能力

いや。いやいやいや。落ち着け俺。これは当初から分かっていたことだ。実際体験すると気持ち悪いのは確かだけど。


一度大きく息を吸って深呼吸をする。


──よし。


若干パニクっていた頭が落ち着いてきたので、改めて俺は突然生えた記憶を探る。急に来たので混乱したが、この知識はずっと待ち望んでいたものなので。


えーっと……


……


……


あー、うん。


「滅茶苦茶支援よりの能力じゃないか……」


なんか、ちょっと力が抜ける。


外見からはどんな力を持っているか予想もできなかったが、これまでのマテリアルの適合者は前衛向け、後衛向けの違いはあるにしろ攻撃能力が殆どだったっぽいけど。俺のにある能力は、攻撃向けじゃない能力が殆どだった。


マテリアル適合した時、頭に浮かんだのはヒーロー型みたいに怪物たちと殴り合う姿だったんだけどな……一応攻撃能力はあるみたいだけど……


「とにかく、EGFに連絡か」


EGFからは、能力に関する記憶を思い出したらすぐに連絡くださいと伝えられている。


それに、俺としても思い出した能力はまず試してみたい。想定外の外見だったし、能力的にも想定外だったけど、過去にヒーローに憧れた男の子(34歳)としては当然だろう。


ただ当然だけど、こんな所で能力を使うわけには行かないんだよな。大体どんな能力かはわかってるけど、想定外の何かが起こる可能性は否定できないし。後自宅じゃほぼ効果が確認できないので。


──今日が土曜日でよかった。平日だったら仕事が終わるまで悶々とする所だった。


そんな事を考えつつ、俺はベッド横に置いたスマホを取るために席を立った。


◇◆


EGFには広大な範囲の敷地を持つ訓練場が存在する。


人類を護るための力とはいえ、人智を超えた力だ。人が多く生活する場所で使うわけには行かないので。


能力を思い出した旨を連絡したところ、即座にEGFから迎えがやってきた。その迎えに従って連れてこられた場所がここである。かなりでかくて目立つ施設なので存在は知っていたが、勿論入ったのは初めてだ。


やってきた理由は勿論、能力のテストの為である。


……まぁ能力の内容を考えると、こんなクソ広いフィールドは全くいらなかったんだけど。


とにかく、変身した上で(俺の場合ただドレスに着替えただけにしか見えないが……)それぞれの能力内容と実際にテストした結果を紹介しよう。


その①:修復リペア


一番最初に浮かんだのは、回復能力だった。ある意味わかりやすく、かつ重要ともいえる能力。ただ、今の時点ではあまり必要とされていないかもしれない能力。


実は適合者って、自然治癒能力も上がってるっぽいんだよね。かつ大きな怪我をするほどの自体はこれまでほぼ発生していない。だからダメージを受けても自然回復で済んでしまっている。


とはいえ、未知の生物と戦っている以上今後もそう上手くいくとは限らない。そしてその時にはあって良かったと思う事になるだろう。そういう時がこないのがベストだけど。


なお難点としては、回復をするのには接触しないといけないということ。後述の能力も含め俺の能力は前衛向けではないので、戦闘中にこちらから回復しに行くというのは難しそうだ。


ちなみに、名称が治癒ヒールではなく修復リペアになったのは、ヒーロー型のスーツまで再生したため(たまたま訓練に来ていたヒーロー型の人が協力してくれた)だ。このスーツまで治せるというこは、マシン型の機体も修復できるのでは? ということでこの呼び名となった。今日はテストできなかったけど、ぜひ機会があれば試してみたいところだ。


後、この回復能力、確認したところ治せるのはあくまで適合者だけだった。……もし一般人にも使えるってなってたら大変な事になってただろうな、これ。


その②:障壁バリア


言葉の通り、バリアを貼る能力。周囲にドーム型のバリアを貼る事が出来る。


貼り捨て方ではなく、継続型らしい。先のヒーロー型の方に思いっきりバリアを思いっきり殴ってもらったところ、体の方にズン、とかなり重い感じが来た。多分全力で何発も殴り続けられたら立っていられなくなりそう。


EGFの職員の方の見解では、現状ではこの能力が一番有効だと言われた。ただその理由は怪物を足止めしたり攻撃を防いだりするためではなく、味方の流れ弾を防ぐためである。必要な事だとは思うけど、ちょっと切ない。


その③:光剣レイソード


現状唯一の攻撃の為の能力。能力を発動すると、体の周りに十数本の光の剣が出現する。この剣は出現後は自在で動かせる──んだけど、全部をバラバラで動かすのは現状無理!試しにやってみたんだけど荒ぶって大変な事になった。


その後、とりあえずグループ分けして何度か試してみた結果、なんとか4グループまでならある程度思った通りに動かせた。とはいえそれもまだぎこちない動きだったので、この能力に関しては当面訓練が必要だな……


ちなみに予想していたが、威力、攻撃範囲ともに他の型に比べると明らかに劣る。やはりこの型は支援型であり、この能力も自衛の為の能力っぽい気がする。


その④:祝福ブレス


簡単に行ってしまえば、味方にバフを与える能力だ。使用することで味方の防御力、攻撃力、機動力が明らかに上がった(協力:ヒーロー型の方)。修復リペアと違い距離が離れていても効果がでたので、なかなかに有効な能力な気がする。ただ現状は適合者の素の能力で充分な状況なので、修復リペアと同様で現時点ではあまり使う必要がない能力かな……


あと、発動条件がその、めんどくさいというかなんというか……この能力、とある行為を続けている間効果を発する継続型で、その行為をやめるとすぐにとは言わないけど数十秒程度で効果が切れる。長期戦だと多分くっそ使いずらい。


と、ここまでが思い出した能力だ。


そう、今のところだ。実は記憶にある限りだと、他にも能力がある感じがする。ただその記憶の辺りには霞が掛かったようになっていて、思い出せない。これは更に時間を経る事で思い出すのか、それとも他に何かきっかけが必要なのか。……ヒントが何もないので、わかりようがないけどな。


ああ、それと。一通り訓練というか検証作業が終わった後に、EGFの方から配属と型名が決定したと教えてもらった。


配属は、所属するチームの事だ。現状適合者は20前後のチームに別れ、異星人に侵略された房総半島を囲うように各地へ配備されている。その中の所属チームが決定したとのこと。明日顔合わせする事となった。


そして、新規発見の為名前のなかった俺の型名も決定した。


決定した型名は「フロイライン型」。


……いやなんでいきなりドイツ語になった?








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