第18話 一番大切な人

 次の日の朝。


 顔を洗って朝食を食べに行く際、俺だけ先に行けとレイラ達に部屋から追い出されてしまった。


 子供達の分も注文して待っていると、食事が運ばれた頃にみんなも降りてきた。


「アラタ? 今日は何か用事でもあるの?」


「ん? 特にないな。ボーっと過ごす予定だから、出かけたいなら出かけて構わないぞ。ただ、町の外には出るなよ?」


「じゃあ、私達の護衛をお願いね」


「ご、護衛……?」


「だって、私達だけで歩き回って変なことに巻き込まれたら、大変でしょう?」


 それはつまり俺を盾に…………まあいっか。レイラが言う通り、子供達だけで誤解があったら大変だものな。


 食事を終えて、早速出掛けることに。


 いつもなら俺の後ろを歩くはずが、前を歩く三人の子供達も見守る。


 今日は真ん中がシアで、右がレイラ、左がアレンか。


 大通りを中心地に向かって歩いて、中央広場に到着した。


 場所までは決めていないようで、周りの屋台だったりお店を遠くから見つめたりと、三人は楽しそうに散歩を続ける。


 異世界に来てから毎日何かの目標のために頑張っていた。休みなんて碌に取らずに、自分が好きだからという理由で毎日狩りやら頑張ったけど、やっぱりこういう休日は作るべきだと少し反省。


 どこからともなく甘いタレの匂いに釣られて、子供達が向かったのは串焼きの屋台だ。


 匂いの効果は絶大のようで、それなりにお客さんで賑わっていたが、回転が速くて列は殆どできてない。


「おじさん~串四本ください~!」


「あいよ! 一本100ルクだよ~」


「銀貨しかないのでお釣りお願いします~」


「串四本はお嬢ちゃん達に、お釣り大銅貨六枚~」


「ありがとうございます~!」


 アレンがお釣りを受け取った。


「はい。これはアラタの分」


「俺にもくれるのか? ありがとう」


「当然でしょう!」


「お、おう……」


 何故怒る?


 串焼きは脂身が全くない豚肉って感じでタレは匂い通り甘くて美味しかった。子供達も顔を合わせて「美味しいね~」と言っていたが、アレンがボソッと「アラタさんが作ってくれる焼肉の方が美味しいかな?」と嬉しくもちょっと複雑な気持ちになることを呟いた。


 それから果物水を購入したり、食べ歩きを続けていると、とある店を見つけたシアが「ああ~! 見つけたよ~!」と声を上げた。


「アラタ~! 行くわよ~!」


 レイラが俺のところに走ってきて手を引っ張る。


 店の中に入ると、中から「いらっしゃいませ~」と綺麗な女性店員が出迎えてくれた。


「可愛らしいお客様ですね」


「こんにちは! おじさんと僕達の服を見繕ってください!」


「はい~かしこまりました」


「服?」


 一体何のことやらと思ったら、アレンが何か店員さんと相談をした。


「かしこまりました。では、先におじさんから始めますね~」


「えっ? 俺?」


「ふふっ。さあ、似合い服を探しますのでお任せください」


 レイラから店員さんに俺が手渡されて、奥に連れて行かれた。


 戸惑っていると、色んな衣装を持ってきては俺に当てて「う~ん。これは微妙ですね」とか「この色合いとても似合いますね」と楽しそうに話してくれた。


 愛想笑いしかできなくて、されるがままで最終的に上下から靴までフルセットを預けられ着替え室に入れられた。


 そこには俺の全身が映る鏡が設置されていて、久しぶりに自分の姿を見ることができた。


 前世ではどこにも鏡やガラスがあって、自分の姿なんてしょっちゅう見ていたけど、こうして二週間以上自分の姿を見てなかったのは驚きだ。


 というか転生して初めてか。


 顔は前世と全く変わらない。そういやひげも剃っていないのに生えてない。髪型も二週間が経っても伸びた感じはない。


 服は来ていた時と変わらず、どこにでもいそうな普通の服で、異世界のシャツって感じの無地のシャツと少しダボダボしたズボンに茶色のブーツだ。


 渡された服に着替えていく。


 脱いだ自分の体も前世と変わらない筋肉質の体だ。暫く筋トレはしていないけど、こんなに歩いているんだから太る余地は一切ないかな。


 服を着替えてもう一度鏡を見る。


 濃いめの緑色のシャツに黒色のズボンは体にフィットしてる。肘まで伸びるマントみたいな上着を着ると冒険者らしい姿に見える。珍しく帽子が内側から伸びるようで、あまり帽子機能は重要視していないマントのようだ。ベルトも下は紐で結っていたけど、新しいズボンはちゃんとベルト式になっている。少し高そうな革で出来た黒いベルトを着用する。


 うむ……! 異世界に住む人っぽい! 黒髪黒目だから異世界では珍しいけど。


 外に出ると誰もいなかった。というかみんな服を選んでいた。


「あ~アラタさん! かっこいい!」


 アレンが俺を見つけてすぐに褒めてくる。


 ちょっとこそばゆい。


「似合うなら良かった。俺も鏡を見て、かなり気に入ったよ」


「うふふ。黒髪黒目は珍しいと思いましたが、やはりその色合いは似合いますね~」


「ありがとうございます」


 次はアレンが着替えに入って、その間に俺はアレンが出てくるまで着替え室前で待機となった。


 女の子って色々気難しいな……。


 暫くして出てきたアレンは、間に合わせのみすぼらしい格好から、少年らしい格好になった。


「アレン。凄く似合ってるぞ」


「えへへ~」


 次はレイラとシアが一緒に着替え室に入って一緒に着替える。


 着替えて出てきた二人。


 シアは明るい緑色をベースにした少女らしい格好で、レイラは明るい紫色をベースにした少女らしい格好だった。顔立ちは全然違うのに、何だか姉妹のようだ。


「二人とも凄く似合ってるよ」


「「えへへ~」」


 会計をしようとしたら、店員さんから「もう会計は済んでおります」と言われた。


 間髪入れずに三人に引っ張られて店を後にして、近くの公園に連れて行かれた。


「みんな? 衣装代くらい俺が――――」


「違うの! これは私達は初めて稼いだお金なんだから、これで一番大切な人・・・・・・への贈り物なの!」


「そうですよ! もっといっぱい稼いだらもっといい服買ってあげますからね?」


「そういうことよ。素直に受け取らないと、また私達泣いちゃうわよ? ――――って、ええっ!?」


 あ……。


 三人の心からの笑顔を見ていたら……。


「えへへ~昨日泣かせたお返しだね!」


 三人が俺に抱きついてきた。

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