第36話 幽霊プルナの目論見は…?

「…た、頼みって言うのは…?」


 逃げようにも閉じ込められていて逃げられないし、何より手をぎゅっと握られている。幽霊だって言うのに物理的にしっかり干渉出来てますねぇ!!?

 怯える私の様子も完全に無視して、手を拘束したままプルナはニッコニコで話し始める。


「私ね、好きな人がいるの!あ、これはプルナとして…って言うより転生前の私が好きだったキャラって意味になるんだけど…!」


「好きな人…!」


 思わず反応してしまう。…でも、私だって推しがいるんだから、同じようにこのゲームで遊んでいた中身ぜんせを持つ彼女に好きなキャラがいたって不思議はなかったよね…。


「ただ今の状態のままじゃ、相手は私のことを見ることも出来ないし、声も届かないじゃない?そこで貴女の登場よ」


「わ、私…?」


「…そう、今はまだ"落ちこぼれのアルカシア"かも知れないけれど、ゆくゆくは”秘宝・クレッセントムーン"を継承し、古代魔法を操れるようになる存在なんだから」


「それを期待してるのか~~~……」


「そりゃ、今の私がいくら頑張ったとしても秘宝を継承することは出来ないもの。それが出来る人に協力して貰うしかないでしょ?」


 それは確かにそう…。


「勿論、アルカシアが転生者じゃないパターンも考えたし、ヴィオリーチェに協力して貰うことも考えたけど、彼女はあの様子だったし、そもそもゲームのシナリオで考えたら、あの子は秘宝を継承したら死んじゃうしね…」


 彼女の声のトーンが露骨に落ちて、私も自分の表情が少し暗くなったのを自覚してしまう。


「…ま、まぁ、ヴィオリーチェを死なせるつもりなんて無いし、あなたに頼まれなくても私は秘宝の継承をするために動いて居るけどね!…私の行動を見てたなら知ってるかも知れないけど…」


「まぁね」


 プルナは悪びれずに肩を竦める。


「正直なところ、アルカ、貴女の活躍はもう噂で聞いているわ。メイナードに付きまとっているなんて話もね」


「えー……………」


 ぎゃ、逆になってるぅ……。おのれメイナード……。


「あはは。勿論それが事実じゃないってのはわかってるわよ。メイナードのファンって、熱烈って言うか結構陰湿だし、厄介ファン多いもんね。…だから利用させてもらったわけだけど」


「逞しいなぁ…。と、それで私に秘宝を継承させて、プルナはどうしようって考えてるの?ゲームの中で示された秘術の内容って一部だけだったし、どっちかと言うと世界を襲う災厄を封じる方法とかそう言うスケールのやつで、あんまり恋愛成就の役に立ちそうなことではなかった気がするんだけど…?」


「おバカちゃんね!世界の存亡を左右できる力なのよ?出来ないことなんてないわ!」


 プルナが人差し指で私の鼻の頭を小突くものだから、私は思わず目を瞑ってしまう。


「そ、そうかなぁ……?」


「コホン…。まぁ、要するにクレッセントムーンの力で私の事を蘇らせて貰おうってことよ。恋の成就には肉体は必要だからね!」


「え、ええ!?死者の蘇生なんてさすがに禁忌中の禁忌で……と言うか、もうプルナの身体って埋葬されて時間も経ってるし…存在しない…よね。さすがに難しいんじゃ…」


「確かに、今この世界に存在している死者蘇生魔法は、自然の摂理を乱すものであるとされて禁止されているし、法外な金額をつぎ込んで秘密裏に行われるソレはいわゆる死霊術ネクロマンシーと呼ばれる外法だしね」


「………」


「別に何の根拠もなしに肉体が取り戻せるって言ってる訳ではないのよ。一応、ある程度ちゃんと考えた上で、期待が出来るからこうしてあなたに話してるの」


「根拠って?」


「ヴィオリーチェも図書館に通って必死に魔法や歴史の本を読み漁っていたみたいだけど、私には彼女以上に長ーい長ーい時間があったわけ。…まぁ、他にすることもなかったのも確かだけど…」


「プルナは何を見つけたの?」


「古い童話の本よ。作者も書かれた年代も全部不明。どうして、どういう経緯でこの学園の図書館に寄贈されたのかも全部謎って言う、いわくつきのモノをね、見つけちゃったの」


 確かにそう言った類の本はヴィオリーチェからしても盲点だったかも知れない。でも、そんな子供向けの本にヒントになるようなことなんて書いてあるのだろうか?


「内容は不老不死の力を得た代わりに永遠の孤独を味わうことになったいにしえの魔女の物語なんだけど、絵本にしては魔法関係の描写なんかも変にリアルでね」


「…」


「ただの子供向け絵本と言うよりは、を残そうとしたものに思えてならないのよね」


って?」


「例えば、何かの隠し場所だとか、魔法の技術だとか?」


「…見つかったの?」


「まだ」


「…とりあえず、研究中ってことね」


「そゆこと」


「まぁ、その辺は勘って部分も大きいんだけど、そう思った理由は当然あって—――…」


 プルナは得意げな様子で胸を反らしながら、さらに言葉を続ける。


「その本ね、紙の材質やインクの具合から見て、かなり昔の物だと推測できるんだけど、今歴史的に確認できている最も古い時代のものとすると、挿絵に描かれた人間の服装や髪型なんかが違っているのよね。それならもっと新しい時代なのか?とそこから新しい時代を調べてみると、今度は服装や髪型だけじゃなくて、その時代特有の言葉遣いだったり、文字の使い方だったりで噛み合わない。つまり、この本は、私たちが知っている過去の時代の、どれにも噛みあわない時代の本の可能性があるの」


「…それってつまり」


「そう、古代魔法が使われていた時代の本かもしれないってこと」


「…でも、それも早計じゃない?童話の内容次第じゃ、その時代でも都会か田舎かでも違いはあると思うし、服装や髪型が違うくらいのことあり得るんじゃない?」


「そうね。勿論その可能性もあるわ。けど、そうじゃないかも知れないでしょ?」


 プルナは妙に自信ありげな表情で、もしかしたら私に話したこと以外にも何か思い当たる部分はあるのかも知れない。


「とにかく、その本に私が蘇る手段のヒントがあるような気がして、目下研究中という訳」


「でもその”研究”では、さすがに私は役に立てそうにないけど…」


「ああ、頼みたいって言うのはそっちじゃなくってね。…貴女がクレッセントムーンを継承するまでに、私も蘇生魔法について研究を済ませておくのはまぁ前提事項ってやつ!」


 そのサラッと流した前提事項が、めちゃくちゃハードルが高いことには目を瞑りつつ、彼女の言葉の続きを待つ。


「その間にもね、私も"好きな人”にもっと近づきたいし、折角だからプルナとしてもいまいちエンジョイしきれなかった青春をもう一回チャレンジしたいなって!」


「…へ?」


「ふふっ!」


 何を言っているのか意味が分からず私は思わず素っ頓狂な声をあげ、まじまじとプルナの顔を見てしまう。

 プルナはまた怪しい顔で笑った。


「アルカ、今メイナードのことで困ってるんでしょ?」


「え、う、うん?」


 唐突に出てきたメイナードの名前に、私は頷くことしか出来なかったのだけど、プルナはそんな私の態度を気にする様子もない。


「私ね、面白い考えがあるの」


 細く白い人差し指をピンと立てて、プルナは屈託のない笑みを浮かべた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る