第7話 そつない君と白髪幼馴染

 風呂から上がると、明日の教科書を鞄に詰め込み、ベットに入るとすぐに明日が来た。宣言通り風星の朝食を生姜焼きにしてやると、パパッと冷凍食品と余った生姜焼きで弁当を作り、家を出た。


 始業の十五分ほど前には教室にたどり着き、他愛ない話の後は授業を受ける。いつもと同じ日常だ。つまらない授業の合間に、ちらりと教室の二週間ほど空いたままになっている席の方を眺める。彼女は今、保健室の寝台で何を思っているのだろうか。この空席を、友人との他愛ない会話や、つまらなくとも進んでいく授業と同じ日常にしてはいけないと、改めて思った。


    昼休みになっても、考え事の沼にハマってしまいあまり食が進まない有様だった。余ったおかずを創にやると、やっぱり喜んでいたので良しとしよう。お前はまだ身長を伸ばすつもりか。


    今日は教室で食事をしていたため、弁当を片付けた時点で、休憩時間は半分以上残っていた。雑談でもして時間を潰す流れになるのだろうなと思っていた時、教室に漣程の変化が生じた。


    それは、教室の後ろ側のドアから入ってきた一人の生徒の影響だった。


「白浜さん、また遅刻してきたんだ...」


「毎週一日は昼から来るよね。何してるんだろ」


    その生徒は、肩からスクールバックをかけており、たった今登校したことを示していた。

    肩までのボブカットの髪は真白く、肌も異常に白い。その上、顔の造形はため息が出るほど美しいが、全く表情がなく人間味がない。


    制服の白いカッターシャツの上に、黒地に青のペンキ文字が書かれたパーカーを着ており、膝上程のスカートの下はタイツで覆われている。ちなみに、碧海高校は制服以外の着用は校則違反だ。白い髪も染めているので、当然校則違反。軽い茶色くらいの染髪は許されているが、金髪ですらアウトなので、白は言うまでもない。


    その、教室においてあまりにも異質な女生徒の名前は白浜美羽。俺たちと同じ一年生にして、一歳年上の高校一年生二年目だ。

    昨年度の首席合格者であるのに、全く学校に来ず留年した。理由は不明と専らの噂だ。


    そりゃ理由は分からないだろう。白浜美羽は、教室で誰とも会話をしない。一言もだ。


    一歳年上ということですら遠巻きにされる要因になるのに、その校則違反の塊のような見た目に余りの美しさと、話しかけても無視され続けるという要素が加われば、クラスに馴染めるはずもない。元々馴染む気は皆無なのだが。


    今では、たまに遅刻してくる理由は朝まで遊び歩いているからだとか、染髪や格好が許されるのは親が権力者だからだの、そんな噂が飛び交っているけれど、実際は週に一度病院に通わなければならないからだし、染髪や格好が許されているのは学校に通うためのやむ得ない措置と、俺が頑張って橘先生の駒になっているからだ。ついでに、彼女の親は普通のサラリーマン。


    なぜそんなことを知っているかと問われると、話せば長くなるが、端的に言うと白浜美羽は宇久井家のお隣さんだからである。そして両家には家族ぐるみの付き合いがあり、俺は美羽姉と呼び、向こうは俺のことを星くんと呼ぶくらいの関係だ。


    そんな時、スマホが震える。何となくそうではないかと思ったが、通知の相手は今まさに教室を騒がせていた人だ。


美羽姉『今日家行くね。うちの親が、今日は星くん家で一緒にご飯食べさせて貰えってさ。風くんと白星にも言っといて』


    今日は紀伊薫との事があるから遅くなるのだがと、ため息をつく。どうやら今日は家に帰っても一悶着ありそうだ。


『了解。二人には言っとくよ。ただちょっと、今日は俺も遅くなるからテキトーにくつろいでて』


    返信を手早く終わらせると、今日の放課後は面倒事のオンパレードだなと、早くも疲労感が滲んで重く感じる肩を軽く揉んだ。

 

 思い悩んでいたら、すぐに放課後になった。ホームルームが終わると、すぐに保健室へと向かう。

 ノックをして扉を開けると、養護教諭がゆっくりと腰を上げて「いらっしゃい」と声をかけてくれる。その足で、昨日と変わらぬまま閉まりきっているカーテンの内側に「紀伊さん、昨日のお友達が来てくれたけど、入ってもらって構わない?」と問いかける。


 養護教諭が俺に目配せをしたので、どうやら許可が下りたらしいと判断し「入るよ」と声をかけて、カーテンの内側に入り込む。


「昨日ぶり、紀伊さん」


「昨日ぶりだね、宇久井君。新宮さんは?一緒じゃないの?」


「残念ながら、別に仲良いわけじゃないから。そのうち来るんじゃない?」


「仲良いわけじゃないの?」


「昨日のやり取り見てて、仲良い要素ひとつでもあった?」


「...なかった、かもね?」


「でしょ?俺も昨日初対面だったのに、妙に刺々しくてな」


 元々人当たりが柔らかい方ではないと思うが、それにしても俺への態度は随分と穏やかではない気がする。特段何かした記憶もなければ、どちらかといえば、邪険に扱うとすれば初対面でストーカー呼ばわりされた俺の方だと思う。


「仲良くしろよな…お前ら」


 俺のぼやきを聞いて、いつの間にか、保健室内にいた日高先生が苦笑しながらそんなことを言う。


「向こう次第ですかね」


「仲良くなろうとする心がけがあるなら、まだマシだな。さて、行くぞ。宇久井も紀伊もついて来い」


「…どこにですか?」


 紀伊さんがそう尋ねると、日高先生は「あいつやっぱり伝えてなかったのか…」と頭を軽く抱えると、指先で何かをくるくると回す。


「車のキー?」


「そう、ちょっと出かけるぞ」


「は?」


「えっ?」


 呆気にとられる俺たち二人に構わず、日高先生は歩き出す。硬直が解けるまでの一拍遅れで、俺たちも急いで後ろに続くけれど、正直困惑を隠しきれない。

 歩く道中に紀伊さんと思わず目を合わせ、どうしようもないとばかりに二人とも首を振った。新宮の奴、一体何を考えてるんだか。


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美少女その二(白髪)


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