第五話 割と普通の昼飯事情
AGEはいろんな面で優遇されている反面、当然それに伴う義務も存在する。
いつでも緊急招集に応じられるように手元に最低限の装備を確保している事や、連絡のつく場所にいる事もその条件だ。学校に通う人間に関しては部室か教室に装備一式を用意しなきゃいけないんだが、基本的に装備類を用意するのは全部自費で、上から下まで揃えれば最低限の装備でも十万以上かかるので予備をもう一式揃えられるほど余裕のある部隊は少ない。
流石に体育の授業中にまで特殊トイガンを身に付けろとまではいわれないが、それ以外の時はハンドガン位は最低でも身に着けている。……意外に邪魔なんだよな、これ。
今は楽しい昼休み中で、俺はいつものメンツが集まって学食のテーブルで飯を食っている。
学食のメニューは比較的安く、定食系が二百五十円から五百円、ほぼ具の無いカレーが二百円、麺類が百五十円から三百五十円。霧養が食べていた唐揚げ定食が三百円で窪内が食べていた唐揚げ丼が二百五十円だ。AGE隊員だと大盛りも無料になるんだが注文カウンターで頼む必要があるんだよな。
具の入ってない素ラーメンや素うどんなどが百五十円なんだが割とそれに手を出している生徒が多く、週末や月末には半数以上の生徒が麺類を注文している。毎週末は麺類が半額だからってのもあるけど、そのほとんどはAGE活動をしている奴らだ。
「つまりAGE活動には金が掛かるっとことなんだよな~。俺たちみたいに防衛軍特殊兵装開発部の
「それは仕方ないんとちゃいます? 試作の装備を回して貰えるって聞こえはええんやけど、
「俺たちは
「
部室の奥に設置された奥の工房には旋盤やフライス盤、研磨機等の工作機械の外にマシニングセンタや最新の3Dプリンターまで揃っている。窪内がそこで必要な備品の殆どを自作してくれるから、俺たちはいつでも最高の状態で戦う事が出来るって訳だ。
窪内クラスのトイガンカスタマーは他に存在せず、高校卒業後は防衛軍特殊兵装開発部に就職する事がほぼ確定していたりもする。
「最終的に量産できるグレードで作ってるんだろう。いつも苦労を掛けるな」
「気にせんといてや~。その分もろうとるし」
「あの機械類は学校の備品とはいえ、よく揃えてくれたものだな」
「既にセミランカーだった俺を誘致するのに色々あったらしいからその一環だろ。
不動産王で知られる
全国でも三百人しかいないセミランカーが二人も入学してくるという事態に
「
「一発五百円するグレード四の弾を普段使いできる財力があればこそだな。
「それ、採算とれないっスよね?」
「
オハジキ大の
一見割に合わない行動に見えるがこの得られるポイントが重要で、ポイントを上げ続ければやがてランカーへの道が開ける。
ランキング百位以内のランカーになれば公共交通機関は無料で利用できるし、各種サービスを最優先で利用する事が可能だ。待遇もかなり良くなるし。
「ポイントを稼ぐんだったら
「その特殊ランチャーの申請が出来るのがセミランカーか、同じくらい信頼されてるAGE部隊位だからな。普通は申請を出しても却下されて終わりだ」
「あれも貴重って話でっからな。一時期横流しした部隊もあったっちゅう話でっせ」
「とりあえず何でも転売横流しする馬鹿は消えて欲しいもんだな。おかげで試作武器なんかも全部シリアル入りだ」
俺たちが使っている
潜り込んだ部隊の装備を盗んだり横流しする奴がいたからこうなったんだが、これが結構面倒なんだよな。
「特殊ランチャーは
「アレは民間防衛組織の申請ページでないと扱えない。似た様な装備を開発してるメーカーもあるけど、それを使って
「
「その可能性は高いな。正規の手順で特殊ランチャーを買えないのは実力が不足してるって事だ」
基本的に
今まで出現したGEに関しては一種類残らず登録されているので、民間防衛組織のデータベースにアクセスすれば誰でもGEの情報を見る事が出来る。だから初めて出現したGE以外は大体対策が取られているんだが……。
「おう、
実際の話、この粗暴な態度は襲われないようにする為にやっている事だし、元の性格や姿を知っている俺としては無理してこんな格好や言動をしている
付き合いの長い窪内や神坂なんかも同じ意見だ。
「
「もうちょいやったんやけど、アレ貯めとった
「可能性は高いな。ランカーとセミランカーだと待遇が違う、百位近い奴らはいろいろやってるって話さ」
上位百位以内のランカーから転落してセミランカーに落ちても元ランカーとして相応の扱いは受けられるんだが、やはりランカーよりは少し落ちるらしいしな。
特に周りに威張り散らしていた奴らなどは転落後に散々そのあたりを馬鹿にされるって話だ。
一度でもランカーに上がれるんだったら大したものだと思うが、規制前に仲間の戦果まで纏めて自分の物として報告した奴もいるしな……。
「ランカーは優遇されてるからな。
うっかり【さん】付けで呼ぼうとして言い直す所が
ランキングはAGE隊員が純粋にポイントを貯めてランクを上げていく他に、何らかの形で上の順位のランカーがAGEを脱退した場合にも自動的に上がる。不運にもGEに破れ石像に変わって戦線を離脱したAGE隊員も即座にランキングから外される……。ポイントはそのままなので復帰後に再びランクインする事もあるが、一度GEに敗れて離脱したAGEの復帰率はかなり低い。
ランキングを上げる為にも、また、上がったランキングを維持する為にも多くのGEを倒し続ける必要があり、その為に上位のランカーであればある程そのランクを維持する為に危険度が増す状況になっている。
多くのAGE隊員が危険を冒してまでランカーを目指すにはいくつもの理由があるが、その理由のうち一番大きなものが地位と名誉だ。
ランク一桁のトップランカーになれば
また、各種機関等でも最重要人物クラスの待遇を受ける事が出来、トップ以下のランカーであっても様々な審査を無条件で免除されたり、GE用の試作武器をランク外の者よりも早く入手する事が出来る。
それ以外には、ランキング外のAGE隊員には月に数個しか購入が許可されていない、
「近いうちにランカーにはなれるだろうが、俺は長くAGEに所属してるから少し有利なだけさ。大体、
「三百番台にギリギリのってるだけだ。まあ、そう簡単に四百位以下には落ちねえつもりだけどな」
「あんなやり方だと反感買う事も多いんちゃいます?」
「金でポイントを買ってるって言われてるのは承知してる。安全にポイントを稼ぐにはこれが一番だからな」
以前何度か話し合っているので
それにあのやり方が間違っている訳じゃない。防衛軍の正式装備を一式揃えるのがどれほど大変かは俺達もよく知ってるし。
「うちに来ればいいだろ? 入部テスト無しでいつでも歓迎するぞ」
「一緒に活動してるといつまで経ってもあなたに追いつけないじゃないの。バカ……」
「何か言ったか?」
「なんでもないぜ。もう少しランクを上げたら考えるさ」
もう少しランクを上げるといっても
どちらも単独ですればかなりポイントを稼げるが、流石に単独活動をしているAGEに特殊ランチャーの申請を通すほど民間防衛組織は甘くない。
「無茶だけはするなよ」
「わ……、わかっていますわ!!」
「
「だな……」
窪内や神坂は笑いを堪えながら小声で話してるな。
「ひとそれぞれだ。止めはしないが困った事があれば相談くらいしろよ」
「その時は頼むぞ」
そろそろ限界だったのか、割と急ぎ足で学食から出て行った。
無理する位だったら素直にうちの部隊に入れないいのに。
「乙女心は複雑でんな」
「
「その二人は良いが、竹中はちゃんと食ってるのか? この時間は学食にも部室にもいないだろ?」
「ゆかりんも色々抱えとるんちゃいます? AGEやっとるのは皆色々事情があるさかい」
本人からは何も聞いていないのでその事情が何かはわからない。
だれでも人に言えない悩みはあるもので、俺を含めてうちの隊員の多くはそんな事情を抱えている。
既に問題が解決した者もいるけど、簡単には何とかならない問題も多いしな。
「そろそろ教室に帰るか。特売日じゃないとはいえ、長い事食堂のテーブルを占拠するのもよくないし」
別棟で建てられているし学食というには規模がデカいんだが、それでも学食組が全員座るには席の数が少ない。
ただ、懐具合がさみしい奴らは利用しないし、自分で弁当を用意している奴や購買部でパンなどを買っている生徒もいる。
「普通の日はこんなもんでんな。十分安いと思うんやけど……」
「素うどんや素ラーメンばかり食うのは結構きついぞ」
「部隊で配った食券はもう使い切ったのか?」
「あんな枚数じゃ一週間も持つかよ。晩飯にも使ったしな」
神坂みたいに食事代をライブチケットやアイドルグッズに変える奴は仕方がないんだろうが……。
「そのあたりは少し考える。何とか出来ればいいんだがな……」
ライブに行くなというのは簡単だが、他人の趣味にまで干渉する権限はない。
食糧事情の方を何とかするしかないか。
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