第6話 交渉と相場

 里の中に入ると、予想していた通り、色んな種族の亜人族に人族まで多く住んでいた。


 子供達も多くて、無邪気に走り回る姿にほっこりとする。


 一番最初に向かったのは、道具屋。場所は玄関口を守っている垂れ犬耳の衛兵さんに聞いている。


 後ろを向くと、中心にレイラが立ち、右手にアレン、左手にシアの手を握っていた。


 うんうん。この姿を見るだけでほっこりするというものだ。


 子供達と離れすぎないように歩幅を合わせて歩く。前世ではどこに行っても一人で、常に足早に歩いてたけど、子供ができるとこう歩幅とか合わせないといけなくなるんだな……。


 あれ? それにしても一時間ずっと早歩きだったのに、子供達は疲れていないのか?


「みんな、疲れてないか?」


 そう聞くとみんな口を揃えて「大丈夫」と答えた。


 道具屋に入ると、猫耳獣人年配の店主がカウンターで出迎えてくれる。


 日本のお店とはまるで違う作りになっており、商品は全てカウンターの裏。手に取ることは不可能で遠くから目で見て購入する方式だ。そのせいか店の半分以上がカウンターの裏になっている。


 早速店主と交渉を始める。


「平原に住む大きな猪の素材って買取してもらえますか?」


「グランドボアかい? それなら大歓迎だよ」


 ふむふむ。あの猪はグランドボアね。


 お肉以外の部位、革と角を取り出して並べる。


「ほお。傷も殆どついてないし、これなら買取可能だな。革はこの量なら500百ルクで、角は一本8,000ルクだ」


 革は一体から取れる量の二十分の一だったので、つまり一体で一万で、角二本で一万六千。つまり、全体足したら二万六千か。


 ぜっんぜん相場がわからん。そもそも二万で何が買えるんだ?


「アラタさん? 相場より……高め・・……だと思います……」


「ん? アレン。わかるのか?」


「は、はい……相場は全部……覚えさせられたから……」


 いつも弱気なアレンが微かに体を震わせてそう答える。これは答えるのが怖いんじゃない。相場を話さないといけない・・・・・・・・・からだ。


「そうか。そんなに覚えられてアレンは偉いな」


 頭を撫でるために手を伸ばすと、一瞬縮こまるアレン。だが手を止めることなく、優しく頭を撫でてあげた。


 最初は目を瞑っていたアレンだが、ゆっくり目を開けて俺の目をじっと見つめて来た。


 あまり得意ではないが……こういう時は笑顔で返すべきだな。


 俺が笑顔を浮かべると、アレンも少しずつ笑顔に変わった。


「店主さん。革をあと三十九枚と、角を三つ追加で買ってもらえるか?」


「大量だな? 品が足りなくて困っていたんだ。喜んで買い取らせてもらう」


 すぐに色々取り出した。


「スキル持ちかい。良いスキルを持っているんだな」


「まあ、天からの授かりものさ」


「女神様に感謝だな」


「ああ。女神様のおかげだ」


 色んな意味でな。


 素材を一つずつ入念にチェックした店主は、銀色の硬貨を五十二枚を前に出した。


「銀貨五十二枚。確認してくれ」


 銀貨一枚で1,000ルクか。


「ああ。五十二枚合ってる。店主。俺は遠くから来てまだこちらの世界に疎いが、硬貨は銀貨しかないのか?」


「ん? 珍しいな。まあ、そういう人だっているのか。硬貨は、小銅貨が1ルク、中銅貨が10ルク、大銅貨が100ルクだ。そこからは銀貨と金貨しかなくて、銀貨が1,000ルク。金貨が100,000ルクだ」


 やけに銅貨だけ種類が三種類もあるし、銀貨が1,000に対して金貨がかけ離れている。


 どの世界でも【金】というのは高価なのかも知れない。硬貨だけに。


「ありがとうよ。すまんが銀貨二枚を大銅貨に変えてくれないか?」


「いいぞ。今後また利用するなら言ってくれれば、その分銅貨を出してやる。その時の手持ち次第だが」


「ああ。少しこの里に滞在しそうだから、よろしく頼む。それと世界地図はあるか?」


「世界地図か。大陸全体のやつと、ここ南部の詳細地図が二種類ある。どちらも2,000ルクでいいぞ」


「アレン。地図は安いか?」


 アレンは首を横に振った。


「おいおい~子供を使うなんてずるいな~」


「わりぃ。こう見えてもケチなんでな」


「くっくっ。その小僧に免じて安くしてやるよ。一つ1,000ルクだ」


「買った!」


 銀貨二枚を出して地図二枚を受け取った。


「またすぐ来るよ」


「おう~」


 道具屋を出てすぐにアレンにもう一度感謝を伝えると、今度は嬉しそうに笑顔になった。


 やっぱりどの世界の子供でも笑う顔が一番だな。


 ひとまず休憩のために近くの宿屋を訪れた。


「大人一人と子供三人だが、おすすめ部屋はあるか?」


「それなら特大サイズのベッドが一つある部屋かね~」


 宿屋受付のたくましいおばさんは、手振りで大きさを説明してくれる。が、全然伝わらない。とにかく大きいのはわかった。


「その部屋で頼む。一泊いくらだ?」


「一泊3,000ルクだよ~」


「食事はあるのか?」


「一階が食堂になっていて、大人盛りは朝食300ルク、昼食500ルク、夕食は800ルク。子供は全て半額だよ~三日以上連泊してくれたら、連泊中の朝食は無料だよ~」


 さすが商売上手だな。ちゃんと一番安い朝食部分だ。


 それにしても、食事に比べて宿泊費の物価は異様に安いな?


「じゃあ、三泊分だ。今日は昼食も夕食も食べると思うのでよろしく頼む」


 そう言いながら銀貨九枚を取り出した。道具屋の雰囲気から異世界では基本的に先払いが基本のようだからな。


「あいよ~銀貨九枚確かに~これが鍵で二階の五号室だよ~」


 おばさんはちゃんと子供達を見つめて「ごゆっくり!」と声をかけてくれた。


 木製の階段を上るとギシギシって音がして、一瞬身構えてしまった。


 二階の五号室の鍵を開けて中に入ると、なるほど。大きなベッドだ。


「みんな。すぐに休んで良いからな。歩かせすぎて悪かったな」


「ううん。こんな普通だよ」


「そうそう。毎日座らせてもらえなかったからね」


「私のところもそうだった~」


 いやいや……子供を一日中歩かせるって…………いや、子供達がふと見せる仕草から何となく予想はしている。


 俺は満を持してレイラ達に事情を聞く決意をした。

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