第4話 捜査攪乱

「まずは事件現場の検分に行きましょう」


「もう実施済みだ」


 俺はエレノアの提案を切り捨てた。


「転移魔術を使って逃げられた。だが、奴らは周到だ。痕跡は抹消されていた」


 俺が指摘すると、エレノアは顔をしかめた。


「では、転移先に心当たりは?」


 エレノアはそんなことを訊いてきたので、俺は大げさにため息をついてみせた。


「俺は異端審問官じゃない。そんなことまで分かるか」


「そうですか。では、アルド帝国に逃げた可能性が高いですね」


 残念ながら、ハズレだ。俺は同胞たちを、三大聖地のひとつ、北方の教会直轄領、【天の滝】へと逃がしている。灯台下暗しと考えたためだ。


 勘違いしてくれるとは、都合がいいことこの上ない。


「他国なら簡単に逃げられるうえ、捜査の手も及びづらいと考えているのでしょう。それに、匿ってもらえるアテがあるのかもしれません」


 エレノアはそんな推理を披露した。


 案外勘が鈍いようで助かった。


「確かに。昨年、アルド帝国の近衛騎士団長が魔術師だと判明し、教会によって粛清されている。騎士団内に奴らの仲間がまだ残っていてもおかしくはない。受入先がないとは言い切れないな」


 俺は即興でそんな理論を組み立て、捜査の矛先をずらした。アルド帝国は隣国とはいえ、五年前まではここラシド王国と戦争していた国。当然入国審査は厳しい。


 教会の支配を快く思っていない者も多い。


 エレノアの手を煩わせるにはうってつけの場所だろう。

            ◇

 しかし、三日後。俺の予想は少し裏切られた。


「入国審査が終わりました。出立しましょう」


「な、最低でも一週間はかかると見ていたんだが……どんな手を使ったんだ?」


 アルド帝国との国境付近の宿屋で、俺は問う。


「ちょっとした伝手がありましてね。こう見えて私、顔が利くのですよ。さぁ、行きますよ」


 剣を携えたまま、エレノアは国境の門に向けて歩き出す。意外とできる奴なんだな。事務仕事をやらせれば一流になれそうだ。別に異端審問官なんかになることもなかったろうに。よほど強力なスキルでも持っているのか?


 俺は慌てて支度し、後を追った。

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