第三話 ファミレスで楽しい食事を~


 この近郊の居住区域には比較的多いフランチャイズのファミリーレストラン、ドコーズ。


 全国各地にあるドコーズはAGE協賛店舗でもあり現金や電子マネーでの支払いのほか、AGE活動で入手できるポイントでの支払いが可能な便利な店だ。


「本日もAGE活動お疲れさん。おうの許可もある事やし、制限ギリギリまで頼ませてもらいまっせ」


「今日の活動だけでもファミレスでの食事程度は問題ないポイントを稼いでるからな。遠慮せずに頼んでいいぞ」


「初めから遠慮する気はないけどな。ドリンクバーとスペシャルハンバーグステーキセット辺りをいっとくか」


「流石神坂かみざかさん。デザート抜きで予算ギリギリをいくっスね」


「私はチキンステーキセットでデザートにレアチーズケーキ♪ それとドリンクバー」


 注文する時に言えばいいのにお互いに決めたメニューを言い出した。


 そして実際注文する時に別のメニューを頼むのも良くあることだった。直前に期間限定メニューとかみつけると迷うよな。


「ご注文を承りま~す」


 それぞれが思い思いのメニューを注文し、ウエイトレスが一生懸命端末に大量のメニューを入力していた。


 こうして好きな物を腹いっぱいに食えるようになったのもAGE活動のお陰だな……。


◇◇◇


 俺がAGE活動をするようになって長いが、実際には登録前からGEと戦っていたので戦歴はもっと長い。多分この辺りで一番長いんじゃないか?


 GEはピンク色の鉱石で出来た環状石ゲートから現れた、この世界に存在する生命体全ての敵。今日、俺達が戦った魔族合成動物種MIX―Aと呼ばれるタイプの他も様々な大きさや姿のGEが存在する。


 すべてのGEに共通する事は、GEに襲われた者は肉体に傷が付く事は無いが生命力そのものを奪われ、全ての生命力を奪われた者は灰色の石の像に変わると言う事と、GEを倒す事が出来れば拠点晶を砕いた時と同じ様に、【魔滅晶カオスクリスタル】と呼ばれる光る謎の鉱石が手に入る事位だった。


 環状石ゲートも含めてGEが何の目的で現れて何の目的で人類や様々な生物を襲っているのかは知る由も無かったが、襲われた人類も黙ってやられていた訳ではなかった。無駄な努力も多かったが得るものもあったしな。


 ある町にGEが攻めて来た時、建材屋の店員がせめてもの抵抗としてアルミの角材で応戦した際に他の鉄材や銃火器以上のダメージを与えられる事が発見されてアルミが武器として注目され始めた。しかし、この情報に喜んだ各国の軍がアルミを使って銃弾を作ってGEとの戦闘を行ったがアルミの銃弾などはGEに対してほとんど効果が無く、アルミのみを使用する場合はアルミを剣や槍のような形にして直接攻撃する必要がある事が分かった。


 その後、魔滅晶カオスクリスタルや様々な鉱物などによる特殊な合金が開発され、それを使った有効的な攻撃方法として、当時はホビー用であったトイガンに特殊な加工を施した特殊改造エアーガンが開発される。


 不思議な事に、その特殊改造エアーガンも一定以上に威力空気圧を上げるとGEに対して効果が弱くなり、結局はトイガンレベルの性能しか持たない特殊改造エアーガンがGEに対して人類に残された数少ない対抗手段となった。


 各国の軍が特殊改造エアーガンで武装してこの頼りない兵器でGEと戦い続けたが過去三度のGE大侵攻により人類の総人口は十分の一まで減らされ、各国の軍はほぼ壊滅してわずかに残った兵で首都を辛うじて守り抜いている様な状況だ。


 日本をはじめとする一部の国は割と地方都市も残っているが、全国に散らばる居住区域の中で辛うじて暮らしているだけに過ぎない。


 大陸に存在した国は自国に発生したGEだけでなく、滅亡した近隣の国から流れて来るGEまで対応しなければならず、最終的にGEの圧に屈して地上から姿を消している。状況が違えば多くの国がまだ残っていたんだろうがな。


 多くの都市が石像の立ち並ぶ廃墟と化し、以前は街だった場所にも無数の拠点晶ベースが生え、迫り来るGEの影は居住区の僅か数キロ先まで及んでいた。


 そんな世界情勢の中で二度目のGE大侵攻の後、首都以外の街を護る為に政府と企業が共同で出資して、民間の対GE防衛組織、通称【AGEエイジ】が誕生する。


 長い戦いで多くの人的資源戦力を失った政府はコレを認めざるを得ず、多くの少年少女たちがGEとの戦いにその身を投じていく。


 AGEは倒したGEの数、強さ、収めた魔滅晶等に応じて各地の対GE防衛組織事務所からポイントと報酬を受け取る事ができ、武器の支給や装備の強化など様々な恩恵を受ける事が出来た。


 そして、最も多くポイントを稼いだ者の上位百名は敬意をこめられて【ランカー】と呼ばれている。


 俺は十分に上位百名以内に入るポイントを稼いでいる筈なんだが、諸事情あって現在はその少し下のランクであるセミランカーだ。


◇◇◇


 運ばれてきた料理を平らげ、ドリンクバーをお替りしながらの雑談。


 日曜日の夕方とはいえ、この規模のファミレスでも満席になる事は無く、少しくらいだったらこうしているのも咎められる事は無い。


 今の学生にはファミレスでも敷居が高いし、家族連れで来るにも少々値段が高いからな。誕生日とかのイベントでもない限り連れて来てもらえることなんてないだろう。


 ランチタイムにはどのファミレスにも専用のランチメニューがお手頃価格で並んでいるので、この辺りのファミレスが込み合う時間はどっちかというと昼なんだよな……。


「そういえば、あきらはそろそろランカー入りするんじゃないか?」


「ポイント的にはそろそろでんな。今日の獲得分で行くんとちゃいます?」


「いってくれればいいんだがな。セミランカーとランカーだと結構待遇が違うんだ」


「回復剤の購入制限とかいろいろだよね。後は高純度弾の申請が通りやすいとか……」


「流石にあきらでも申請できてもしようとは思わないだろうがな。今日の食事メシをGEに食わせるようなものだぞ」


 今までも緊急用にグレード五の特殊弾を結構な量で頼んでいるけどな。


 アレでも一発千円、二発使えばちょうど今日の食事代と同じ値段だ。今まではセミランカーなんで申請してもそこまで数は回して貰えなかったが、ランカーに上がれば申請数と購入数も制限なしになるのはありがたい。


 万が一って事じゃないけど、備えておくに越した事は無いからな。


「セミランカーには支給されない物の中に、所属部隊用の共通食券が存在する。隊員十名分まで申請可能なんで、月に十日位はS特別食券が使い放題になるぞ」


「そんな特典が!! 今までも食券は支給されてたよな?」


「アレはセミランカーがいる部隊用の食券で、うちの学校でしか使えない食券だろ。支給される枚数も少ないしな」


「地味に大きいでんな。でもそれ、ランカーに学生がほとんどおらん事を知っての制度ちゃいます?」


「うちの学校でも使えるけど、協賛店だったらどこでも使用可能だ。飯くらいは好きに食わせてやろうっていうありがたい心遣いさ」


 ランカーが納品する魔滅晶カオスクリスタルは各地の対GE防衛組織から企業に売られ、総額でも百万もいかない食事代程度を出しても問題ない位に売却益は相当な額になっているという話だ。


 AGE活動には装備や弾代がかかるから、食費が浮くのを歓迎する部隊は多いのも事実だけどな。


「そういえば、ライブチケットとか娯楽系の特典もあったよな?」


「ライブチケットなんかはランカーやセミランカーに最初に告知が来て、その後で一般販売が始まるからな。蒼雲そううんが発売開始時間にスマホの前でスタンバってても、最初から最前列や前の方の席が売り切れてたカラクリだ」


「くっそ~っ!! 毎回買えないからおかしいと思ってたんだ!! ……もしかして三年くらい前にライブチケットの販売が無かった時って」


「セミランカーで転売した馬鹿がいたって話は聞いたな。今はAGE登録証で確認されるから本人以外は使用できなくなってるそうだ」


 どこでも転売する馬鹿はいるもので、誰かがやらかすたびに規制は増えていく。


 以前は代理購入が可能だったしセミランカーやランカーの部隊に所属する者にも購入権があったんだけど、そのチケットを入手する為だけに部隊に潜り込む奴がいた為にその制度も廃止された。


 俺は神坂がアイドル好きなのは知っているし、この居住区域でライブがあるたびにスマホの前で祈っているのを知っているからチケットの購入ぐらいしてやりたかったところだが、俺がセミランカーになった時には既に代理購入は禁止されてたからな……。


「頑張って蒼雲そううんはんがセミランカーに上がるほかないでんな」


「そうっスね。神坂かみざかさんだったらいけるっスよ」


「気軽に言ってくれるな……。この歳でセミランカーなのってあきらと……、後はうちの学校だと荒城くらいか?」


「その位だな。守備隊にはもう少し居るらしいけど」


「そりゃそうよね。高純度弾使って大型GEヘビータイプでも狩れば別だけど」


「俺はそこまで無謀じゃない。あきらだったらやりかねないけどな」


 大型GEヘビータイプ。十メートル以上の身体を持つ大型のGEの総称。その上に超大型GEスーパーヘビータイプも存在し、こいつらは数十メートルって大きさになるんで流石にAGEには対応できるわけがない。


 大型GEヘビータイプ産の希少魔滅晶レアカオスクリスタルも納品するとかなり高額になるんだが、AGEでこれを納品した事があるのは俺くらいらしい。


「何度か倒したが、今の装備だとギリギリだ」


「ホント、なんでお前がまだセミランカーなんだろうな?」


永遠見台高校とわみだいこうこうのGE対策部に入るまではいろんな部隊を渡り歩いていたし、単独での作戦行動も多かったからな。それに、以前は環境も悪かった」


 AGE部隊に所属しているのは学生が多いが、企業に就職せずにバイト感覚でAGE活動を続ける者も意外に多い。


 そういう部隊は規律が甘く、また、統率する部隊長の質が悪い事も多い。戦果の誤魔化しや個人所有の武器などの装備の盗難なども多く、本来討伐者が回収するはずの魔滅晶カオスクリスタルの横取りなども発生している。


 俺も十歳に登録した後でいくつも部隊を渡り歩いたが、まともな部隊長の方が少なかった位だ。それに、まともな神経をしていたらある程度稼いだ後にAGE稼業から足を洗い、溜め込んだ資金で店なんかを始める人も多かったな。


「年下だからって舐めてくる奴は多かった」


「好き勝手に頼みごとを押し付けて、感謝の言葉一つない輩も多かったでんな」


「からだ目当てで近付いてくる奴は多かったわ」


 蒼雲そううんや竹中たちも相当に苦労してきたって話だし、たつもトイガンカスタムの腕を悪用されて扱き使われてきたって聞いている。


 普通は大学進学後にAGE活動はやめて真面目に学業に励むか、腕に自信のある奴らは高校卒業後に地元の守備隊辺りに就職したりする。大学に通いながらAGE活動をする連中もいるが、嘆かわしい事に敵であるGEよりも活動する女性AGE狙いな奴も多い。男女比で女性の比率の多い近年では逆のパターンも多いけどな。


「女性AGEの多い地域だと逆も多いんだぞ」


「将来有望な才能があるAGEは大抵目ぇつけられたんとちゃいます?」


「不用意にほいほい着いていったら密室の中って事は多いよな。訓練後にシャワーとか食事とか言い出された後は特に危険だ」


「わかる……」


「それを期待してる奴もいるんだろうが、迷惑な話なのは変わらないよな」


 蒼雲そううん達もそんな状況に陥ったのは何度もあるだろう。


 いつGEに襲われて石像あんな姿に変わるか分からない現状だと、精神の安定を測るために誰かを求めるっては理解できる。……一応理解はできるんだが、手を出すときは同じ思考の相手を選んでほしいもんだ。


「そろそろ撤収するか」


「ごちんなりました」


「ご馳走さん。一食でも浮くと大きいよな」


蒼雲そううんはんはライブチケット代を食事に回したらいいんとちゃいます?」


「心にも栄養が必要だ。蒼雲そううんにはそれがライブって事だろ」


「流石はあきら。付き合いが長いだけあるな」


 それでも今の相場だとライブチケット一枚でも席の列次第で結構する。


 最前列のチケットはランカーやセミランカー、それに関係者が買占めてるから買える事は無いけど確か二十万円位したはず。


 今は移動手段も限られているし、居住区域間を移動するのも大変なんでどの席でも高額だって話だ。一番安くても数万円した気がする。


 個人の趣味に口をはさむつもりもないし、ライブが蒼雲そううんにとっては重要な事なのはわかるが、食費を削るのはマジで辞めた方がいと思うぞ。


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