第3話 チートスキルとキャンプと飯

 と言ったものの……食糧がないんだよな……。


 その時、平原の向こうから大きな地鳴りが聞こえてきた。


 後ろを向くと、土埃があがり、奥から大きな猪がこちらに向かって走って来る。


「で、でかっ!? いやいや、異世界からこんなに大きいのか? はあ? てか素手て勝てるもんなのか!?」


「おじさん……? 大丈夫?」


 っ……! 子供達がここにいるんだ。このまま逃げても絶対に追いつかれてしまう。


 ではこのままやられるのか? 何のために毎日辛い筋トレを頑張ったんだ?


 もし彼女ができたら悪党から守ってやるためじゃなかったのか!


 異世界に転移した時、女神様から「異世界は魔物と戦いがあるから、魔物を倒せるくらいの強さは与えておくね」と言われている。


 猪がどれだけ強いかは知らないけど、やるしかねぇ……! 俺がこの子達を守らないとこの子達は生きていけないんだ……!


「みんな。一か所にまとまっていなさい。レイラちゃん。二人をよろしく」


「えっ? 私?」


「レイラちゃんが一番冷静みたいだから、ちゃんと二人の手を繋いで見てて」


「っ…………」


 レイラちゃんが仕方なさそうに右手にアレンくんを左手にシアちゃんの手を繋いだ。


 大きな猪が目の前に来た時、俺は全力で飛び込んで猪の顔を横にぶっ殴った。


 手に伝わる生々しい感触が、俺もちゃんと生きていて、相手も生きている生物であることを自覚させてくれる。それによって、後ろにいる子供達の顔がよぎる。


 まだ彼らがどういう人生を送って来たのか、誰の子供なのかもわからない。でも俺がいなければ生きることができない三人を、俺が守らないと誰が守れるというんだ。俺がやるんだ……!


 殴られた猪は、重さを一切感じさせずにボールのように投げ飛ばされた。


 ただ地面に叩き込まれた猪は、重低音を響かせたので重さはすごくありそうだ。


「い、一撃!?」


 レイラちゃんの驚いた声が聞こえてくる。


 ん? 一撃なのか……?


「レイラちゃん? あれは倒したのか?」


「え? 見てわからない……の?」


「すまん。実は――――」


 あ、でも転移しましたと言っても伝わらないよな。


「――――遠くからここに来て、魔物を初めてみたんだ。魔物がいないところで住んでいたものだから」


「そ、そう…………えっと、その魔物の体力HPはもう0だよ」


「もしかして……見えるのか?」


 レイラちゃんはコクリと頷いた。


 そっか……レイラちゃんって魔王様だもんな。そんな特殊能力があっても不思議ではない。


 倒した猪のところにみんなで向かった。


「さて、猪を調理しようか」


「調理できるの?」


「ん~ちょっと待ってな」


 転移する前に女神様から少し教えてもらった通りにやってみる。


 心の中で【ステータス】を唱えると、俺の前に不思議な画面が現れる。ゲームのステータスウィンドウみたいな感じ。



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【ステータス】

 名  前:アラタ

 年  齢:35歳

 種  族:人 族

 加  護:大空の女神の加護


 身体能力:超級   魔法能力:超級   

 耐性能力:超級   運   :超級


【スキル】

〖身体強化〗〖耐性強化〗〖威圧〗〖手加減〗

〖解体知識〗〖解体アシスト〗


【聖痕】

〖キャンプセット〗〖食糧庫〗〖素材庫〗

〖命の鎖〗

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 よしよし、それなら使えそうだ。


「召喚、キャンプセット」


 俺の声に応えるように、目の前にキャンプセットが現れる。


 現れたのは、四人が十分に過ごせる広さの丸いタイプのテント、前方に日差しを防ぐタープとテーブルと四人分の椅子。椅子には子供でも上がりやすいように足部分に梯子ができている。


 焚き火台、バーベキューセット、調理道具、セッティング器具など、楽にキャンプできるセットもある。


「何これ……?」


「外でキャンプするための道具だよ。どうやら俺の魔素MPで作るらしいから、壊れても気にしなくて大丈夫」


 異世界ならではの魔法のようなものだ。


 魔法能力といっても中に魔力・魔素量・詠唱速度など盛り込まれているらしいが、女神様曰く、そこら辺は気合で! とのこと。深く考えるのはやめた。


 早速、解体を始める。


 スキル〖解体知識〗〖解体アシスト〗のおかげで、どういう風に解体していいかがわかる。異世界不思議だ。


 キャンプ用大型包丁を使って、すいすい切っていく。


 シアちゃんとアレンくんは、生々しい光景から視線を外した。


「アラタおじさん! 私達は何をしたらいい?」


「あ~そこの箱にある皿とか色々テーブルに出しておいて~」


「は~い!」


 シアちゃんが率先して準備を手伝ってくれる。アレンくんはおどおどしながらシアちゃんの手伝いを始めた。


 レイラちゃんはそこではなく、テントを見回ったり、ランタンを付けたり消したりして道具の確認を行っている。


 みんな同じ五歳だけど、レイラちゃんが一番機転が利くようだ。顔立ちも相まって五歳姿の大人って感じ。そういうアニメ……あったような……。


 あ……異世界に来たってことはアニメもゲームもできないのか……ちょっと残念。


 でもアニメでしか見れない魔物やらエルフ、魔族などの別種族が見れるんだからいいのかな?


 大きすぎる猪の肉はどんどん切って聖痕〖食糧庫〗の中に入れる。食糧庫はまん丸い異空間入口みたいなのが現れるので、そこに直接入れれば勝手に整理整頓される感じ。


 どうやら入口は俺にしか見えないようで、レイラちゃんも急に食材が消えて驚いていた。


 スキルのおかげで手際よく解体が終わって、早速バーベキューセットに猪お肉を食べやすい大きさに切って並べる。


 じゅ~っと焼ける音と共に香ばしいお肉の香りが広がって、俺達の腹の虫が一斉になる。


「あははは~」


 シアちゃんはそれが面白可笑しいみたいで、腹を抱えて笑い始めた。


 それに釣られてアレンくんが笑い始めて、レイラちゃんも顔が緩む。もちろん。俺も。


 猪肉のステーキが完成したので、みんなでそれぞれの席につく。


 俺の正面にはシアちゃん。俺の右手にアレンくん、左手にレイラちゃんが座る。


 お肉をみんなの皿に全て分けた。


「さあ、食べな」


 しかし、誰も食べない。


「ん? 毒とか入ってないぞ?」


「違うの」


 レイラちゃんの綺麗な黒い瞳が俺を見つめる。


「こういうのは狩った人から食べる習わしなのよ……」


「ああ、そういうことか。じゃあ、わかった。みんな。俺達は今日から――――家族だ」


「「「家族?」」」


「だって家族ってずっと一緒にいるものだろ? 家族に遠慮なんていらない。みんなで一緒に食べよう」


 俺が手を合わせると、シアちゃんが真似て手を合わせる。アレンくんとレイラちゃんも慌てて手を合わせた。


「いただきます」


「「「いただきます?」」」


「いただきますをしたら食べていいんだ。さあ、一緒に食べよう」


「「「いただきます!」」」


 素直に聞いてくれて、みんなで一緒に食べ始めた。


「美味しい~!」


「中々美味いな!」


 調味料は一切ないので、ワイルドな味だが、肉本来の旨味がぎゅっと詰まってて、とても美味しかった。


 美味しそうに食べている中、レイラちゃんだけ、目元に薄っすらと涙を浮かべていた。

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