


 俺はLR召喚石を全て持ってくるようアテネに指示した。

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