第18話 放課後の企画会議

 シルヴィは金持ちというのが全世界の共通認識であるが、それを物語るように、一人一人に 動画編集すらサクサクにできるくらいのハイスペックなタブレット端末が支給され、生徒たちは喜びを通り越して、なんだか怖くなっていた。

 

 そして嵐のような全体朝礼が終わったあとは、いつものごとく授業である。


 教師は現れず、授業内容はあらかじめ記録されていた映像を見る方式。

 

 モニターの奥にいる講師は見たことのない人物ではあったけど、今までの教師には悪いが明らかに質が良くなって、クラス全員が授業に集中できた。


 つつがなく授業が終わると、放課後、タブレットにあらかじめインストールされていた橋呉高校専用アプリがついに解禁される。


 アプリを起動させると、仁内校長が無理矢理開催した、クラス替え担当者選出決定戦、通称「クラス替え選手権」に関する専用ページにアクセスできるようになっていた。


 現在のポイント数、学年全体の順位、さらにポイントをゲットした理由まできっちり記録されている。


 どうやら授業態度などもポイントの対象になるようで、既に皆がそこそこのポイントを稼いでいるようだ。

 とはいえ、記載された情報はあくまで自分個人に関するものだけで、他の生徒の情報は知ることができない。

 つまり現時点で誰が学年一位かは、一位の生徒のみ知るというわけだ。


 と、こんな状況なので、放課後はポイントの見せあいでどこの教室も賑やか。


 ただし本郷琉生だけは自分の置かれた状況に戸惑っていた。


「マイナス50……!?」


 学年順位はもちろん最下位。

 おそらくダントツだろう。


「ひどすぎない……?」


 別に一位になるなんて望んじゃいないが、こういう扱いも望んではいない。

 いったいどうしてこうなったのか、履歴を確認してみると、


 良好な授業態度、5ポイント。

 

 プラス査定はこれだけ。

 あとはすべてマイナス評価。


 頻繁なよそ見 マイナス5ポイント。

 

「彼女ができた喜びはわかるが、そっちばかり気にしすぎ」

 という余計な説明まであって、なんか腹が立つ。


 だって顔が勝手に動いてしまうのだから仕方ないのだ。

 彼女を見つめていると、距離は離れているのになぜか気付いてくれて、にこりと微笑んでくれる。

 その笑顔が見たいから、また見てしまう。


 悔しいけれど、このマイナス評価は受け入れるしかない。

 

 理不尽と感じたのは以下の項目だ。


「この前の事件で協力してくれたのは助かったが、没収した銃を調査してたら銃が自爆したので、髪が焼けて美容院に行く羽目になり、余計な出費をした」


 これでマイナス50……。

 

「学校関係ないじゃん……」


 一方、みんなの黒魔子は、よそ見でマイナス10ポイントを喰らっていたが、ある項目で高得点をゲットしていた。


「この前の事件でお世話になった件、100ポイント」


 ここまではっきり書かれると笑うしかない。

 

「やっぱり、正体バレてるね」


「うん」


 これは彼女にとって嫌な状況でないかと琉生は心配したが、


「ねえ琉生くん。私、学年で一位みたい」


 おおっと思わず声を出す。


「そりゃ、初日で100だもんね」


 考えてみれば当然の話だろうが、琉生が驚いたのは真子さんの反応だ。


「せっかく一位になったから、新しいクラスを考えてみたんだけど」


「あれ、意外とやる気……?」


 唖然とする琉生に対し、黒魔子は平然と言ってのける。


「琉生くん、勝ち負けにこだわりすぎるのは良くないことだけど、勝ちに行く姿勢を貫くのも個人の成長に繋がる大事な部分だと思うの」


「朝と言ってることが全然……」


 こんなの私は認めないと言っていた気がするんだけど。


「いいから聞いて。私思うの。頂点に立った者にしか見えない景色があるはずだって。私はそれを見たい、あなたと一緒に」


「瞳が燃えている……」


 確かにもっとも頂に近いのは彼女で間違いないわけで、そんな黒魔子が望む景色とはすなわち以下の通り。


 琉生くん。

 私。

 あと適当に二人。


 以上。


「……これはちょっとあからさまというか」


「そう思われたくないだろうから、二人足したんだけど……」

 

 適当に選ばれる二人も良い迷惑だと思うが、


「私、こういうの得意じゃないから、人選は琉生くんに任せたいな」


「……俺も得意じゃないんだけど」


 得意と言える生徒がここにいるのかどうか。


「そのかわり、わたし、絶対一位を取るから」


「そ、そっか……」


 くだらない遊びだが、なんにせよ真子さんが前向きになってくれるのは良いことだと考えるべきだろう。

 少し前まで生まれない方が良かったとすら言っていたそうだから、この変化だけでパーティを開いて皆で祝ってもいいくらいだ。


「なら俺も協力するよ」

 具体的に何をすればいいかは全くわからないが、


「とりあえず。二人合わせてよそ見で15ポイント失ってるのはマズいね……」


 確かにその通りだとうつむく真子。


「でも顔が勝手にあなたを見ちゃうから……」


「実は俺も同じなんだ……」


「ふふ」

「いやあ」


 この一瞬の甘さを感じ取ったクラスメイトが殺意の眼差しを一斉にぶつけてきたことに気付き、琉生は咳払いをして、現実に戻った。


 とりあえずここを出ないと何をされるかわからんと立ち上がったとき、一人の生徒が声を上げた。


「おい、動画が更新されたぞ!」

「今日のビックチャレンジって……、なんだこれ?」


 この課題を時間内にクリアすれば大量のポイントを得ることができるという。

 特に一番乗りの生徒にはなんと、1000ポイントも加点されるとか……。


 生徒たちに用意された課題、それは……。


「あやめんを探せって……、誰だ、あやめんって」


 あやめん、つまり、風間あやめ。

 シルヴィの聖母と言われる女性であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る