第41話 稽古している頃、外では
アラタとアレンが訓練を受けている間、レイラとシアはソアラに付いていき、毎日王都を歩き回った。
午前中は、王都を散歩しながらアラタとアレンに紹介したい店をリサーチして、美味しいと噂の店を訪れては食事を堪能する。
「わあ~! ここのパンケーキ美味しい~!」
満面の笑みで声を上げるシアに、声は上げないけれど同じく満面の笑みのレイラ。
二人の姿に苦笑いを浮かべるソアラは、甘いものはあまり得意ではない。
こうして女の子が大好きな甘いスイーツが売ってる店は普段来ないのもあって、ある意味新鮮な気持ちになった。
スイーツを食べてからレイラが会計を行う。
「レイラちゃん!? 会計は私が!」
「いえ~私達が支払いますので気にしないでください~」
「…………こう自分が情けないと思ったのは人生で初めてかもしれないな」
ボソッと呟いたソアラに店員は苦笑いを浮かべた。
店を出てみんなで向かった場所は、王都の中心から少し王宮に戻るところから横にそれた道の先。
広い敷地が目立っており、中から楽しそうな子供たちの声が響いている。
レイラたちが敷地に入ると、走っていた子供たちが一斉に声を上げた。
「あ~! シアちゃんだ~!」
一人の子どもが声を上げると、みんなも「わ~い」と声を上げながら集まってきた。
「シアちゃん、レイラちゃんいらっしゃい!」
「みんな~また来たよ~!」
すっかり孤児院のみんなとも仲良くなったシアとレイラ。
中でもシアは誰とも隔てなく接することもあるし、エルフ族としても可愛らしく、みんなから大人気である。
さらにレイラは――――クウちゃんの背中に着けられた鞄の中から、大量のお菓子を取り出した。
先程の店で購入した大量のお菓子である。
「みんなでお菓子を食べてから遊びましょう」
「「「は~い!」」」
まるで引率の先生のような態度のレイラに、ソアラは思わず苦笑いをこぼした。
中にはレイラよりも年齢が上の子どももいるのに、誰よりも大人びた彼女の態度には驚くばかりだ。
頭に過るのは彼女が魔族であること。
魔族はズル賢いという言葉がある。彼らは今でも世界を裏で牛耳っており、多くの被害にあっている人も多い。
だが、レイラのやっていることや言動はソアラが思う魔族ではない。
みんなで孤児院内に入ると、シスター服装の女性が出迎えてくれる。
「シアさん。レイラさん。いらっしゃい」
レイラが知る獣人族は基本的に敵視することが多かったが、ミーアルア国での彼らはみんな穏やかで優しい気持ちになる。
シスターと何人かでお茶を用意してくれて、その間に皿にお菓子を均等に分け、みんなで食卓を囲んだ。
「「「「いただきます!」」」」
異世界では存在しない挨拶「いただきます」はシアとレイラから孤児院に広まり、言葉の響きの良さによってみんな使うようになった。
ソアラも最近では食事前に「いただきます」と言ってしまうようになった。
甘いお菓子を食べた子どもたちの美味しさにみんなが笑顔になっていく。
「レイラさん。いつもお菓子ありがとう」
「いいえ! こちらこそ、美味しいお茶をありがとうございます」
この場にいる大人にとって、物の値段や価値は十二分に知っている。レイラ自身も当然。
甘味料は異世界では価格が高い。毎日子どもたちに提供できるお菓子の量は孤児院の経営上、限られている。
獣人たちはそれぞれ見守ることはできても、援助するほど国は富みに溢れているわけじゃない。
生きる上での食材は狩りをする部隊がいるので何とかなるが、こういう調味料は中々手に入らない。
レイラがもたらしてくれるお菓子は子どもたちには大きなご馳走にもなっている。
「お菓子を食べ終わったら、また絵本を読みましょう」
「絵本! 楽しみ!」
識字率は決して高くないミーアルア国。本を読めるのはごく一部だ。
お菓子を食べ終えると、みんなリビングに集まってシスターに注目する。
シスターはみんなに向かって本を開いて、物語を話し始めた。
「昔々とある王国に、悲しい運命を持つ姫様がいました」
シスターの透き通った声がリビングに響いていく。
時折感情を入れて読むと、子どもたちがわ~っと驚いたり、声を上げたりする。
それに混じり、シアもまた目を輝かせて物語に熱中した。
シスターによる本の読み聞かせが終わると、今度はみんな外に出て走り回る。
駆けっこをする子ども、砂遊びをする子ども、木をよじ登る子ども。みんなそれぞれ楽しく遊び始める。
シアとレイラは意外にもグループが分かれており、シアは男女に混じって駆けっこを楽しみ、レイラは女子たちに交じって穏やかに遊んだ。
レイラが木々に近付くと彼女の気を引こうとしたのか、男の子たちが木に登る。
それにレイラが拍手をしてあげると、嬉しそうに照れてる男の子どもたち。
夕方まで孤児院で遊び、レイラとシアはまた王宮に戻っていった。
「レイラちゃん~今日も楽しかったね!」
「そうね。いろんな遊びがあって驚くばかりね」
「うん! 今度おじさんとアレンくんにも教えてあげたいな~」
「そうね。でも二人はまだ稽古でいっぱいいっぱいだと思うから、全部終わってからね?」
「は~い!」
王宮に戻った二人はソアラと風呂に入って食堂で待っていると、今日もまたへとへとになってやってくるアラタとアレンに手を振る。
「今日も大変だったみたいね?」
「ああ……稽古がこんなにきついとは思いもしなかった……」
「ふふっ。頑張ってね~」
「お、おう……」
まだ慣れない稽古で余裕がなくなったアラタを見上げながら、愛おしい視線を向けるレイラであった。
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