第12話 シルヴィ

 山梨県にマオーバの残党が現れ、さらには機械触手を使って旅館を乗っ取ろうとした事件は、日本だけでなく世界中に不安を抱かせた。

 

 あの地獄の三ヶ月がまたやって来るのかという恐れが、少なからず経済に打撃を与えたため、シルヴィのリーダーである稲葉いなばフレンは世界中を飛びまわって広報活動をする必要に迫られた。


 その強さだけでも世界中が信頼するのに、美しい金髪と青い瞳を持つ、神と例えられるほどの美しさを持つフレンである。


「大丈夫です、安心して、僕を信じて」


 王子様が潤んだ瞳で呟けば、みな、そう信じるのだ。


 そんな神々しいフレンを映し出す特大モニター。

 それを見つめるシルヴィの超人たち。


 生まれたときから常人離れした超能力を持っていた、仁内大介。

 完璧な遺伝子配合により生まれ、すべての能力において人の限界を超えるという、杉村光。


 そして仁内と同じくシルヴィのサブリーダーを務める風間かざまあやめ。

 彼女はシルヴィ唯一の生身の人間であるが、その勇敢な精神力はシルヴィの象徴とされ、さらにシルヴィの聖母といわれるほど、温和な性格の持ち主である。


 さらに一番の怪力、大神完二おおがみかんじ

 とにかく暴れればそれで良い、仕事がないときは海外でプロレスラーをしているというエンターテイメントな男。


 他にも武器の扱いに長けた普通の人間が十名以上列席しているが、メインとなるのは上記の四名であり、はっきり言って他は駒に過ぎない。


 仁内はモニターのフレンを呆れながら見ている。


「とにかく僕を信じての繰り返しじゃ、説明じゃなくて洗脳だよ」


 これ以上見ていても仕方がないと画面を切り替えると、山梨県で起きたあの事件のデータが大量の文字と画像で表示された。


「まあ、あーだこーだ書いてあるけどね。今回の事件、我々は出向いただけでほとんど何にもしてないわけ。黒ずくめの人物と、彼女に使われた高校生の活躍で」


 と、お土産に買ってきた大量の信玄餅をテーブルの上に広げると、皆がおお、と声を上げながら土産物に群がる。

 一人二つまでにしてくださいと、光が言ってるそばから大神がでかい手で五個以上わしづかみにし、風間に睨まれ、残念そうに三つをテーブルに戻した。


「で、我らがフレンの下した結論は、なんとしてでもあの黒ずくめをシルヴィに加入させろってことなんだねえ」


「想像通りね」

 肩をすくめる風間あやめ。


「仁内くん、あなたはさっきって言ったわね。間違いないの?」


「ああ。私の勘だけどね」


「お前の勘なら当たってるにちがいねえな」


 大神は早速信玄餅を開封し、予想通りきな粉をこぼし、まわりに嫌な顔をさせる。


「その女はどこまでできる? 杉村並に動いてもらわんと困るぜ」


「それは心配ないと思います」


 他ならぬ杉村光が断言する。


「監視カメラにかろうじて残った映像だけでも、とてつもない身体能力を持っていることがわかっています。おまけに銃弾を浴びても体に穴が開きません」


「まじか」


 驚きのあまり咳き込んでしまい、さらにきな粉を撒き散らす大神。


「何かしらの薬品を飲んでるのか、持って生まれた特殊能力か、そもそも機械なのか。いろいろ考察はできますが、こればっかりは中身を見てみないと」


 そう語る杉村を見て風間あやめは複雑な顔をした。


「仲間が増えるのは嬉しいし、凄く頼りになりそうだけど、本人はどう考えてるのかな」


 その問いかけに杉村光は残念そうに首を振る。


「対象者はよほど素性を知られたくないようです。彼女が指名した本郷琉生という高校生以外に彼女の姿を見た目撃者はいません。人の目に入らないよう周到に動いたことがわかります。逮捕したマオーバの残党員も激しい電気ショックと共に、幻覚を見るような薬品を嗅がされたらしく、彼女についてそれぞれ違うことを口走っているので、人物像がまとまりません」


 さらに仁内が続く。


「彼女には本郷くんの他にも協力者がいる。そいつがまあ、かなりのやり手で、事件はそいつの狙い通りの解決の仕方を見せたと思う」


 鋭すぎる男だが、まさかその協力者が中学生だとは思ってもいない。


「本郷くんが使用していた武器は自爆機能があって調べようがなくなったし、監視カメラに映った映像もほとんどすべて改ざんされていて、百人一首の歌が画面いっぱい映るだけになる。ってなわけで、今のところ黒ずくめの彼女についてわかってることがあるとしたら、恐ろしく強いってだけなんだね」

 

「すごい徹底ぶりね!」


 素直に相手をたたえる風間。


「そこまでして素性を隠す子をスカウトしたところで受けてくれるの? 絶対拒否られると思うけど」

 

 風間がお手上げのポーズをしても、仁内は余裕を崩さない。


「受けざるを得ない状況を作り、それを彼女にわからせる」

 

 つまりだよ、と、ニヤリと笑う仁内。


「鍵を握るのは彼だ」


 モニターに本郷琉生の写真が表示される。


「不思議な子でね。ただの素人なのに勇敢で、頭の回転が速くて、おまけに。親御さんの教育がしっかりしていたんだろう」


 そして仁内は風間あやめを見て懐かしげに笑った。


ふうちゃんと初めて会ったときのことを思いだしたよ。避難しろって言ってるのに教え子が奥にいるって敵に突っ込んでいった」


「そんなこともあったっけね……」

 

 懐かしそうに上を向く風間あやめ。

 彼女は元々教師であった。


「そういうこともあって彼を個人的に調べてみたら、あっさり答えにたどりついてしまってね。どうやら最近の彼、プライベートが凄く充実しているみたいなんだ」


 仁内は不敵に笑い、杉村を見る。


「君は彼らと同年代だろう? 休暇のつもりで彼らと混ざり、いろいろ突っついてみてくれないかな?」


「……」

 

 思わぬ申し出に杉村は驚いたようだが、すぐ笑顔になる。


「お任せください」

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