第2話 死んだはずの幼馴染

「自らの教区で暗殺事件とは。それだけの大事を起こしておいてよく平静を保っていられるな。ゼストどの」


 シグニフィカティウム総大主教はそう窘めてくる。


 総大主教といっても、まだ18の少年だ。正直なところ、威厳はない。


 教会では神からの祝福、つまり【スキル】が強力な人間から出世していく。だから、こんな経験の浅い小僧でも、三大聖地の一角たるシグニフィカティウムの総大主教になれるわけだ。


「常に冷静でなければ、また異端の魔術師どもにつけ入られます。それと、私が事件を起こしたかのような言い方はやめて頂きたい」


 俺はきっぱりと宣言する。


 もちろん、信徒に見せかけて魔術師を配置したのは俺だ。彼らに【天上式】なる魔術と、逃走用の転移魔術を授けたのも、俺だ。


 別に白を切らずとも、ここの教会を灰にすることは容易い。


 だが、神の祝福を受けた教会の異端審問官たちは、強力なスキルと戦闘技術を持っている。奴らをまとめて相手にすることになれば、確実に負ける。今はこうして教会内部に潜入し、隙を窺うのが最適だ。


「生意気な口を利くようになったものだな。まぁいい。お前もスキル持ちだろう? 魔術師団の行方を探れ。レッドフォード女史とともにな」


「共同で捜査にあたれと? 教区の信徒たちと向き合い、先日の事件で傷ついた信徒の心を癒すのが先では?」


 俺は聖職者として真っ当なことを述べてみる。もちろん、本心から言っているのではない。


「そんなことは司祭にでも任せておけばよい。根本原因たる魔術師団を壊滅させるのが先だ。王座が空き、ただでさえ王国が混乱しているのだ。内憂は早期に払拭しなければならない」


 確かに。


 今は周辺諸国からしてみれば、絶好の侵攻チャンス。混乱を収めることも必要か。


 だが、俺の所属する陽光教会の信者は、他国にも大勢いる。かの軍事大国、アルド帝国にも三大聖地のひとつ、ルーラオムがある。


 教会のトップ、【巌の聖女】様が命令すれば、各国の王は従わざるを得ない。かの聖女様から破門されることは、この大陸において村八分にされることと同義だからだ。


 なにより、教会には各国から強力なスキル持ちがスカウトされ、配属されている。軍事的にも政治的にも、他国は逆らえないのだ。


「で? そのレッドフォード女史という方は?」


「もういらしている」


 振り返ると、いつの間にか黒衣の幼女が立っていた。


 その容姿を見て、俺は少し動揺した。


 かつて10歳にして死んだはずの幼馴染、エレナに瓜二つだったからだ。

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