杉村光は一生懸命である!

第24話 校長は訴える

 先日は何をしても起きない真子さんを琉生が桜帆のサポートで目覚めさせたが、今日は逆の立場になった。とはいえバットで殴られるなんてことは無い。


 黒魔子が琉生の寝顔をスマホで撮影しまくっていて、そのシャッター音で目覚めたのである。


「ねえ。これ見て」


 スマホの待ち受け画面が自分の寝顔になっていた。

 大口開けたアホ面に我ながら呆れるが……。


「なら俺も……」


 真子さんを撮影しようと自分のスマホを手に取るが、なぜかきゃっきゃと逃げて写真を撮らせない真子さん。


「なんで逃げるの?」

 

 笑いながらそれを追いかける琉生。

 幸せな鬼ごっこにうつつを抜かし、朝っぱらからヘイトを集めるバカップルは放っておいて。


 橋呉高校専用アプリに仁内校長の朝の挨拶がアップロードされていた。

 きっと大勢の生徒が眠い目をこすりながら見ているだろう。


「やあ、みんな。早速だけど、私の話を聞いて欲しい」


 ワインレッドのスーツが嘘みたいに似合う仁内校長。

 喋ってなければ本当に格好いいのだが。


「はっきり言わせて貰うが、この学校の制服はダサい。そう思わないか?」


「ダサい」

 琉生の隣で本を読んでいた桜帆が呟き、


「確かにダサい」

 台所で洗い物をしている母も同調する。


「大正時代から続いている伝統あるデザインとか言ってるけれども、大正時代からデザイン変わらないってそんな凄いか? むしろヤベーだろ。忍者の装束適当に切ったみたいな手抜きのデザイン、生地もやけに分厚くて重いから風通し悪いし。山梨みたいに夏暑くて冬寒い地域にあった制服じゃないよな。君らも平気な顔して、よくあんな服着て歩けるよ。裸の方が恥ずかしくないよ。君らこれ着て修学旅行で京都とか行くんだろ? やっべーだろ。大仏が目をそらすレベルだ」


「そこまで言わなくても……」


 朝食のパンを口に突っ込みながら戸惑う琉生。


「というわけで私はこの学校の制服をどうにかしたいと思ってる。もう制服なんか辞めて私服でも良いと思ったが、毎日違う服を用意するのも大変だろうし、センスのあるなしで格差が出るのも本意じゃない。何より君らが着る服だ。君らで企画から考えてもいい。いっそ自分らでデザインから始めるんでもいい。ヒス、ヒステリック、ヒステリックグラマーに作って貰うのもいい。なんでもいい。意見を求めよう。アプリ経由でメールを送ってくれ」


 台所で音声だけ聞いていた母が、


「自由な人ねえ」


 と、妙に羨ましそうに言った。


「それともう一つ、クラス替え選手権についてだ。今日で二日目だが、それなりに差も付いてるだろうし、自分の少ないポイントを見て、ここにも格差が出てきやがったぜと嘆く生徒も出てくるだろう。なんにせよ格差が生まれるのは私の本意ではない。そこで私は考えた。大いに寝ながら考えた」


 仁内は意味深げに間を置く。


「今日から生徒同士のポイント譲渡を解禁する。自分のポイントを他の生徒に渡す行為が可能になるということだ。これが何を意味するか、頭の良い君たちならわかるだろう、ねえ?」


 くっくっくと悪代官みたいに笑う校長。


「しかし、ふたつ禁止事項を作っておく。暴力と金銭を使ったやり方は断じて認めない。言ってる意味がわかるかな?」


 琉生の隣で本を読んでいた桜帆が笑った。


「まるで選挙」

 

 確かにその通りだと思う。

 これはまた今日から荒れるぞ……。


「万が一、禁止事項に手を出したとわかれば、ただの遊びだから退学なんてことはしないが、罰として三日間、宇宙の話を延々聞いて貰うからそのつもりで」


「おそろしい罰だ……」


「では学校で会おう。今日のビックチャレンジをお楽しみに」


 動画が終わると、すぐさま真子さんがタブレット片手に駆けつける。


「私のポイント全部、あなたに渡す」


 その方が良いよね。と圧をかけてくるが……。


「いや、これから何があるかわかんないし、俺のポイントを一文字さんに全振りした方がいいと思うんだけど……」


「あえて言うなら私もその方が良いと思うな」


 桜帆がのんびり言った。


「相手はシルヴィでしょ。最後はきっとバトルだよ」


「ばとる……?」


「大神完二に仁内大介。最強のコンビだもん。あーだこうだで生徒を振り回して、最後は自分らと勝負しろ。そうなるに決まってる」


「ああ……」


 その映像がはっきり頭に浮かんできた。


「勝ったら一億ポイントとかふざけたこと言って、負けた奴はポイント全没収にしちゃって、最後は結局自分らでクラスを決めるのよ」


「ああ、すげえありえそう……」


 その時、黒魔子が立ち上がった。


「そんなこと許さない。あのふたりは私が絶対に倒す」


「たおす?」


 母が面食らう。そりゃそうだろう。


「私のクラスは私が決める……、私と琉生くんのクラス、後のふたりは適当……」


「ど、どしたの真子ちゃん……」


 焦る母を尻目に、桜帆は笑う。


「この反応も相手の狙い通り」

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