第24話 山登り

 久しぶりにテントで眠ったが、困ったことに普段なら人なんてこないと思うが、町が近いとどうしても気になるもので、ちょくちょく目が覚めた。


 こういう時、守ってくれる存在がいたらいいのになと思う。


 朝日が暗い森の中を照らして、周囲が見渡せるようになった。


 相変わらず早起きのレイラと一緒に朝食の準備を終えて、明るくなっていく森を眺めていると、アレン達も起きてきて、一緒に朝食を食べる。


 朝食は昨日のピザに続き、食パンと同じ形のパンにピザ風トーストを作った。


 もちろん、大好評だ。


 片付けが終わった頃、レイラがボーっと西側を眺めていた。


「レイラ? 何かあるのか?」


「へ? う、ううん?」


 スグラ町から出て西側にある森の中でキャンプをして、明るくなったおかげで遠くも見渡せる。


 西側には大きな山があって、より森が深くなっている感じだ。


 周りにはあまり強力そうではない魔物ばかりだが、奥の山には強そうな気配を感じる。


「なんか気になるなら向かってみるか?」


「…………うん。なんか、ちょっと不思議な感じがする」


「どの道、今日はダンジョンで狩りの予定だったし、それをしないといけないノルマもないからな。せっかくだから今日は山の方に行ってみるか。気分転換にもなるし」


 レイラだけでなく、みんな頷いた。


 エンビ里は居心地は良かったけど、スグラ町はあまり居心地が良くなかったから、開放感ある山の上に登りたい欲求があるし、みんなもそう感じているのかも知れない。


 森の中を歩き、西側を目指す。


 現れる魔物は、白い毛に覆われた五十センチくらいの大型兎。


 兎の肉は美味しいと聞いた事があるので、食べてみたこともあり、小型魔物との対戦経験のためにも狩ることに。


 他には木の上から人を襲う鷲型魔物もいて、飛んでいる時に音が静かで非常に厄介だ。強さはそれほどでもない。


 二種類の魔物を倒しながら、森をどんどん西に歩いていくと、森から遂に山になった。


 木々の数は少し減り、山登りになった場所に上がっていく。


 緩やかな坂なので大変な感じもなく、時々現れる魔物を退けながら山の上に上がって行った。


 数十分も掛からないうちに、平坦なところに着いたので後ろを向くと、森とスグラ町が一望できた。


「綺麗……」


 シアがボソッと呟く。


 この景色を見れただけで、ここに来た意味があったというものだ。


 まあ、意味を求めて来たのではないけれど……。


 その時、景色を眺めていた俺達の後方から、大きな爆発音が聞こえてきた。


 反射的に後ろを向いたが、特に何かあるわけではない。


「シア。いつでも結界を張れるようにしておいてくれ」


「うん!」


「アレンは〖身体強化〗の準備を、レイラは基本的に温存だ」


「はい!」「分かった!」


 音がした方に恐る恐る歩いて行くと、何かが戦っている・・・・・音が聞こえてきた。


 死角になっていた場所を抜けて、音がした方に視線をやると――――そこには魔物二体が戦っていた。


 一体は身長二メートルくらいありそうで白いふわふわな毛に覆われた大型犬。


 もう一体は同じくらいの大きさの大型トカゲだが、その体からは禍々しいオーラが立ち上っており、体にはトカゲの顔が二つ生えていた。


「以前戦った変な魔物だ。急いで町に――――」


 逃げようとしたその時、レイラが俺の足にしがみついた。


「あ、アラタ! お願い! あの犬を助けよう!」


「えっ!?」


「なんか……嫌な予感がするの!」


「おじさん! 私もレイラちゃんと同じく助けた方がいいと思う!」


 レイラだけでなくシアまで。


 特にシアには巫女の力があるから、その予感は大切にするべきだ。


 それにレイラだって、ここに来たがっていた張本人であるし、もしかしたら、この犬が困っていることを遠くから感じたのかも知れない。


「分かった。ただし、条件がある。三人は手を出さないでくれ。とくにレイラ。遠くから魔法ならいいと思わず、シアの結界の中で見守っててくれ」


「うん!」


「シア。全力で【防御結界】だ。アレン。もし破れそうになったら全力で二人を抱えて町まで逃げてくれ」


 シアの結界を確認して、俺は全力で〖身体強化〗を使った。

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